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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第4章です、お嬢様 締めるところはしっかり締めてください、シモの話ではありません
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第五話 それぞれの想い

 眩い光によって閉じていた瞼を開けると、そこは王宮内の大広間だった。


「……は~っ! 改めて思うけどぉ、ティファちゃんの魔法ってやっぱり規格外よねぇ」


 八陣の一角、オーギュストが感嘆の声を漏らす。


「そらロンモチだよ~! だってウチ、何年生きてると思ってるの~」


 ティファニーが不敵な笑みで応じる。


「私が生まれる前から、お名前はこの大陸に轟いていたと仄聞しています」


 ユーゴが己の記憶と照らし合わせながら呟く。


「まぁね~。この国に興味を持ったのが三百年前だったかなぁ? だから少なくともこの大陸の西部では三百年前からいるねっ☆」

「いやんっ。そんなに生きててお肌がプルプルなの憧れるわぁ! ワタシなんて最近お肌が乾燥しちゃって困ってるのよぉ!」


 オーギュストが両頬に手を当てて、くねくねと身を悶えさせる。


「ふっふっふ! 若さの秘訣はねぇ……イケメンを喰らうことと、姫ちゃんみたいな美少女のおっぱいを揉むことなんだ~!」


 ティファニーが涎を垂らしながら夢想する。


「ワタシもーっ。ワタシもイケオジ大好き~っ! 食べちゃいたいわ~~!」

「ねー?」

「ねー、ティファちゃん♪」


 二人が盛り上がっているところを、オホン、とユーゴが咳払いする。


「……お二方。ここは王宮と言えども、もはや帝国に占拠された敵陣ですよ」


 言いながらユーゴが二人に周りを見るよう促す。そこには、


「――おいっ! あいつは王国を裏切った元宰相だ! やはり形だけの裏切りだったか!?」

「ちょっと待てよっ! 急に大広間に現れたぞっ! どうやって忍び込んだんだ!」

「であえ! であえ! ただでさえ出兵した王国兵がなぜか王宮内で暴れているんだ! これ以上好き勝手にさせるなっ!」


 王宮の警護にあたっていた帝国兵たちが武器を片手に三人を取り囲んでいた。


 多勢に無勢。しかしそのような状況であっても涼しい顔をするオーギュストたち。


 いや……僅かに怒りを滲ませている。


「〝好き勝手〟……? それはこちらの台詞なんだけど……?」


 コキコキと首を鳴らすオーギュスト。


「あははっ。魔に穢された帝国が王宮を汚すんじゃないってカンジー」


 ティファニーが全身からピンク色の魔力を滲ませ髪を逆撫でる。


「もうすぐ我らの主が凱旋しますので、速やかなる退去をお願いします――ここはコアハード王国の象徴ですので」


 ユーゴが慇懃に発言するが、その眉間には深い皺が刻まれている。


 その姿を見下ろすは、王宮中央階段の踊り場に立っているマントを羽織った帝国兵の男だった。男は勝ち誇った顔をするものの、


「たかが三人! 我ら栄えある帝国の前に――げぶッ!?」

「――この純白の城に黒い鎧は相応しくないのよっ! あとイケオジじゃないからさっさと消えなさいナッ!」


 一瞬で距離を詰めたオーギュストの一撃に沈む。顔面の中心に右拳を突き刺したのだ。


 オーギュストが一人の魔法騎士隊を倒したことで、王宮大広間内での戦いの火蓋が切って落とされた。


「たぶん姫ちゃんは玉座に向かうはずだから~さくっとこいつら潰して上がっちゃお~!」

「ではそちらはお願いしますね。私は元王国兵と合流して政務書類を抑えに行きます。燃やされても困りますから」


 ティファニーが魔法を駆使して帝国兵を物理的に潰していき、ユーゴは向かってくる敵兵を投げ飛ばしていく。


 瞬く間に、大広間は惨状になっていった――。





「――梅の舞、天霜流刃」


 高く跳びあがったアオイは、地面に群がっている帝国兵に向かって流れるような剣閃の舞を演じる。それは飛ぶ斬撃となって刃の雨を降らせ、次々に帝国兵を切り倒していく。


 着地し、土煙が晴れた頃。アオイはゆっくりと納刀し、長い息を吐く。


「――お嬢! あらかた倒しましたが、これからどうしやしょう?」


 大武闘場外で魔法騎士隊と衝突していた近衛隊に扮していた侍たち。その一人がアオイに今後の動きについて問う。


「……ふうむ。お父様が王都の東に逗留している帝国の本隊を叩きに行った。そちらに合流するのが筋であろうな」

「しかしお嬢……それでは剣神殿の邪魔になりませんかね? 我らとて弱くはありませんが、剣神殿の戦いに付いて行けるほどでは……」


 右眼の傷が目立つ侍大将がアオイと相談している。


 アオイとしては久方ぶりに会った父親とともに戦場で剣を振りたいのだが、侍二千名が全員戦いに付いて行けるわけではない。それほどまでに、剣神やアオイと侍たちの実力はかけ離れているのだ。


 ここでアオイのみヤギューの支援に行くことも可能ではあるが、この場をシャルに任された以上最低限の責任がある。ゆえにアオイは侍大将に告げる。


「侍二千を四つの部隊に分ける。王都の東西南北に散れ。各々、侍であることを喧伝しながら王都の民を護り、帝国兵を各個撃破してゆけ」

「――はっ!」

「……万が一、シャルたちに何かがあった際、わらわたちがこの国を帝国から取り戻す。それが姉妹の契りを交わした国の矜持じゃろう」

「――委細承知っ!」


 アオイの指示を受けた侍大将は、順次侍たちを四部隊に区分し命令していく。その光景を見ながら侍大将がアオイと軽口を交わす。


「……にしてもお嬢」

「なんじゃ……?」


 侍大将が残された目を細めながら、感慨深そうに言の葉を紡ぐ。


「随分と……ご立派になられましたな」


 以前のアオイであれば〝それでは前までは立派ではなかったということかっ〟と激昂していたことだろう。


 しかし今は違う。大陸を横断し、酸いも甘いも経験した三十路は一味違うのだ。


「……世界を見たからの。わらわがどれほど恵まれているのか、よぉくわかったのじゃ。お主にもいろいろ迷惑をかけたな――三右衛門よ」

「……お嬢っ」


 男は目頭を押さえる。


「儂は五右衛門です……三右衛門は双子の兄の方です」


 旅をしてもポンコツは治っていないアオイだった。


「そ、そうかっ! いやっ、はっはっは! わらわもまだまだじゃな!」

「いえ……根本は儂の知ってるお嬢のままで安心いたしやした! これで儂らも気合が入るってもんです!」


 五右衛門が大きく息を吸う。


「――お前ぇらぁ! 火の国の侍魂、しかと帝国の奴らに見せてやれぇぇぇぇっ!」

「「「おおぉぉっ!」」」


 侍たちが気勢を上げる。


 大地が揺れる。


 侍の進軍が始まった。





「――ぐあっ」 


 どさり、と帝国兵が膝を折る。


「この程度で王国に手を出したのか……我らが恩人のこの国をっ!」


 膝を折った帝国兵に強烈な横蹴りを繰り出すのは、獣王十臣〈影〉のドルリーだった。


 ドルリーは今、大武闘場に残っていた帝国兵を一人一人倒していた。


「あっ、あの! ドルリーさんですよねっ! 商人の……!」


 ドルリーに助けられた一人の青年が声をかける。


 その言葉で怒りに燃えていたドルリーはいつもの優しい顔に戻る。


「……ええ、そうですよ。どこかでお会いしましたかな……?」

「あ、あの、オレ……商会の配達人をしてて、それでドルリーさんの店にも……」


 そう言われてドルリーは記憶の中にある、快活な青年を思い出す。


「ああ……! いつも元気に挨拶してくれていた」

「は、はい! そうっす! みんな配達人のオレの挨拶なんて無視するのに、ドルリーさんだけは挨拶してくれて……でも三か月前に急に店を閉めちゃって。オレ、あなたになにかがあったのかと……」


 心の底から心配していたのだろう。安堵した表情の青年。それは己の命が助かっただけではなく、気にかけていた人の安否が分かったことへの安堵もあるだろう。


 若く、未来溢れる青年を見て、ルードの姿が脳裏に浮かぶドルリー。


 彼もまた、失敗続きでありながらも諦めることなく全力で生きていた心優しい青年だ。だからこそドルリーはこの青年にある質問をする。


「青年――」

「は……はいっ!」

「君は……この国が好きかい……?」


 ドルリーの問いに、少し俯く青年。


「今の帝国の属国になっているこの国は……正直、好きじゃないっす……」


 でもっ、と青年が顔を擡げて力強く述べる。


「前の王国は好きっす! みんな笑顔で、ちょっと喧嘩もあるけどすぐ仲直りする、あの暖かな王国が大好きっす……!」


 そうかい、とドルリーが言葉を発した瞬間、武闘場に残っていた帝国兵三名が影からドルリーに飛び掛かってきた。


「あ! ドルリーさ――」という青年の注意の声はドルリーの動きによって遮られた。


「――邪魔をしないでもらおうか。いま、この国の未来を見極めているところでねっ」


 ドルリーの姿が消えたかと思うと、次の瞬間には三名の敵を殴り飛ばしていた。


 青年に背を向ける形で着地する。肩越しに告げる。


「……君のような若者がいるなら、この国は安泰だね」

「ドルリーさん……?」


 青年の呟きのあと、黒装束に身を包んだ狼のような耳を生やした獣人が数名近づいてくる。


「……ドルリー様、ご命令を」

「武闘場周辺の争いも落ち着いたようだ。少数はここにいる一般人の退避を手伝いなさい。決して一人たりとも怪我させぬように」

「了解です」

「残りは、私とともに王都中を駆けずり回って支援に向かいます。獣人の身体能力を帝国に見せつけます」

「了解っ!」


 そうして最後にドルリーは、助けた青年に満面の笑みを送る。


「明日には君の大好きな王国に戻っていますからね。悪夢のような一年は今日で終わりです」


 ドルリーは王宮の方角を見る。


 〝はれんち〟な姫が玉座に座ることを期待しながら。





「――一の太刀、春霞(はるがすみ)

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」」」」


 たった一振り。


 ヤギューが右手に持った刀を、左上段から右下段に振り下ろしただけで、数百の帝国兵が宙を舞う。


 王都の東、草原で繰り広げられるは一人の剣神による蹂躙であった。


 剣の神が刀を振るだけで、その切っ先からは巨大な斬撃が飛び、駐屯地を築いていた帝国軍本隊を切り崩していく。


「――一の太刀、春霞」


 また一振り。


 もはや隊列など意味をなしていない。阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。


「んー。わざわざ火の国から泳いできた割には肩透かしだなぁ。十万ぐらいの兵力があると思っていたんだが……精々二、三万といったところか。北も舐められてるのぉ」


 死屍累々と成り行く帝国本隊を眺めながら、刀を肩に担いで空を仰ぎ見る。


 思い返すは一年ぶりに見たシャルやアンたち八陣の面々と、愛する娘アオイの顔だ。


 ――色に耽っていたシャルは、その顔に覚悟を乗せていた。


 火の国を訪れた七竅やティファニーによると、この一年、町娘に扮して過ごしていたらしい。そこで市井と触れ合うことで国を背負うということを改めて考えたのかもしれない。


 ――アオイもそうだ。


 火の国唯一の剣巫女としてちやほやされて育った我儘娘。己が世界の中心と疑わない傲慢さ。そういった棘のような雰囲気が顔から消え失せていた。その代わりに、大陸を横断したという自信が滲み出ていた。


 可愛い子には旅をさせろっていうのは案外正しいんだな、とヤギューは片笑う。


 そうして流れゆく雲を見ていると、大きな欠伸をしてしまう。この二か月間、荒波を泳いで来たということもあって疲れているのだろう。


 この程度で疲れるなんて老いたな、と思いながらこの面倒な仕事を早く終わらせて、綺麗なお姉さんと寝ることを決める剣の神。


 右肩に担いでいた刀をその形のまま頭頂部まで持っていく。反対に左腰付近まで下がった切っ先を左手で掴む、右手で振り下ろすのを左手で制止する形だ。


 左足を後ろに引き、半身になり、右肩が敵陣の方を向く。力を貯める。そして解放。


「――二の太刀、夏紅天(かこうてん)


 貯めたエネルギーを一気に解放したことで、その刀身は赤く燃え、斬撃にもその熱は乗る。


 大きな半月状の斬撃は、敵に向かって飛んでいく過程で球状に変形し、正しく〝太陽〟となって敵陣に衝突する。しかし斬撃はこれで終わらない。小さく圧縮してから、一瞬で大きく膨張し、弾けて消えた。


 その弾けた太陽は、熱波と炎弾を伴って広範囲を焼き尽くす。


 これが大陸最強の武人――剣神ヤギューの力。


 燃える景色に満足したのか、軽く口角を挙げる。


「儂が剣神、暇人ってな」


 かかっ、と笑うヤギューの声は熱風に乗って溶けていった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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