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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第六章です、お嬢様 決めちゃってください
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第二話 神の位階

 王宮は王国で最も高い建造物である。


 その上層に位置する玉座よりもはるかに高い場所――王都上空。


 暗雲立ち込める天にて、シャルロットとベリアルは干戈の音を鳴らしていた。


「はぁっ……はぁっ! 剛剣の使い手のように見えて柔剣、その逆もある――ねちっこい剣技ね! あなた!」


 息を切らし、唾を飛ばしながら文句を垂れるシャルロット。


「クカカカッ! それが悪魔ってもんよ! 欺いてナンボ。特にオレは〈悪徳〉を司る悪魔の王だからなァ。欺瞞も虚飾も詐術も裏切りもなんでもするさッ」

「むぅ! まだわたくしは女王にすらなっていないのに、むかつくわね!」

「クカッ。ずいぶんと自信家のようだが――それも頷ける力だ。すでに人の枠を超えた剣技。『神』を常時召喚できるだけの魔力。確かに強ェ。皇帝が恐れるわけだ」

「そういうあなたはなに? 悪魔の王なのに皇帝には従うの?」


 切らした息を戻すために少しでも時間稼ぎをする。


「クカカ! そうだな! 悪魔の世界も縦割りでなァ、いろいろあるのさ!」

「…………」


 本当に欺くのが存在理由なのだろう。


 嘘偽りのない――嘘。


 だがシャルロットにはわかる。


「なるほど――ひょっとして皇帝が魔神とやらなのかしら?」

「…………クカカ」


 ベリアルの飄々とした態度に剣呑さが混じる。


「あら? 欺瞞を司るのでしょう? 態度に出てるわよ――まだまだね」

「クカカカッッ!! そうだなァ! 久しぶりの顕現で浮かれてたようだァ」


 ひとしきり高笑いした後、ベリアルは一転して真顔になる。


「……遊びが過ぎた。来いよ――〈アグリッパ〉ァァァァァ!!!」


 剣先で自身の真上、何もない空に一筋の剣線を描くベリアル。


「――っ」


 するとまるで空間に切れ目が入ったかのように空が割れ、漆黒の中から燃える戦車が現れる。


 車輪には棘が、前面には磔にされた人のようなモノ、側面には無数の髑髏が備えられ、戦車全体が青白く燃え盛っている。


「……あなたの趣味の悪さが伺えるわね」

「おいおい。こいつのカッコよさが分からねェなんておめェ――処女か?」

「そうよ? 清廉潔白で美しいで――しょっ!」


 小休止は終わった。


 戦車に乗り込んだベリアルに向かって高速の刺突を繰り出すシャルロット。


「クカカッ」

「え?」


 しかしその攻撃はすり抜けてしまう。


 まるで蜃気楼に突き刺したかのような感覚。


 振り向くとそこには、幾人にも分身したベリアルの姿。そのすべてに魔力を感じる。


「欺瞞と虚飾……か。悪魔っていうのも伊達じゃないのね。一応これ、聖属性なんだけど?」


 シャルロットが己の武器を軽く持ち上げる。


「格が違ェのさ!」

「――っ!?」


 いうや否や、分身した戦車すべてから青白い炎線が放射される。


 幸い分身は横一列になっていたので、攻撃は二次元的にすぎなかった。ゆえに軽く上に飛ぶことで攻撃を躱す。


 そのままシャルロットは剣を横なぎに振るう。


「――一の太刀、春霞」


 それは剣神ヤギューのものとなんら遜色はない代物。


 白銀の飛ぶ斬撃は、一条の聖なる浄化の風となってベリアルを襲う。


 一台の戦車と一人のベリアルだけを残し、その他は霞のように霧となって消える。


「見つけた! あんたが本体ね!」

「クカカ!」


 本体を見つけたことで勝機を見出したかのように思えたが、ニマァとしたベリアルの笑みに寒気を覚える。不意に頭上に嫌な予感。すぐさま剣を上に構える。


 ガゴォォン!!


「くうっ!」

「クッカカカッ! よく気づいたな処女姫ェ!」


 衝撃に耐えながら上を向くと、そこにはベリアル本体の姿。アグリッパに乗ったまま突撃してきたのだ。


 上空ゆえ踏ん張りがきかないシャルが王宮に向かって落ちていく。


 それを見過ごすほどベリアルは甘くはなかった。


「クカ! これはどうだァ? 避けたら玉座まで一直線だぜェ」

「…………」


 落ちながらシャルは地面の方を横目で見る。


 どうやら他の敵は倒したようで己が誇る臣下が集まっている。


 ならば――残すは目の前の敵のみ!


 剣を振り、その遠心力に従って勢いを殺し、そのまま不規則な動きでベリアルに肉薄する。


「クカカ! 玉座は守らなくていいみたいだなァ!」


 ベリアルの視線の先にはシャルロットではなく玉座のみ。


 再び幾人にも分身し、複数の青白い炎線が絡み合いながら玉座に向けて放たれる。


 しかしそれを意に介さないシャルロット。


 柄を握った手とは反対の手で切っ先を掴み、振り下ろしを溜める。ベリアルよりも高い位置まで飛び上がり斬撃を叩きこもうとする。


「クカカカカカッ! 間に合わねェよ! 臣下を見殺すにするお姫様ァァ!!」

「いいえ、わたくしは信じているわ」


 シャルロットのその言葉と同時に、玉座に向かっていった炎線の一切が掻き消された。


「――――――なッ!?」


 驚愕するベリアルの脳天に溜めを解放した渾身の斬撃を振るう。


「――二の太刀、夏紅天・裏」


 それは剣神の振るう太陽の降臨にあらず。


 本来放出される太陽のごとき熱量を刃先のみに集束し、斬撃が対象と衝突した際に、そのすべてのエネルギーを叩きこむ技であった。


「グ……オオオオオオォォォォォォォ……………………ッッッ!!!???」


 ベリアルの断末魔が大空に響き渡る。


 内部から焼き尽くされていくベリアルを横目に、玉座に向かって降りていく。


 そうして声を玉座にいるある人物に投げる。


「やってくれると信じていたわよ――ヤギューっ」


 シャルの視線の先には、ルードの頭をがさつに撫でているヤギューの姿があった。


「へへ。儂は姫さんの盾でもあるからな」

「むっふっふ! これはちゃぁんとご褒美をあげないとよね!」


 ニマニマとするシャルだが、鋭い声をあげる者がいた。


「――お嬢様! 気を抜かないでくださいっ。まだですっ!」


 声の主はアンテロスだった。


 バッと上空を睨むシャル。


 そこには体を焼かれながらも不気味に笑っているベリアルがいた。


「……ック……カカ……クカカカッ」

「……しぶとい男はベッドの上だけにしておいた方がよろしくてよ?」

「カッ。処女の姫が一丁前に閨を語るんじャねェよ」


 体の半分を炭化させながらも、ベリアルは魔力を放出し大技を繰り出してくる。


「――――〈八十獄軍(やそのごくぐん)竜龕扉(りゅうがんのとびら)〉――――」


 ベリアルがそう口にすると、背後に黒い異様な扉が現出する。


 ――その数、八十。


 ギイィ……と銘々の扉が開き、


「「「「「ギュオオオオオッ」」」」」

「「「「「ブモォォォォッ」」」」」


 一体一体がベヒモスに勝るとも劣らない怪物が次々と姿を現した!


「……うそだろ、おい……ッ」


 ルードの絶望に満ちた声がなぜかやけに大きく聞こえた。


「……クカッ。言っただろ、〈悪徳〉を司る悪魔の『王』だと。オレは八十の軍団を抱えている。オレ以上の勢力はパイモンとベレトの二王のみ」


 つまりッ、とベリアルが炭化した体を崩壊させながら喉を振るわせる。


「魔神配下の中でもオレは最高戦力! いくら神を召喚させようとも、〝神の位階〟に到達しえないおめェじャあオレには勝てねェのさッ!!」

「………………っ」


 誰かの歯を食いしばる音が鳴る。


 絶望が王都の空を覆う。


 しかしシャルロットの表情には絶望の欠片もなかった。


「――アンっ」

「……はい、お嬢様」


 シャルの呼び声に応じ、アンテロスがすっくと立ちあがる。


「わたくしは魔神とか悪魔とかよくわからないわ」

「はい」

「でも契約に従い、〝全力を出さず〟に戦ってきた」

「承知いたしております」

「決して自己のためではなく、国のためによ」

「まったくもってその通りでございます」

「その上で問うわ――誓約は如何に」


 一瞬瞠目するアンテロス。しかしそれは刹那であった。


 いつも以上に凛々しい顔を主君に向ける。


「――お嬢様、これは世界の危機に相当します。〝全力で〟その悪魔を屠ってください」


 その言葉に口角をこれ以上ないほど釣り上げるシャルロット。


「その言葉――待ってたわっ!」


 ギュンっとベリアルと同じ高さまで飛び上がるシャルロット。


 右手に持った剣を高く振りかざす。


「――――――誓いを此処にっ」


 シャルロットが世界に己を刻み込もうとする。


 魔力を全力で放出させる。


 するとシャルロットの四肢に黄金の鎖が巻き付いているのが浮かび上がる。


「――我は闇を払う者」


 パキィンと左足の鎖が砕けて外れる。


「――我は安寧を求める者」


 同様に右足の鎖が外れる。


「――我は女王となる者」


 次は左腕。


「――我は…………運命を覆す者っ!」


 最後に右腕の鎖が外れる。


 シャルロットを中心に世界が揺れる。


 世界に向けて祝詞を奏上する。


誓約(セーマ)――解放」


 光が満ちる。


 世界から音が消える。


 人々からは五感が消え、そこには感動も失望もない。


 ただあるのは――シャルロットという存在のみ。


 ……光が晴れる。


 王都の空に重く圧し掛かっていた暗雲はひとつ残らず消え失せている。


 祝福の鐘の音が世界に満ちる。


「――――〈美姫顕揚の光臨〉――――」


 ――そこには美の神が優雅に佇んでいた。


 ピンクゴールドの髪は一本一本が金糸でできているかのような輝きを、


 サファイヤの瞳はまさに宝石のごとく、


 星を香水のように振りまいたかのような煌めきを帯びて、


 シャルロットは〝神の位階〟へと到達した。

お読みいただき、ありがとうございます!


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