第八話 固有魔法
「――〈アタシinわんだーらんど!〉――」
その言葉で世界が変わる。
青い空はピンク色に、破壊が色濃い庭園は遊園地に、戦火の音は楽しい笛の音に……。
兵士はカワイイ動物に――。
空からはキャンディがぱらぱらと――。
「ここはアタシの夢の国だよっ。美味しいお菓子とカワイイみんな、楽しい遊具もある楽園! さぁ――みんな仲良くコロシアオ??」
ディミトゥラの固有魔法によって王宮庭園が一気に遊園地へと変貌した。
「わんっわんっ」
「にやぁーご!」
犬や猫といった小動物に変えられた兵士たちが野生本能に従って、爪や牙で傷つけあい始めた。
それを見ながら鼻で笑う人の姿を保ったままのティファニー。
「たしかにウチはカワイイギャルだしぃ? 遊園地とかテンアゲって感じなんだけどぉ」
サイドポニーテールにした己の髪を手で振り払う。それはまるでシャルロットのような仕草であった。
「エロさがないのがマジ失格ぅ。裸の男も女もいないじゃん。ピンクの空でエッロいの期待したのにさぁ」
マジテンサゲだわぁ、と失望した様子のティファニー。
その発言に眉間を皺を寄せながらも、眼前の異常について訊くディミトゥラ。
「……っていうかさ、どうしてあなたはカワイイ動物になってないの? この世界ではアタシがカミサマ。アタシの思い通りになる世界だし、ならないのなら弾かれなきゃいけないんだけど?」
それに、とディミトゥラ。
「これ――固有魔法だよ? 絶対必中の最強魔法。世界の理や自我の神髄に触れしものだけが扱える魔法の奥義。それなのにどうしてあなたは普通でいられるの?」
ありえないんだけど、とこの現象に首を傾げている。
「えぇぇ? そーゆー難しい話をギャルビッチのウチに訊くぅ? そこは純粋な魔力がエグちってことでいいじゃ~ん」
「いやいや……。魔力の差とか関係ないんだって……! 何度も言ってるけどさっ、これ固有魔法だから! 固・有・魔・法!」
どんっどんっ、と強く地面を踏みながらティファニーの主張に抗議する。
「じゃ、あれじゃね? ウチがチョーパないってことで♪」
キランッ、と星でも出そうなウィンクを決めるティファニー。ギャルピースも忘れていない。
「そんなんでアタシが納得できるワケないでしょうがっ!」
激昂しながら緩やかに降っていたキャンディを剣や槍に変えティファニーに向け射出する。
他方ティファニーは、
「あはっ! チョーキャパってるんですけどぉ! ウケるぅっ」
パンパンと顔の前で手を叩いて大爆笑。
対照的な二人ではあるが、その体から滲み出る魔力は同程度。ゆえにディミトゥラは己の力が十全に振るうことができる世界を構築し、縦横無尽の絨毯爆撃を試みる。
環境を変えることで勝機を見出すためであった。
しかしそこは相手が『最古の魔女』の異名を持つティファニー。
「――ほいっと」
顔の前で叩いていた手。それを一度魔力を籠めて叩いただけで、ティファニーを襲う無数の武器が霧散する。
「…………へ?」
一度。
たった一度拍手をしただけで、魔力の波動が攻撃を搔き消した。その事実に驚きながら、ディミトゥラは理解が追い付かないのを自覚する。
なぜなら、ここはディミトゥラが作り出した世界だからだ。
〝攻撃は当たる〟――それがここでの常識。
それをたったの拍手で無に帰された。攻撃だけではない。概念すらもである。
「姫ちゃん以外の戦いは終わったみたいだしぃ、そろそろウチらも終わらせよっか☆」
――パチン。
小さくもゴテゴテした装飾のネイルが目立つ指を弾かせる。
ズワァァァァッ!! パァンッ!!
「…………っ!? う……そ……でしょ……っっ」
ディミトゥラの作り出した世界が尋常ならざる速度で後退していき、破裂した。
「ウチさぁ、ここ最近はギャルビッチで通してんのよねぇ。だからあんましこーゆーこと言いたくはないんだけどぉ――」
すでに夢の国は荒廃した王宮庭園に戻っている。
小動物と化した兵士も元に戻っている。
固有魔法の発動によって、また強制的にそれを解除させられたことで魔力が枯渇したディミトゥラは、息を切らしながら虚ろな目でティファニーと対峙する。
「――魔法を舐めるんじゃないよ、小娘がっ」
「――っっっ!!??」
突如口調が変わったティファニーに驚くディミトゥラ。
湧出する魔力もピンク色から赤黒いものに変異している。
「固有魔法? いいえ違うわ。最近の若い者は知らないみたいだから教えてあげる。あんたのも、固有魔法と嘯く魔法も、全部全部ただの魔法よ。固有魔法なんかじゃない」
固有魔法はね、と大人の口調になったティファニー。
「――世界に己を刻むことなのよ」
「……世界? ……刻む?」
「あなたのさっきの魔法は、ただの心象風景の具現化に過ぎない。その事実は世界に刻まれはしない。ただ時とともに消え失せる汎用魔法の範囲」
一歩、一歩、ディミトゥラに近づいていくティファニー。
その体から溢れ出る魔力は次第に膨大なものとなっていく。
強大すぎる魔力に中てられ、兵士の中には気を失うものを出ている。
「その点、ウチは一回も魔法すら使っていないわ。魔法を弾いたのはウチから漏れ出る魔力の密度が濃かったから弾かれただけ。武器を消したのも世界を破裂させたのも魔力の波動を拡散させただけ……」
「あ……ば……あ……っ」
至近距離で魔力を中てられ口から泡を吹くディミトゥラ。
「せめてウチに魔法を使わせてから、『魔法』を語りなさいな――小娘」
白目を剥いたディミトゥラの額に人差し指を当て、軽く押す。
それだけで、ドサッ、と後ろに倒れる。
「――それにウチとキャラ被ってるっつーのっ」
歯をむき出して宣うティファニー。すでに声は届いていない。
「マジでなしよりのなしだわー。赤子に切れたカンジー? それマ? ないわぁ……」
ぶつぶつとぼやきながら破壊されつくした王宮庭園を魔法で直していく。
「うっし! これでいいっしょ。ええっと? 戦況はぁ――」
むむむぅ、と言いながら眉間に軽く皺を寄せる。
「ローゼちゃんがチョイヤバ目かな♪」
そう言い残した瞬間、破壊も兵士の傷も元に戻った庭園からティファニーの姿が消える。
残されたのは泡を吹いて空を見上げるディミトゥラのみ。
ティファニーの圧勝であった。
「――あはっ! 失血死しそうじゃんっ。チョーウケるんですけどっ!」
「あぁん……遅いじゃなぁい、ティファちゃぁん」
「メンゴメンゴっ☆ ちょっとお説教してたら遅くなっちった♪」
尖塔の屋上に跳んだティファニーは、仰向けになって青白い顔をしていたローゼリアに手を翳す。
ただそれだけで、肩口の深い傷も、全身の切り傷・刺し傷も消えていく。
ローゼリアの顔色も血色のいいものへと変わっていく。
「……はぁ。流石はティファちゃんね。回復魔法じゃなくて時空間魔法で治してくれるなんて」
「それなー! ウチってば一応サイキョーの魔法使いだしぃ!」
「で? 他のみんなは大丈夫なのかしらん?」
「うん! 玉座に残した以外の敵はあらかた倒したかなぁ。ドリちゃんなんて食堂でご飯食べてるやっ」
「あらあらあらぁ! あの子ったら食いしん坊ネ!」
「ねー! だからあとは姫ちゃんが皇子をぶった切って終わりってカンジー♪」
二人が軽い会話をしている時だった。
ドゴォンッッ!!
「「――っっ!!??」」
腹に響く重低音を伴った破壊音が二人を襲う。
音の発生源は玉座の屋根。それが破壊された音だった。
「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉ! なにあれっ!? 姫さまは大丈夫なのかしら!?」
「……いやぁ、あれはぴえんだわ」
二人の視線の先には、全身を漆黒の闇に包んだファウロスと、劣勢模様のシャルロットが繰り広げる剣激が現れた。
戦いの規模は広がり、玉座から空中戦へと移行したのだ。
――王宮庭園の戦い
三嫌人ディミトゥラ
対
八陣守護姫臣・第六幕ティファニー・ティンパニー
勝者、ティファニー・ティンパニー。
お読みいただき、ありがとうございます!
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると幸甚の至りです。
よろしくお願いします!!




