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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第五章です、お嬢様 マズいかもしれません
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第六話 フェロモンったらフェロモンなのよ

 燃えるように切られたところが熱い。


 ――切られた肩口が。


「……あ? 確かに首を狙ったぞ……? なにかしたな、お前」

「…………?」


 予想した結末と違う未来が訪れたことで困惑しながらも、拘束が解けたローゼリアは速やかにヨルゴスと距離をとる。


「はぁ……はぁ……どういうことよん……?」


 先ほどの攻撃は確実に首を刈り取るものであった。


 それはヨルゴスの不審な顔からも明らかだろう。


 しかし実際には肩を切られただけ。


 もちろん首を落とすつもりで振り下ろされた斬撃。


 傷は深く、切られた方の腕は使い物にならず、早く手当てをしなければ失血死しかねないほどの出血だ。


 だが生きている。


 そのことに驚きつつ、ローゼリアは大武闘場でのシャルとアンテロスの会話を思い出す。


『――アン。可能な範囲でいいわ。〝死〟の運命を捻じ曲げなさい。わたくしが玉座に座るための戦いに、無辜の民の血はいらないわ』

『はぁはぁ、みんなの視線が私に――おっと、久々の姿に少々トリップしておりました。了解です、お嬢様』


 アンテロスが完全無欠変態メイドであることはよく知っている。なんだか『神』とか名乗っていたが、あながち嘘でもないような気がする。


 であるならば、姫の命によって死の運命を回避したのだろう。


 つくづくあの奔放な姫と変態のメイドには敵わないな、と歯を見せ笑みを浮かべる。


「……ここまでされちゃあワタシだって出し惜しみしてらんないわねんっ」


 鞭の取っ手を口に挟み、両手で上着を掴み、一気に引きちぎる。


 ――上裸の変態が現れる。


 傷口から血が出るが気にしない。


 そして右親指と人差し指でわっさわっさと生い茂る胸毛を引き抜く。指先には十数本の胸毛。


「……なにをしている?」


 怪訝な様子のヨルゴス。


 しかしローゼリアは答えない。


 右手に持った胸毛を空にばらまき、口に咥えた鞭を握り直し、鞭先を鳴らす。


「花開き、乱れ、のけぞり、快楽に身をゆだねさい――」


 空いた口から発せられるは固有魔法の名。


「――――〈エターナル・フェロモン〉――――」

「……っ!?」


 突如巻き起こるは紫色の霧の乱舞。


 ローゼリアを中心に、尖塔を覆い隠すほどの膨大な霧が湧出する。


「せっかくだからワタシも魔法の説明をしてあ・げ・る」

「そんな――も、の……っ!?」


 ヨルゴスが拒絶の言葉を紡ごうとするも、胸を押さえ苦しみだす。


「まぁ聞きなさいな。この魔法はね、ワタシの凝縮したフェロモンを相手にプレゼントするだけの魔法なの」


 乱れた髪を直すため側頭部に押さえつけるローゼリア。


「体が……動かねぇ……いや痺れてる? 毒か……?」


 ヨルゴスが己の体に起きた異変を察知する。


「いやぁん。〝毒〟だなんて失礼しちゃうワ。言ったでしょ――フェロモンよ」


 毒であるということを頑なに認めないローゼリアは、ゆったりとした足取りでヨルゴスに近づいていく。


「いや……間違えるはずがねぇ。これは毒だと思うぜ、オレ」


 すると突如、パンッ、と軽い破裂音が尖塔に広がる。


 え、と声を出したのはヨルゴスだ。


「フェロモンよ」

「いいや! これは毒だね、オレ!」


 またも、パンッ、と乾いた音が鳴る。


 ローゼリアがヨルゴスの頬を叩いているのだ。


「……イッヒッヒ、オレが動けなくなって強気じゃねぇか、えぇ? だが残念だな。オレは帝国一の犯罪者として収監されてた死刑囚。体の動きを封じたぐれぇで――」


 パンッ。


「…………は?」


 話の途中で頬を叩かれたので一瞬呆けるヨルゴス。


「なぁに、あなた? 自分がワルだったことを自慢しちゃうタイプぅ? 駄目よ? そんなんじゃ経験豊富なオジサマたちには好かれないわよ」

「……イヒっ、そんなものにキョウミはねぇな。人の苦痛に怯える顔が好きなだけさ、オレは!」


 パンッ!


 一際大きな音が鳴る。


「……弱い人ね」

「あぁぁ?」

「元死刑囚? 怯える顔? そうやって自分を駆り立てないとまともに心を保てないのね」

「…………なに、を」

「あなたの固有魔法も自白を求めるものだし、どこかで許されたいと思っているのでしょうね。それとも――ファウロスに認められたことで舞い上がったのかしら?」

「やめろ!」


 とヨルゴスは声を荒げる。息を切らし始めた。


「殿下はオレに罰を……ゴホッ、罰を与えてくれたんだ! 殿下の御傍にいることが……!」


 ついに膝をつくヨルゴス。


「……くそがッ。鞭も、使わず……あんた、卑怯だと思うぜ、オレ」


 鞭を丸めて直しながらローゼリアが口を開く。


「ワタシの色気を受け止められない器の小さいあなたが悪いのよ、ふふふ」

「これほど……即効性の毒を巻き、散らす、のなら――どうして最初から……使わな、かった」


 もはや息をするのも辛いだろうに、ローゼリアが固有魔法の発動を渋った理由を問うてくる。


「代償があるのよ――ワタシのお肌がボッロボロになるというね。それと毒じゃないわ、フェロモンよ」

「そんな……理由で…………?」


 もはやヨルゴスは気を失った。尖塔の屋根の傾斜に従って、地に落ちていく。


 それを見届け、魔法を解除しながらローゼリアは告げる。


「――美人薄命と言うでしょう? ワタシのように色気に溢れた人間はね、いつ死ぬかわからないの。だから常に美しくあろうとするのよん。美意識高い系だからっ」


 と言い放ち、ローゼリアもまた膝をつく。


「あぁん……。さすがに血を流しすぎたワ……。早く連れ戻しに来て頂戴、ティファちゃぁん」



 ――尖塔の戦い

 三嫌人ヨルゴス 対 八陣守護姫臣・第五幕ローゼリア・ラブロマンス(本名オーギュスト・ロマンスグレイ)


 勝者、ローゼリア・ラブロマンス。

お読みいただき、ありがとうございます!


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