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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第五章です、お嬢様 マズいかもしれません
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第二話 契約

『おねえさん、だれ? おかあさんをたすけてくれるひと……?』


 深夜の自室。


 白銀の魔法陣から出現するはピンク色の魔力を滲ませた『神』だった。


『助けてくれる人、ですか。ふふ、母を救いたいという一心で〝神〟を召喚したとは……。私も堕ちるとこまで堕ちたものですね』

『ねぇ、どうなの? おかあさんをたすけてくれるの? くれないの?』


 シャルの問いには答えずに、ジッとシャルの瞳を見つめてくる。


 長いような短いような視線の交錯を経て、『神』は口を開く。


『結論から述べましょう人の子よ――あなたの母は助かりません。なぜならそれが〝運命〟だからです』

『――っっ』


 ハッキリとした物言いに下唇を噛む。


 小さな両の手を拳にしながら震えていると、神がある事実を告げてくる。


『あなたも若くして死にます。そして王国は帝国に乗っ取られ、闇が世界を包む。――それが運命です』

『うんめー? なにそれ? そんなよくわからないものでおかあさんしんじゃうの? わたくしもしんじゃうの? ……むかつく』


 悲しみの表情から一変して怒りの色を滲ませる。


 それに満足したのか、神はある提案をしてくる。


『そうですよね、むかつきますよね? どこにも矛先を向けられない無力感、なにもできないという閉塞感、結末が決まっているゆえの改善の抛棄……』


 一拍おいて告げる。


『――そのふざけた運命を覆しませんか?』

『え?』

『実は私も憤っているのですよ――運命とやらに。神の定めしレールを走るだけの無限循環。栄え、滅びを繰り返すだけの世界。私はもう飽きたのです。もっと刺激が欲しい。もっと未知を見たい。もっと悦楽に浸りたい』


 神の話す言葉はよくわからない。しかしシャルには一筋の光明が差した気がした。


『つまり……おかあさん、たすかる?』


 しかし神の言葉は非情だった。


『いいえ、助かりません。時期を逸しています』

『なにそれ……いみわかんない』


 失望するシャルに、ですが、と続ける。


『あなたの死を、王国の転覆を、闇の蔓延りを防ぐことはできるかもしれません。神たる私を召喚できるあなたとならば』

『わたくしはどうでもいいの……おかあさんさえたすかれば……』

『いいえ、死にます。運命によって。つまりあなたは運命を覆すことで母の仇を討てるのです』

『……かたきとかよくわかんないけど、それはおかあさんがよろこぶことかな?』

『それは大いに喜ぶことでしょう。夭折するはずのあなたが長生きをし、国を率い、世界に安寧を齎したのならば、親にとって誇らしいことはないでしょう』


 幼いシャルには理解しきれないが、母が死ぬことは避けられない。その母が喜ぶことであるのなら、この浮いている神のいうことに乗ってみるのもいいかもしれない。


 シャルは覚悟を決める。


『わかった……! あなたはわたくしとにているし、しんじる。なにをしたらいいの?』

『好きに生きれば良いのです。堕ちたとはいえ神の端くれ。世界の趨勢は把握しています。あなたの傍で助言をするので、それさえ聞き入れてくればあとはお好きにどうぞ。学問の道に進もうと、武の道に究めようと、快楽を求めて身を破滅しようと構いません』

『うん。それで? しょうかんまほうには〝だいしょー〟がいるのでしょう? まりょくはよびみずっておかあさんがいってた。うんめーをくつがえすために、わたくしはあなたになにをしたらいいの?』

『代償……聡明な子ですね。でしたらあなたの〝純潔〟をいただきます。誰にも穢されていない無垢の魂。私が神としてさらなる位階を得るべく、それをあなたの死後に取り込ませていただきます。ゆえに生きている限り、処女性を失わないようにしてください。それがある限り、私はあなたの矛となり楯となりましょう』


 難しい言葉が連なっており小首を傾げるものの縦に頷く。


『もう一つ。〝力の行使〟には制限を掛けさせてもらいます。先ほどの無垢な魂の完成のために、高潔さを具備するための措置です。ゆえに、利己的な欲求のために力を振るうことを禁じます』

『わかった。よーするにあなたのいうことをきいて、すきにいきたらいいのでしょう?』

『その通りです』

『じゃ、それでけーやくしよっか。あなた、おなまえは? わたくしはシャルロットよ』


 シャルが右手を差し出しながら自身の名を告げる。


 そしてまた、神も己が名を紡ぐ。


『――アンテロスです』


 互いの手が結ばれる。


『よろしくね――アン』


 こうして運命を覆すため、神と姫の協力関係が成立した。

お読みいただき、ありがとうございます!


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