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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第五章です、お嬢様 マズいかもしれません
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第三話 礼拝堂にて

「ん? ここ、礼拝堂……?」


 目を開けるとそこは王宮内の外れにある礼拝堂だった。牙城門の時といい、今回といい、ずいぶんと転移させられている。


 転移魔法は伝説の代物。扱えるものなどこの世界に片手ほどもいないだろう。


 姫様とともにいると本当に退屈しないな、とドリアーヌは軽く笑みを浮かべる。


「……殿下の温情を受けておりながら叛逆するなど……所詮は獣の類ですか」


 笑みを浮かべるドリアーヌに対し、憤怒の表情で眼鏡を拭いている男。


 三嫌人が一人、ヴァシリオスである。


「たしかにファウロスはよくしてくれた。でもあたしは姫様の臣下。姫様がもどってきた以上、ファウロスに従うりゆーはない」


 えへん、と胸を張りながら答えるドリアーヌに、眼鏡を掛け直したヴァシリオスが額に青筋を浮かべる。


「犬ですら主人に忠誠を誓うというのに……気ままな猫など虫唾が走るっ!」


 いうや否や、ヴァシリオスは胸元から短剣を引き抜きドリアーヌに切りかかろうと飛び込んでくる。


 見たところ、装飾は華美だが魔剣や魔法を帯びた感じはない。ゆえにドリアーヌは両手を猫の手に変化させ、爪で応じようとする。


「ふっ!」


 ヴァシリオスが上段から斜めに袈裟切りの形で短剣を振り下ろしてくる。それをドリアーヌが左手の爪で受け止めようとする。あとは右の爪で突き刺すなり、引っ掻くなりして終わりだと決めつける。


「この程度……きゃッ!?」


 ――しかしそうはならなかった。


 短剣を受け止めたかと思うと、側方から打撃のような衝撃がドリアーヌを襲ったからだ。


 受け身を取りながら立ち上がると、ヴァシリオスが短剣の切っ先をこちらに向けているのが分かった。


 明らかな魔法発動の兆し。魔力も切っ先に集束している。水や岩などの物質が構築されていないことから、純粋な魔力攻撃だと予想する。


 それならばドリアーヌの純粋な身体能力だけで防げる。顔に傷がつくことを嫌う姫の助言を思い出し、両腕で顔面を覆い全身の筋肉を硬直させる。


 すぐさま衝撃波が来るはずだった。


「――ぎゃん……ッッ!?」


 目を見開くドリアーヌ。


 実際に身に起きたのは、両腕が切られたという事実。斬撃がドリアーヌを襲ったのだ。


 幸い傷は深くはない。血は流れているが失血死するほどでもない。


 しかしドリアーヌの脳内は困惑で占められていた。斬撃かと思えば衝撃、衝撃かと思えば斬撃。対応と真逆の攻撃が繰り出されている。


「行動と結果が逆転している……?」

「いいえ、これはそんな真っ当な魔法ではありませんよ」

「あたしの対応によって変わる後出しじゃんけん魔法……?」

「ふっ、獣風情が一丁前に分析ですか。気になるのならば、わからないのならば、何も考えずに突っ込んでくれば良いではありませんか。殿下を裏切った獣などさっさと倒して玉座に戻らなければならないのでね」


 クイッと眼鏡を直したヴァシリオス。


 確かにそうだ。考えても仕方ない。両足に力を籠めるドリアーヌ。俊足を用いた高速の攻撃で沈めることにした。


 こちらの対応で変わるのならばその前に、後出しじゃんけんならば出す前に勝負を決める。


「……よし、行くよ」


 ボゴッと轟音を立てて、ドリアーヌの足場に罅を伴った大きなクレーターができる。


 礼拝堂を縦横無尽に跳び回り、目にも止まらぬ速度で攪乱する。


 ヴァシリオスの背後からその首を狙うべく高速の貫手を繰り出し、


「ぐっ……うぅぅぅぅぅぅ!?」


 ガツンッ、と見えない壁に阻まれた。


「な、なんで……? 魔法を使った痕跡も魔力の揺らぎもなかった、のに……」


 爪は折れ、指は曲がり、血を流しながらドリアーヌはこの現象についての当惑を口にする。


 ふん、と鼻で笑いながらヴァシリオスが振り返る。


「……目に見えるものがすべてではない。さりとて目に見えないからといってないわけでもないのですよ、雌猫」

「……??」

「少し、昔話をしましょうか」


 とヴァシリオスが目を細める。


「いま……? 急いでるんじゃないの?」

「ええ、急いでいます。早く殿下の元にはせ参じなければならない。しかしここが礼拝堂だからなのか、それともあなたが獣人だからなのか……昔を思い出しましてね。死ぬ前に聞かせてしんぜましょう」

「えー……きょーみないんだけど……」


 というドリアーヌのつぶやきを無視して語り始めるヴァシリオス。


「あれは……私が裁判官として法曹界にいた時です……」

お読みいただき、ありがとうございます!


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