第二話 契約
『おねえさん、だれ? おかあさんをたすけてくれるひと……?』
深夜の自室。
白銀の魔法陣から出現するはピンク色の魔力を滲ませた『神』だった。
『助けてくれる人、ですか。ふふ、母を救いたいという一心で〝神〟を召喚したとは……。私も堕ちるとこまで堕ちたものですね』
『ねぇ、どうなの? おかあさんをたすけてくれるの? くれないの?』
シャルの問いには答えずに、ジッとシャルの瞳を見つめてくる。
長いような短いような視線の交錯を経て、『神』は口を開く。
『結論から述べましょう人の子よ――あなたの母は助かりません。なぜならそれが〝運命〟だからです』
『――っっ』
ハッキリとした物言いに下唇を噛む。
小さな両の手を拳にしながら震えていると、神がある事実を告げてくる。
『あなたも若くして死にます。そして王国は帝国に乗っ取られ、闇が世界を包む。――それが運命です』
『うんめー? なにそれ? そんなよくわからないものでおかあさんしんじゃうの? わたくしもしんじゃうの? ……むかつく』
悲しみの表情から一変して怒りの色を滲ませる。
それに満足したのか、神はある提案をしてくる。
『そうですよね、むかつきますよね? どこにも矛先を向けられない無力感、なにもできないという閉塞感、結末が決まっているゆえの改善の抛棄……』
一拍おいて告げる。
『――そのふざけた運命を覆しませんか?』
『え?』
『実は私も憤っているのですよ――運命とやらに。神の定めしレールを走るだけの無限循環。栄え、滅びを繰り返すだけの世界。私はもう飽きたのです。もっと刺激が欲しい。もっと未知を見たい。もっと悦楽に浸りたい』
神の話す言葉はよくわからない。しかしシャルには一筋の光明が差した気がした。
『つまり……おかあさん、たすかる?』
しかし神の言葉は非情だった。
『いいえ、助かりません。時期を逸しています』
『なにそれ……いみわかんない』
失望するシャルに、ですが、と続ける。
『あなたの死を、王国の転覆を、闇の蔓延りを防ぐことはできるかもしれません。神たる私を召喚できるあなたとならば』
『わたくしはどうでもいいの……おかあさんさえたすかれば……』
『いいえ、死にます。運命によって。つまりあなたは運命を覆すことで母の仇を討てるのです』
『……かたきとかよくわかんないけど、それはおかあさんがよろこぶことかな?』
『それは大いに喜ぶことでしょう。夭折するはずのあなたが長生きをし、国を率い、世界に安寧を齎したのならば、親にとって誇らしいことはないでしょう』
幼いシャルには理解しきれないが、母が死ぬことは避けられない。その母が喜ぶことであるのなら、この浮いている神のいうことに乗ってみるのもいいかもしれない。
シャルは覚悟を決める。
『わかった……! あなたはわたくしとにているし、しんじる。なにをしたらいいの?』
『好きに生きれば良いのです。堕ちたとはいえ神の端くれ。世界の趨勢は把握しています。あなたの傍で助言をするので、それさえ聞き入れてくればあとはお好きにどうぞ。学問の道に進もうと、武の道に究めようと、快楽を求めて身を破滅しようと構いません』
『うん。それで? しょうかんまほうには〝だいしょー〟がいるのでしょう? まりょくはよびみずっておかあさんがいってた。うんめーをくつがえすために、わたくしはあなたになにをしたらいいの?』
『代償……聡明な子ですね。でしたらあなたの〝純潔〟をいただきます。誰にも穢されていない無垢の魂。私が神としてさらなる位階を得るべく、それをあなたの死後に取り込ませていただきます。ゆえに生きている限り、処女性を失わないようにしてください。それがある限り、私はあなたの矛となり楯となりましょう』
難しい言葉が連なっており小首を傾げるものの縦に頷く。
『もう一つ。〝力の行使〟には制限を掛けさせてもらいます。先ほどの無垢な魂の完成のために、高潔さを具備するための措置です。ゆえに、利己的な欲求のために力を振るうことを禁じます』
『わかった。よーするにあなたのいうことをきいて、すきにいきたらいいのでしょう?』
『その通りです』
『じゃ、それでけーやくしよっか。あなた、おなまえは? わたくしはシャルロットよ』
シャルが右手を差し出しながら自身の名を告げる。
そしてまた、神も己が名を紡ぐ。
『――アンテロスです』
互いの手が結ばれる。
『よろしくね――アン』
こうして運命を覆すため、神と姫の協力関係が成立した。
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