第一話 酒場『年中酔い』
バンサイ・ヤギューの〝忠義の都崩し〟より一年。
更地になった王都の一角は順調に復興がなされていた。不謹慎な話ではあるが、街が瓦礫の山になったからこそ民衆には働き口が増えた。
それは資材の運搬や建設、復興に携わる職人に向けた飲食店や宿舎など枚挙に暇がないほどに。
中でも荒くれものたちが仕事終わりに駆け込むのは、安酒が飲める路地裏の古びた店だった。
酒は安い。飯は上手くはないが濃い味付けで量がある。
なによりも――美人な二人の看板娘がいた。
「えっ、ついに『夜蝶』に行ったの、ルード?」
蒼い髪をポニーテールにした店員の女性は、エプロンを付けたまま馴染み客とともに酒を囲んで娼館での出来事について盛り上がっていた。
「おうよ! 三か月溜めた金をつぎ込んできた! 一晩だぞ、一晩! 俺の三か月に渡る血と汗の結晶がたった一晩で消えちまった……」
「血と汗って……あなたのお店は木材の仲買じゃない。で、で、で! 感想は? 男になられたルード選手っ」
食べ終えた焼き串をルードに向ける看板娘。
「よく分からねえけど……良かった……と思う。夜蝶の幻にかけられたみてえで実感がねえが……」
「わたくしが教えてあげたおっぱいの触り方は? ちゃんとできた?」
「……悪ぃ、無我夢中で飛び込んだからできてねえ……」
「もうっ! あれほど豚の膀胱を膨らませたやつで練習してあげたのにっ! これだから童貞は……っ」
「悪ぃがもう俺は童貞じゃねえ。ひとかどの漢になったのさ」
と大して高くもない鼻を高くするルード。
それを受けて、はあ、とため息をつく看板娘。
「揶揄いがいのあったルード君がルードさんになっちゃった。わたくしは寂しいわ。だから今日はルードのおごりでもう一杯!」
空のジョッキを他の店員に振りながら追加注文をする。
「ビールもう一杯お願いしまーす!」
「おっ、おい! もう五杯目じゃねえか! 金が足りねえよっ」
「ケチ臭いこというんじゃないわよ、素人童貞」
うぐっ、と言葉を詰まらせるルード。
「それを言われちゃあ返す言葉もねえ……」
肩を落とすルードの肩を笑いながらバンバンと叩く。
「揶揄うところが一つ減った程度であなたがまだまだなのは変わらないのよ――ルードちゃん」
「くそう、ちょっと美人で巨乳だからってデカい顔しやがって! てか俺の方がシャルよりも二歳も年上だからな!」
年齢による優位性を主張するルードに、ふふふ、口元に手をやって微笑むシャル。
「経験値が違うのよ――イロイロね」
「イ、 イロイロ……」
含みのあるシャルのいい分に、なにやら勘違いをしたルードは鼻の下を伸ばしている。
このような会話はなにもシャルとルードだけではない。仕事終わりの労働者たちは皆が皆、このような会話に興じる。
というのも、帝国の威信にかけたこの復興事業は報酬が良い。安い宿で寝泊まりすれば毎日外食できる程度には賃金が与えられている。ゆえに王国だけではなく近隣諸国からも労働者が集まってきていた。
そしてそのような者たちの娯楽と言えば、すなわち娼館しかないのだ。もちろん賭博場などはあるがそれは違法なもの。健全に遊興に浸ろうと思えば、酒場か娼館しかなかった。となれば自ずと話題も限られる。
――喧騒渦巻く酒場の一角。
看板娘といえども店員には変わりない。そのシャルが働きもせずルードと飲み交わしていると、同じく給仕の格好をした黒髪の店員が現れた。
「……真面目に働いてくださいお嬢様」
「あら、アンじゃない。あなたも飲む? ルードを肴に」
「え? お、俺を肴って――まさか三人で……?」
「残念ながら私はもっと汗臭い男性が好みですのでルード様では役不足です」
「やく……ぶそく……」
机に突っ伏すルード。
「お客様も増えてまいられました。お嬢様のその無駄に大きい胸を揺らしてテーブルを回ってきてください。すこしでもおひねりをいただかないと明日食うお金もありません。この店はお給金がケチ臭いので」
「聞こえてるよっ! アンちゃん! 悪かったねケチ臭い店でっ!」
店の奥、厨房から妙齢の女性の声が響き渡る。
酒場『年中酔い』の店主ーーセラだ。
「冗談ですよセラさん。私とお嬢様はセラさんのお心遣いがなければ野垂れ死んでおります」
「ならさっさとシャルちゃんを連れてお料理を運んでくれよ。つっかえちまってるんだ」
承知しました、と承諾したアンはシャルの首根っこを掴む。
「ほらお嬢様。私がお尻を揺らしながら料理を運びますので、お嬢様は牛のような胸を揺らして注文を取ってきてください」
「えー、まだ飲み足りないー」
「そもそも、いまは仕事中でございます。なに勝手に飲んでいるのですか――羨ましいなっ」
「うひっ。アンも飲みたいんでしょ? 一杯だけだって。大丈夫。セラ姉、料理に夢中だから分からないって! ね? 一杯だけだからっ」
両手を顔の前で合わせるシャル。
「そ、そうだよ。アンさんも一緒に飲みましょうよ! 俺、今日は生まれ変わった日なんで奢りますよ!」
とルードも陪席を懇願する。
だが彼の視線はしっかりとアンの臀部に向けられている……。
「なりません。何度も申しておりますが、いまはお仕事――」
そうしてアンが話しているさ中、店に一際大きな胴間声が谺する。
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