第七話 ギャル二人
王宮の中心に広がる大きな庭園。
名匠が作りし白亜のガゼボや彫刻、噴水といった建築物と生い茂るバラが織りなす優美な庭園。
訪れたものは息を飲み、その景色を視界に収めれば言葉を失う。
それほどの庭園が王宮にはある。
――正確に言えばあった。
ほんの数瞬前までは。
「あははっ! 流石は『最古の魔女』だねっ。アタシの魔法がここまで弾かれるなんて初めて!」
「弾くもなにもウチはなぁんもしてないよっ」
三嫌人の一人、無邪気なディミトゥラと『最古の魔女』と知られるティファニーは、王宮内の庭園で魔法の火花を散らしていた。
とはいうものの、実際のところはディミトゥラが絶え間ない魔法を繰り出し、それを棒立ちしているティファニーが受け止めるだけというもの。
欠伸をし、ネイルを塗り直し、くるくると枝毛を探しているだけのティファニー。
何もしていないのに、魔法がその体に当たった瞬間、弾かれたように軌道が逸れ庭園を破壊していく。
戦いの火ぶたが切って落とされてから変わらぬ状況にいら立ちを覚えるディミトゥラ。
「もうっ! なんでなんでなんでー! なんでアタシの魔法が効かないのよっ。さっさとあなたを倒してデンカの元に戻らなきゃなのにー! ぷんぷんっ!」
顔を真っ赤にして地団太を踏んでいる。
「……魔法、ねー」
すでに戦いとは言えぬ戦いに飽きている様子のティファニーが小さく呟く。
ぷんすかと怒るディミトゥラとアンニュイ雰囲気のティファニー。
動きがあったのはこの二人ではなく、陰から見ていたものたちであった。
魔法による一方的な攻撃が止んだからか、遠巻きから様子を見ていた馬鹿たち――一年間冷や飯を食わされていた王国兵――が少しでもティファニーの役に立とうと集まってくる。
「――お嬢さん! あなたがどこの誰かは知らないが、ファウロスの部下と戦っているのなら! それはまごうことなき我らの味方! 助太刀いたしますッ」
まだ三十代といったところか。
若く、精力に溢れた男性騎士が白い歯を覗かせた笑みをティファニーに向けながら助力を申し出来る。
その騎士のみならず、他にも多くの騎士たちがディミトゥラを取り囲むように配置につく。強力な魔法を使えるものはいないのだろう。皆が抜剣し、切っ先をディミトゥラに向ける。
古びた鎧、廉価な剣だ。
しかし大事に扱ってきたのが見て取れる。磨いた刃、油を挿した鎧、ブラッシングされた革のブーツ。それら一つ一つが、姫のため、国のためを思って扱われてきた品々。
金にモノを言わせた帝国のモノとは毛色が違う。
性能が低くとも、思いを乗せたモノに勝るものはない。
それらを纏った兵士が弱いはずがない。
それらを纏った兵士の敬意を一手に集める姫が、国が弱いはずがない。
時代が変遷し、統治者が変わろうとも、人の思いは、営みは変わらない。
昔――まだまだ若いつもりではあるが――それでも昔に見て、憧れ、興味が沸いた景色。それが今も目の前にあるという事実。そのことが嬉しくあると同時に、少しの失望もある。
――今ではない。
――ここではない。
憂国の士の居場所は、姫の元でなければならないのだ。
この程度の三流魔法使いに帝国の手先に向けるほど、その剣は軽くないのだ。
ゆえに玉座へ向かうよう指示を出そうとしたとき、ディミトゥラが魔力を迸らせながら口を開いた。
「ふっふっふ。まだこんなに人がいたんだぁ」
ニヤァと歪な笑顔のディミトゥラ。
「そうだよねー! 魔法が効かないのなら、固有魔法を使えばいいんだよね! アタシポンコツだなぁ!」
――固有魔法。
その名を聞いて、ティファニーの視線が鋭さを帯びる。
それに気づいていないのか、心の底から楽しそうにディミトゥラは両手を高く掲げて述べる。
「――〈アタシinわんだーらんど!〉――」
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