第一話 不埒な姫と盗人
牙城門の転移魔法によって顕現したシャルは玉座の間を見渡し口を開く。
「――というか、なにかクライマックス感出てない? まだわたくしが登場しただけよ?」
シャルの言葉に応じるのはルードだ。
「派手なんだよっ、登場が! 俺なんて天井から落ちたんだぞっ」
「あたしは普通だった」
「まあ、私は飛んできましたけど? 魔方陣に弾かれたので? 優雅に王都を見下ろしながら登場しましたけど?」
「ウチらなんてローゼちゃんがドアを蹴り飛ばしただけだもんね~」
「うふふ、つい勢い余っちゃったわァ」
「弾かれた? アンが? ぷぷぷーっ。神が拒否られてるわ。流石堕ちし神ねー」
シャルたちが和気藹々と登場について語っているところに一石を投じるのは、青筋を立てたファウロスだ。
「貴様ら……っ。ここがどこか分かっているのか! なにをしたのかもっ!」
玉座のシャルは視線を横にずらしファウロスを視界に納め、告げる。
「ここはわたくしの椅子であり家であり、愛する民の象徴よ。なにをしたかって? ただ盗まれたものを取り返そうとしているだけじゃない――王国を」
「……なぜだ。なぜ動くのなら一年前に動かなかった……。なぜ一年も待つ必要があった?」
ファウロスの慟哭が感じ取れる質問。接収に手こずった方がまだよかったとも取れる発言。
それを受けてシャルは律儀に答える。
「いろいろ理由はあるのよ。あの時抵抗をしていたら無辜の民の血が多く流れていたとか、アンテロス召喚に伴う制約とかね」
だけど、とシャル。
「わたくしもよくわかってないのよねー」
「……は……?」
あんぐりするファウロス。三嫌人やルードも同様。動じないのは八陣のみ。
「ま、そういうのはアンに聞いて頂戴な。あの時はアンの指示で王宮から退去したのだし」
シャルの振りを受けて、変わらず浮いているアンテロスが答える。
「……それがお嬢様の為になるからです。一年前に反抗していても、問題なく帝国の魔の手からは護られました。仮に姫様が力を振るえず、私が神の力を行使しなくても、です」
しかし、とアンテロス。
「――それではダメなのです。神である私と契約し、この王国を支配するのであれば、この一年は必要だったのです」
アンテロスの語りはすなわち、その気になれば帝国を倒せたというもの。そのことに苛立ちを覚えながらもファウロスは問う。
「その真意は……?」
「――運命を覆すために」
「…………」
アンテロスの言葉に沈黙するファウロス。理解できないからだ。
その空気を一切読まないのがシャルだった。
「ね? よく分からないでしょー? 神には神のルールや知っていることがあってそれに基づいて決めちゃうから、わたくしはさっぱりなのよ」
でもね、とシャルが笑みを浮かべる。
「この一年は決して無駄ではなかったと確信しているわ。火の国との関係が改めて明確になったし、民の声を聴くこともできた。ルードのような友もできた。民の多くには苦しい思いをさせてしまったけれど、そのおかげでわたくしは女王になるということの重さを知ったわ」
シャルから白銀の魔力が湧出する。それは明確な圧力を伴って場を支配する。
ファウロスをはじめ三嫌人が身構える。
「だからこそ、あなたたちには感謝しなくちゃね。わたくしが女王になるために必要な機会を創出してくれたのだから。いろいろ調べたわよ? あなたの魔法――精神干渉だったかしら。とってもすけべな――」
「――お嬢様」
威厳に満ちた顔から一転してだらしない顔になったシャルをアンテロスが諫める。
「オホン。失礼したわね。そう、あなたのその闇魔法。何年もかけて下準備をしての行動でしょ? そのあなたの忍耐強さには感服しすぎてもはや呆れちゃうわ」
「な……に……?」
「だってそうでしょ。そこまでして乗っ取った国でいい思いをしたのもたった一年だけ。せめて十年は悠々自適に暮らしたかったでしょうに」
「まるで俺の支配が今日終わるような口ぶりだな――不埒な姫よ」
「そういっているのよ――盗人」
お互いの鋭い視線が交差した瞬間、玉座を掛けた戦いの幕が開ける。
初手はシャルロットの指示だ。
「ティファニー。あなたたちは取り巻きを払いのけなさい」
「あいあーい! ほいっと!」
ティファニーがくるっと一回転しながらシャルとアン、ルード、ファウロスとバプティスト以外に魔法をかける。
「――跳ばす気だっ! なんとしてでも倒せ! そして再び相まみえるぞ!」
ファウロスは叫ぶ。
「「「はっ」」」
刹那、煌めいたかと思うと玉座の間から六名が消える。
「――しかたあるまい。もはやこうなってはこの愚王の使い道もこれくらいか……」
遠い目をしたファウロスが床に転がっているバプティストを踏みつける。ついで、己の漆黒の魔力を付与していく。
「グ……? オオオ……グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」
猿轡をされていたバプティストが呻き声をあげて異形へと姿を変えていく。
それを見ながらアンテロスが主に質問する。
「刻々と化け物になっていってますが、見過ごしてよろしいのですか? 一応、お嬢様の父君ですが」
「いいのよ。血は繋がってないし、国を滅茶苦茶にしたし、なによりもわたくしに下卑た視線を向けるクズなのだから、ちょうどいい落としどころよ」
それよりも、とシャル。
「この状況になってもまだ、わたくしに〝全力を出すな〟と言うの?」
「もちのろんでございます。その必要もないので」
ふぅん、と納得してない顔のシャル。
義父が化け物になっていくのをぼんやりと眺めながら、シャルはアンテロスとの契約を思い出す。
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