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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第五章です、お嬢様 マズいかもしれません
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第九話 手のひら返し

 時はティファニーが玉座から六名を転移させたところまで戻る。


 異形へと変貌していくバプティストを見ながらアンテロスとの邂逅を思い出していたころ。


 優雅に玉座にて遠い目をしているシャルロットに、ファウロスが声をかける。


「……ずいぶんと余裕じゃあないか。俺のことなんか眼中にないようだな……!」


 ふぅ、と細い息を吐いてからバプティストの傍に控えていたファウロスに視線を投げる。


「……そうね、素敵な男性としてなら眼中にはないわ」

「それはそれで癪に触るものだな……ッ」


 でもね、とシャルロット。


「国を奪った宿敵としてなら――間違いなく意識はしているわ」

「それならば何故、剣を抜かない! 何故、玉座から立ち上がらないッ!」


 完全に舐められている。それが理解できるからこそファウロスは苛立ち、シャルロットに食って掛かる。


 しかしそれをまったく意に介さない様子のシャルロット。


「わたくしはこの国の女王になる女よ。臣下の戦いが終わってもないのに、剣を振るうという優雅さに欠けるようなことはしたくないの――あなたと違ってね」

「生意気な女だッ」

「あら? 言うことをなんでも聞く女がお好みかしら? なら悪かったわね。この国にはそんな女はいないわ」


 歯ぎしりをするファウロスから視線を切り、己が最も信頼する臣下へと声をかける。


「アン。そのゲスいおっさんはあなたがサクッと倒してね」


 シャルロットの命令にスカートを広げ一礼するアンテロス。


「――承知いたしました、お嬢様。瞬きの間に塵にしてみせましょう」


 そうこうしているうちにバプティストの変身が完了する。


「GRURURUゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッッ」


 それは正しく異形だった。


 サイの体躯、ゾウのような顔、ヤギのような角。


 額部分にはバプティストの顔が浮かんでいる。


「ジャ……ジャルロッドォォォォォ!!!」


 額からはバプティストの声が、ゾウのような顔からは怪物の声が。


 それを見てシャルロットが一言。


「うっわ、キモぉ……!」

「お嬢様、お言葉には気を付けてください」

「あばばばばばば……!」


 転移させられていない唯一の常識人であるルードは顔を土気色に染めている。


「――〈変性魔法――ベヒモス〉――」


 ファウロスが笑みを深め、魔法名を告げる。


「いいだろう、不埒な姫よ。貴様の甘言に乗ってやろうじゃないかッ。やれ、ベヒモス! シャルロットの従者を噛み殺せッ!!」

「GYURUGAOOOOォォォォ……ッッ!!」


 ファウロスの命令でアンテロスに飛び掛かるベヒモスと化したバプティスト。


 噛み殺そうと牙を唸らせアンテロスに噛みつき、


「――あ、これヤバいやつです」


 アンテロスが吹っ飛ばされた。


「ア、 アンさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」


 ルード、大絶叫。


「ちょ、ちょっとアン? 何してるのよ?」


 シャルロットも拍子抜けした様子だ。


 砕けた玉座の間の壁。土煙を纏いながらアンテロスが浮かびながら出てくる。


「――お嬢様、まさかの事態です」

「でしょうねっ! わたくしもびっくりだわ!! 瞬きの間がどうのって言ってなかったかしら??」

「……すでに二度、〝死の運命〟を捻じ曲げざるを得ませんでした」


 アンテロスの言葉によって、表情に剣呑さを帯びるシャルロットとよくわかっていない様子のルード。


「あなたがそう言うってことは王都の民ではないわね――ということは、八陣の誰か」

「さようでございます。ドリアーヌ様とオーギュ……、おっと今はローゼリア様でしたね。この二名の運命を捻じ曲げました。つまり――」

「つまり……?」

「キュートなメイド、アンテロスちゃんは絶賛弱体中でございます。瞬きの間どころか日が暮れても勝てないかもしれませんね」


 大ピンチです、と宣うアンテロスに頭を抱えるシャルロット。


 すぐさま立ち上がり、剣を抜き、高らかに宣言する。


「さぁ、この国を賭けた戦いの決着をつけましょうかっ!」

「……………………」


 臣下の戦いが終わるまで云々はどこかに消えた。


 手首が千切れるほどの高速手のひら返しである。


 あまりの速さにファウロスもあんぐり。


「シャル……さすがにそれは締まらねぇよ……」


 ルードもやれやれといった様子。


「失礼ねっルード! まだ未使用なんだから締まりがいいに決まってるでしょうがっ」


 って何言わせんのよっ、と剣をルードに投げつけるシャルロット。


「うおっ、あっぶねぇじゃねえか!」

「うるさいわね! 公衆の面前で恥ずかしいこと言わせた罰よ!」

「いつからそんなツンデレキャラになったんだよ……」


 二人でやいのやいのと言い合っていると、ファウロスがシュランと剣を抜く。


「ふざけているのか、それが素なのか……。ふっ、まぁいい。決着をつけようではないか」


 ファウロスは剣を高く掲げる上段の構えをとる。


 速さではない。力で押しつぶすという剛剣の構えだ。


 剣気も溢れ、殺意が指向性をもってシャルロットに向けられる。


 その迫力に、へぇ、と感嘆の息を漏らす。


「ただのお坊ちゃんだと思っていたけれど、ちゃあんと修行したのね。良い剣気だわ。良く練られてる」


 シャルロットの賛辞を無視し、右足を強く、大きく踏み込む。


 両手で握った柄をこれ以上ないほど強く握りしめ、一息に振り下ろす。



「――――〈冥月刃〉――――」



「……っ」


 振り下ろされた斬撃は、闇の魔力を伴って波打つ刃と化しシャルロットを襲う。


 それを一目見た瞬間、シャルロットはファウロスを強敵認定する。


 パチンッ、と狼狽えているルードにウィンクしてからアンテロスに叫ぶ。


「……?」

「――アン! 抜くわよっ!」

「仕方ありません。早くそっちを倒して助けに来てください」


 ウィンクの意味が分からないルードと、何かを承認したアンテロス。


「はせ参じよ、誓いの刃――」


 斬撃が迫る中、シャルロットは己が豊満な胸に右手を当て、祝詞を奏上する。



「来たれ――――〈二姫不見(にきまみえず)〉――――っっ!」



 直後、シャルロットを中心に白銀の魔力と眩い光が爆発する。

お読みいただき、ありがとうございます!


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