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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第六章です、お嬢様 決めちゃってください
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第一話 三重奏

 戦いの場を玉座から空中へと変えたシャルロットとベリアル。


 しかしアンテロスとベヒモスの戦いは依然として玉座で行われていた。


 ……隅で怯えているルードも依然玉座にいた。


「やべぇって! マジでやべぇよ! シャルとアンさんがサクッと倒して終わりじゃねぇのかよ! なんか王様は化け物になるし、皇子も気味悪くなるし……! 商人の俺、場違いすぎだろっ!」


 しゃがみ込み、耳に手を当てながら震えているルード。


 護身用でシャルが投げてきた剣は一応手元に置いてはいるが、剣など振るったことがないルードには無用の長物。


 無難に戦いが終わるまでは隅っこで貝になっておこうと決め込む。


 しかし視線の先には、お尻の大きなアンが化け物と戦い苦戦している姿がある。


「……くそッ! 俺は商人だぞ! この三か月、しっかりと仕事は果たした! 俺は頑張ったんだ!」


 口ではそういうものの、神秘的な姿になったアンが心配でならない。


 ――分かっているのだ。


 シャルがツッコミで投げた剣が、ルードに渡すためであったことを。


 シャルのウィンクが、色目ではなくアンの力になってやってくれという意味であることも。


 奔放でエッチな知識が豊富な友は――その実この国の姫であった。


 だが彼女は、王族と平民の関係性を望んでいるのではない。ルードに若干の邪な気持ちがありつつも、対等な関係を望んでいることを。


 ――うれしかった。


 己の身を案じてくれたことが。


 己の命の恩人を助けてくれたことが。


 己を信じて大命を任されたことが。


 シャルの笑顔が、アンの怜悧な顔が、セラの怒った顔が、酒場の常連客の酔った顔が脳裏をよぎる。


 みんな苦しんだんだ。元の王国に戻るには、この戦いでシャルたちが勝たなければならない。


 そしてなによりも――ルードにはアンを助ける理由がある。


 手を耳から放し剣を握る。震えているのは気にしない。


 足腰に力を入れる。腰が引けているのは気にしない。


 歯を食いしばる。涙が流れるのは気にしない。


「……シャルの奴、覚えていやがれよ。この戦いが終わったら絶対おっぱいの一つぐらい揉んでやるッ!」


 駆ける!


 剣を振るったことがなくとも、振るい方ぐらいはわかる。上から下に思い切り振り下ろせばいいのだ。


「うおおおおおぉぉぉぉぉ………………ッッ!!!!!」

「――っ! ルード様!?」


 ベヒモスの噛みつきを幾度も防いでいたアンだが、横からの攻撃を防いだ時に体勢が大きく崩れた。そこを蛇の頭をした尻尾が絡みつき、その身を拘束されていた。


 こんな化け物倒せるわけがないのだ。しかし尻尾だけでも切り落とすことができれば、再びアンが戦うことができるだろう。


 たった一撃。それしかできないが、それで許してほしい。なにせこっちはただの商人なのだから。


 緊迫感と殺気に満ちた玉座の一角。遠くそんなことを考えながらルードは這うように駆け、剣を振り下ろす。


「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………ッッッ!!!」


 キィィィィィィンッ!!


 しかし現実は甘くはなかった――。


「――――!? やっぱそううまくはいかねぇか……」


 火花が散る。


 振り下ろした剣は尻尾の鱗に強く弾かれた。


「――ルード様! 逃げてくださいっ」


 ベヒモスの噛みつきが怖いので、アンの顔を見ることにする。


「へへ。王都を出るとき助けてもらったんで、そのお返しっす。これで勘弁してください」


 ぎこちない笑みを浮かべて述べる。


 そう。決して揺れるお尻に惹かれたのではない。


 王都を出るときに襲撃された折、アンは助けてくれた。

 これはそのお返しなのだ。


 明確な死の気配を感じながら、来るべき未来を覚悟し目を瞑る。


 すると声が聞こえてくる。


「――あらぁん! 身を挺して戦いに割り込むその覚悟! ワタシ大好きよぉん!!」

「ん! 心のつよさもまたつよさだって姫様がいってた」

「いいじゃんいいじゃん! ナイスタイミングっしょ! テンション上げてこ~♪」

「…………ほえ?」


 声は上から聞こえてきた。ゆえに顔を上に向けると、


 ――そこには上裸の変態とお肉を齧っている猫の獣人とギャルがいた。


「助けにきったわよー!」


 ドゴッ! と大気を揺らすほどの音を伴う打撃をベヒモスの脳天に突き刺すローゼリア。


「はやく終わらしてごはんたべる!」


 骨付き肉を片手に、強烈な踵落としをベヒモスの胴体に叩きつけるドリアーヌ。


「シシシっ。ギャルは遅れて登場するのが常っしょ☆」


 前に突き出したギャルピースの人差し指と中指を閉じることで、魔力の斬撃を生み出し尻尾を断ち切るティファニー。


「GYUOOOO………………ッッッ!?」


 意識外からの攻撃によってダメージを負ったベヒモスが地面に倒れ藻掻いている。


「た、助かった……のか?」


 目を見開き、まだ命が続いていることを確認するルード。


「あなた姫様のお友達でしょう? いいわいいわ! やっぱり男の子は奮い立たなくちゃネ」

「キャ~! 勃つとかローゼちゃんえっちー♪」

「?? しっぽは立つよ?」


 変態たちの登場によって一気にカオスと化す玉座。


 弛緩した空気の中、言葉を発するは尾から脱したアンだ。


「助かりました――お三方」

「いいのよん! アンテロスでしょ? なにかしたの。命を救われたのはこっちだから気にしないでん」

「……ん。じつぞーときょこーに苦戦しているところを助けられた。ありがと」

「ありり? なんかドリちゃん賢くなった?」

「えへん、あたしだってせいちょーする」


 ベヒモスが体勢を整えている間にアンが現状を説明する。


「お嬢様は悪魔に体を乗っ取られたファウロスと空で戦っています」

「……悪魔、か」


 ティファニーが険しい顔をするがそれには触れずに二の句を継ぐ。


「そして眼前の化け物はベヒモス――暴食の悪魔です。その皮膚は鋼よりも堅いですが、衝撃は通りますので、そちらの方向でお願いします」

「……アンテロスは?」

  

 とドリアーヌが訊く。


「すみませんが大規模概念魔法を広範囲に展開しておりますので、力になれそうにありません。完璧メイドのアンテロスちゃんはただいまポンコツです」

「いいわ。ならそのまま魔法を維持してて頂戴。ワタシたちで化け物を倒すワ」

「お願いします。では打撃メインで――」


 アンテロスがそう言おうとした瞬間、


「――どーんっ♪」


 ティファニーが極大の黒炎を放つ。


「へへっ。悪魔には地獄の業火ってね☆」


 ふふん、と鼻を高くするティファニー。しかし、アンが指摘する。


「あ、ちなみに魔法攻撃は胃に収めてから反撃してきますので」

「へ?」


 業火の熱線をその口に収めるベヒモス。次の瞬間、轟ッ! とティファニーの放った魔法が更なる威力を上乗せして跳ね返ってくる。


「ちょっとティファちゃぁん……!?」

「メンゴメンゴ!」


 片目を閉じながら申し訳ない様子で右人差し指を上に向けるティファニー。


 業火はそのまま上に弾け飛び――、


 ドッガァァァン!!!!!!!!!


 と玉座の天井を吹き飛ばした。


「ちょぉぉぉぉっとぉぉぉぉぉぉ!!??」

「……あ、これはマジでメンゴの件だわ」

「……はは……もう理解が追い付かねぇや……」


 見晴らしの良くなった玉座にて遠い目をするルード。


「GURUゥ……RURUゥぅ……」


 ダメージを与えられたことでローゼリアたちを敵として認識したベヒモスは、ヤギのような角に魔力を籠め始める。


「あの角に魔力が溜まると雷撃が縦横無尽に散布されますので、それまでに倒してください。アンテロスちゃんは疲れました」


 ふー、とルードの横で膝を寝かして床に座るアンテロス。


「だ、大丈夫っすか?」

「ええ、結構力を使っているので疲労感がすさまじいですね。もうルード様が戦うこともないでしょう。私の肩を揉んでください」

「え……?」


 この状況で? という思いと、本当に触れてもいいの? という思いが交錯する。


「その顔は肩が凝るほど胸がないだろって思ってますね。ぷんぷんっ」

「いやいやそんなッ」


 つーんとした顔をするので速やかにアンの後ろに回り、肩を揉む。


 肩を揉まれながらアンがポツリと漏らす。


「……先ほどはありがとうございました」

「いえ……本当にただの恩返し的なものだったんで――気にしないでください」


 話はそれで終わった。局面はベヒモス打倒に傾いていた。


「いい? ワタシが鞭であの巨体の動きを止めるワ。その隙にドリーちゃんとティファちゃんで仕留めて頂戴」

「ん! がんばる」

「おけまる~」


 息の合った三人は、特に合図を出すこともなく攻撃に転ずる。


「にゃんッ!」


 とベヒモスの眼前に飛び出したドリアーヌが柏手を打つ――いわゆる猫だましである。


 一瞬瞼を閉じた隙にドリアーヌは玉座の天井があった場所よりも高く飛ぶ。


 ベヒモスが再度眼瞼を挙上した時には上裸の変態しか映らない。


「縛られるのも好きだけどぉ、縛るのも好きなの――ワタシ」


 茨の鞭先をくるくると回転させる。それはパンッパンッと断続的な破裂音を伴って加速していく。


「〈ロマンス鞭術――むっち鞭ボディの舞〉」

「ギャ……GAッッ……!?」


 回転させた鞭先を床に中てることで、鞭が床を乱反射しながらベヒモスに向かっていき、その体を絡め取る。


 ――合図は必要ない。


 天から高速で落下してくるドリアーヌが、息を吸い、両手を猫の手に変え振りかぶる。


「……〈咆哮爪〉っ」


 その喉からけたたましい音量の咆哮を発すると同時に、両手の爪で引っ掻くように振り下ろす。すると爪の形を象った六条の音波の斬撃となり、ベヒモスを襲う。


 ――と同時に、


「〈レべチな指パッチン〉」


 いつの間にかベヒモスの体の下に潜り込んでいたティファニーが強烈な指パッチンを繰り出す。ディミトゥラを破った時と同様、魔力波が拡散されるが、それに指向性を持たせて下から上に突き抜けるように魔力波を送る。


 上からの音波による攻撃、下からの魔力波による攻撃。


 上下から挟まれるような衝撃は逃げ場を失い、ベヒモスの体の中で衝突し、蓄積され、爆散する。


「――GYUOOOOOOOOOOォォォォォ…………ッッ!!??」


 胴体を破裂させたベヒモスは地に沈む。


 ローゼリアたちの勝利であった。

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