第三話 王都上空決戦
「……クカカ……。これはシャレにならねェなァ……。神の力を振るうのではなく、己自らが神の位階まで上がるか……」
額に汗を浮かべ、蟀谷をぴくぴくと鳴動させ、頬が引きつっているベリアル。
周章狼狽しているベリアルを歯牙にもかけず、シャルロットは右手に持った剣を逆手に持ち替え足元の空に突き刺す。
すると突き刺した剣を中心に大空に波紋が広がる。
その波紋は八十の怪物たちにも及び――、
「――――〈剣閃の輪舞〉――――」
シャルロットが口を開いたときには、瞬きの内に怪物がすべて細切れになっていた。
「グッ……ヴァッッ!?」
もちろんベリアルとて例外ではない。炭化しているところは塵と化し、生身の部分も切り刻まれる。
「……たしかにあなたが呼び出した怪物たちは凶悪かもしれないわ」
剣を引き抜きながら、でもね、とシャルロット。
「所詮は枠内の話。理の枠から外れたわたくしの敵ではないわ――もちろんあなたもね」
無事な方の手を己の顔面に当て、ベリアルは口惜しそうに言葉を漏らす。
「……何をしたァ……? ただの波紋でしかなかったぞ。魔力も剣気も感じなかった」
「言ったじゃない、〈剣閃の輪舞〉だと。神の位階まで上がったわたくしの存在は、元の世界に刻み込まれ、反発し、拒絶され、認めさせる――幾度もね。それを応用した技よ。わたくしの斬撃を世界と反発させ、凝縮し、相手に刻み付ける」
後ろ髪を払いながらシャルロットが説明を続ける。
「魔力も剣気も感じ取れなかったのは、存在としての格が違うからよ――文字通りね」
シャルロットの説明に、クッ、と奥歯を噛むベリアル。
「……剣神や皇太子のような生物としての限界を超えたものが『超越者』。しかしおめェのそれは違う。〝限界〟ではなく〝存在〟としての壁を越えしものだァ……」
「だから今言ったじゃない。もう意識が朦朧としているのかしらね」
シャルロットが剣を両手で持ち、大きく振りかぶる。
魔力なのか、剣気なのか。
白銀のオーラが剣から溢れ、天を分かつ極光の刀身と化す。
アンテロスが張った『死の運命を捻じ曲げる結界』が、ガラスのような音を伴って割れる。
その光景を見ながらベリアルがポツリと漏らす。
「……ああ、終わりだ――おめェがなァァァァァァァァァッッ!!!!」
声と同時にもう一人のベリアルがシャルロットの背後に現れる。
「オレも言ったよなァ! 〈悪徳〉の悪魔だと! 詐術も裏切りもオレの存在理由さッ」
なけなしの魔力では神には対抗できない。
ゆえに塵と化した八十の怪物から魔力を回収し、集束し、圧縮させ、奥義を発動するベリアル。
「――――――――――〈闇継分死磔架〉ァァ……ッ!」
禍々しい闇の十字架がシャルロットに襲い掛かる。
しかしそれに動じず、振り向きもせず答える。
「わたくしも言ったわよね――信じているって」
その言葉と同時にシャルロットの背後に一つの影が現れる。
「――――竹の舞、明鏡残波ぁぁぁ!!」
その正体はアオイだった。
剣気を広げ、楯のようにしてベリアルの攻撃を防ぎ、跳ね返す!
しかしその代償にアオイの刀が砕け散る。
「なッ!? 誰だおめェェェェェェ……!!??」
跳ね返ってきた己の技に飲み込まれながらベリアルが叫ぶ。
「わらわはアオイっ。火の国より罷り越したる巫女にして――シャルの友なり!」
王宮の一番高い尖塔から跳躍し、シャルロットの背後を守ったアオイ。
シャルロットも表情を緩める。
「シャルよっ! 王都はあらかた片付いた! あとはお主だけよっ! ていうかどうして浮いていられるのじゃぁぁぁ」
のじゃぁぁぁぁ。
……のじゃぁぁぁぁ。
…………のじゃぁぁぁぁ。
ベリアルの攻撃を決死の覚悟で防いだアオイが叫びながら地面に向かって落ちていく。
玉座にはヤギューがいる。娘のことを愛する彼ならばなんとかして抱きとめるだろう。
王都の帝国兵も侍や王国兵、獣王の配下が抑え、王都の外に駐屯していた帝国本国兵はヤギューが粉砕した。
化け物と化したバプティストを倒し、ファウロスが率いる幹部――三嫌人――も打倒した様子。
闇に覆われた空を晴天に変え、曇りがちな民の顔を晴れやかなものにする。
そして失われた王国を、奪われた玉座を取り戻す。
帝国の脅威を払いのけるべく、シャルロットはベリアルに対峙する。
すでに己の魔法で自傷しているベリアルだが、その存在は確かにこの世界に影響を与えている。
これ以上、顕現させるわけにはいかない。
両の手に力を籠める。
一歩足を踏み出す。
大きく肺を膨らませ息を吸い込む。
極光の聖なる神の刃を振り下ろす!
「――決めちゃってください、お嬢様」
はるか下の玉座から、信頼を寄せる従者からの激励が聞こえた気がする。
白い歯を浮かべ、姫は聖句を高らかに謳う。
「――――――――――〈奇跡の星雨・破邪の聖剣〉――――――――――」
巨大すぎる聖剣は、もはや音を置き去りにして天を分かち、闇を払い、世界に姫の存在を刻み込んでいく。
「クソがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
ベリアルの断末魔が王都上空にまき散らされる。
しかし次第に声は小さくなっていき、最後には闇が払われる。
黒い残滓となったナニカが北の方に飛ばされていくのがシャルロットには見えたが、すでに悪魔の気配は感じない。視線を切り、力を抑えていく。
極光が消え、空は澄み渡り、自然が奏でる音が世界に響く。
王都を見下ろすと、火災による黒煙や土煙が散見される。
されど、誰も彼もが空を、輝く姫を見上げている。
闇は消え、空は晴れた。
シャルロットは両手を広げ、凱旋を知らせる。
「――愛する民よ! たった今、諸悪の根源を打ち取ったわっ」
一拍の静寂。その後、
「「「「「――うおおおおおおおおおおおおっっ」」」」」
王都中が震えるほどの大歓声が沸き上がる。
「暗く、鬱屈した日々は今日で終わりっ! よくぞ一年もの間耐えてくれたわね! 明日からはっ、あの懐かしき愛と笑いとちょっぴりスケベな王国が始まるわ!」
抑えた神の力、その一端を祝福として王都に降らすシャルロット。
それは煌めく一粒の星。それが雨のように王都に降り注ぐ。
姫が民に向けた感謝と謝罪の奇跡。
建物が元に戻り、怪我が治る――なんてことはない。しかしちょっぴり運が上がるもの。
星の雨を降らせた姫は満足し、煌びやかさを緩やかに喪失させながら玉座に向かって降りていく。
国を賭けた戦いは、シャルロットの勝利で幕を下ろした。
――王都上空の決戦
ファウロス改メ悪魔の王ベリアル
対
コアハード王国王女シャルロット・コアハード
勝者、シャルロット・コアハード。
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