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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第六章です、お嬢様 決めちゃってください
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第五話 夢は叶う

 コアハード王国よりはるか北方。密林と砂漠と豊かな森が均等に混ざり合った土地。


 そこにある一際大きな大樹の麓。男は昏く沈んだ意識をゆっくりと浮上させる。


「う……っく……ごご、ヴぁ……?」


 体を動かそうにもピクリともしない。


 男の最後の記憶は闇に飲まれた時。


 己がどうしてここにいるかは分からない。分かるのは、シャルロットに負けたのだということのみ。


 三嫌人はどうなったのか。


 己が生きているのなら、あの三人も殺されてはいないような気がする。


 剣を交えたのはほんの僅かだが、シャルロットの剣には殺意がなく、ある種の〝穢れ〟のようなものを一切感じなかった。


 その姫の部下も同様に、安易な『殺し』という選択をとらないように思える。


 殺さないということはすなわち、それだけの戦力差があるということでもあるのだが。


 いずれにしても男はこれからのことを考えるために、現状を分析する。


 見たことのない木。感じたことのない空気。帝国にある自然とはその趣を異にする自然。


 どれほどそうしていただろうか。右腕が少し動かせるようになると、ふと、包帯が巻かれていることに気づく。


 一体だれがしてくれたのか。


 王国の人間であっても、帝国から来た男の顔を知っているものは多くはない。


 騙すのは心苦しいものがあるが、いまはそうもいっていられない状況だ。なるべく最速で最低限の体力を取り戻し、仲間の安否を確認せねばならない。


 己を捨て駒のように扱った皇帝の真意も確認せねばならない。


 万が一、我が子を子としてすら思ってもいないようなら、それなりの対応をしなければならないからだ。


 そこまで考えて、男の意識は再び暗転していく。


 ――暖かい。


 後頭部に懐かしい暖かさと、鼻先に甘い匂いを感じながら、男は微睡から緩やかに覚醒していく。


「…………ん、ううん……」


 瞼には柔らかい光と、一つの影が映っている。


「あ? 目が覚めましたぁ? よかったぁ! 死んじゃったのかなって心配してたんですよぉ」


 溌剌としながらもどこか間延びした声だ。


 王都近郊の村人にでも助けられたか、と思いながら瞼を開けるとそこには――、


「わぁ! すっごい綺麗な瞳ぃ! お兄さん人間ですよねぇ? 人間って初めて見たから感動するぅぅっ」


 狐のような耳が特徴的な少女の顔があった。


「――――ッ」


 思わず目を見開く男。


「あっ、大丈夫だから! わたしは敵じゃないよぉ。だから落ち着いて? 大丈ぉ夫、大丈ぉ夫」


 驚く男を宥めるために、男の髪を優しく撫で、努めて優しい声をかける少女。


 しばらくして落ち着いた男は、なんとか声を出そうと努力する。


「……ヴ……ヴォレ……ば……」

「無理しなくていいよぉ。なにがあったか知らないけれど、お兄さん、すっごいボロボロだったんだよぉ?」


 赤子を寝かす母のように、男の胸を優しくぽんぽんと叩く。


 よく見ると、少女の顔の向きからして膝枕をされているようだった。


 しかし少女の優しさに甘えるわけにはいかない。


「――ボッ……ボレ……は……!」


 ――仲間の安否を確認せねばならないのだッ。


「……おッ……おれ……は……ッッ」


 ――皇帝に真意を問いたださねばならないのだッ。


「……お……れはッ!」

「いいよぉ。わたしはちゃぁんと待ってあげるからぁ、ゆっくり話してぇ?」


 慈愛の顔に満ちた少女。その顔にこれ以上ないほど瞳を吊り上げて男は宣言する。


「俺は――」


 辛うじて動く右手を少女の手の上に重ねる。


 血が滲むが気にしない。今は痛みも感じないのだ。


「俺はッ! ここに住むぅぅぅぅぅ…………ッ!!」


 男、喉から血を吐きながら大絶叫。


 男の言葉に一瞬驚いた様子の少女だが、すぐに慈愛の顔に戻る。


「うんっ! すぐに追い出すようならはじめっから看病してないよぉ。せめて体が治るまではここで暮らそうねぇ」


 男は落涙する。


 それは少女の慈悲の心に触れただけではない。


 ――獣耳と仲良くすること。


 それが男――ファウロス・セントガイアの夢だったからだ。


「うんッ! うん……ッ!!」


 涙で顔を濡らしながら何度も何度も首肯するファウロス。


「じゃ、まずは水をゆっくりと飲んでみよっかぁ――」


 ここは獣王、樹王、槌王の三人の王が支配する領域――混成国家群。


 北が誇る世界樹の麓でファウロスは夢を叶えたのだった。

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