表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第4章です、お嬢様 締めるところはしっかり締めてください、シモの話ではありません
28/47

第三話 八陣守護姫臣

「お父様ぁぁ!」


 現れたヤギューに抱き着くのは娘であるアオイ。約一年ぶりの邂逅である。


「おう、久しぶりだな」


 ヤギューはアオイの顔に掛かった髪を耳に掛ける。


「立派な面構えになった。旅をしてよかっただろ?」

「うむ。色々あったが……本当に大変じゃったが、素晴らしきものであった!」

「なら、その総まとめをはじめっかっ!」

「うむっ」


 ヤギューの胸元に顔を埋めていたアオイがある疑問を口にする。


「というかお父様? どうしてこんなにも磯臭いのじゃ?」


 ああ、とヤギュー。


「泳いできたからな!」

「そうか! あの荒波を越えてくるとは、流石はお父様じゃっ」

「だろ?」


 人知を超えた偉業に対しても〝父親だから〟という理由で納得してしまうアオイ。


 そうして親子の抱擁を終えたヤギューがシャルの元へ歩みを進める。


「――ないすたいみんぐ、だったろ?」

「ええ。これ以上ないくらいにね。これでわたくしたちの好感度も爆上がりよ!」

「アンテロスもセラちゃんも宰相も、みんな久しぶりだ。元気そうで何より」


 シャルを含めた面々を見渡し感慨深そうな瞳をするヤギュー。

「ヤギューのおじさまぁぁ! おひさしぶりぶりぃぃ!」


 感激のあまりヤギューに抱き着こうとしたオーギュストの顔面を足の裏で受け止める。


「むさくるしいんだよ……オーギュスト」

「んもうっ。だからワタシはローゼリアだってばぁ! でもおじさまにならなんて呼ばれても緩むわぁ――穴がっ」

「悪ぃが儂はおなご専門だ」


 緊迫した状況で久闊を叙しながらも、シャルは凛々しい顔で口を開く。


「戦況は?」

「ティファニーちゃんが知ってる」


 と顎でティファニーに投げる。


「えっとねー、あっ、ファスファスが報告を受けるからあれで分かるよー」


 と貴賓席を指差す。


 見ると、何やら伝令を受けるファウロスの姿。拡声魔法は継続しており声が駄々洩れだ。


「なにッ!? 北に配置した帝国兵が敗走だとッ?」

「は、はッ! 突如王国派の騎士たちが反転し帝国兵を急襲。それに準ずる形でなぜか帝国近衛隊も後方から帝国兵を攻撃。挟撃された帝国兵は方々へ散ってしまいましたッ」

「北の混成国家群は!?」

「王都へ向け進軍中!」

「訳が分からん! 王国派と帝国近衛隊も王都に向かっているのかッ」

「いえ……それが……」

「なんだ! ハッキリ申せ!」

「はッ! その、およそ六百の王国派及び二千の近衛隊は消えました! 消息不明です!」

「消えた……だとッ!?」


 その様子を見ていたシャルがティファニーに訊く。


「飛ばしたの?」

「モチっ! 六百の馬鹿は王宮に、二千の侍はこの大武闘場の周囲に!」

「よくやったわ」

「えへへぇ! 姫ちゃんにお礼を言われると嬉しいなぁ。ねね! これが終わったら揉んでいいんでしょ? 姫ちゃんのおっぱい!」

「ええ、もちろんよ。そういう約束だったものね。一揉みだけ許してあげるっ」

「やっふぃぃぃ♪」


 小躍りするティファニー。それを一瞥し、今度はアンに問う。


「教国は?」

「どうやらナイスタイミングのようでございます」


 とアンも貴賓席を見るよう促してくる。


「殿下! 緊急事態です!」

「もうすでに緊急事態だッ。なにがあった?」

「教国です! たった今、教国は帝国本国に対し宣戦布告を行いました!」

「………………………………………………………は?」


 ファウロス、思考停止。


「くそッ! まったく訳が分からん! どうしてこうもアクシデントが続く! 一度城に戻る! シャルロットたちは後だ!」

「そ、それが殿下!」

「まだあるのかッ!」


 と唾を飛ばす。


「大武闘場外に待機させていた魔法騎士隊の付近に、近衛隊の鎧を身に纏った集団が突如出現。現在交戦中です! 城に戻るのも危険でございますっ」

「……待て。お前は一体いつの話をしているんだ?」


 北と開戦をしたのはつい数時間前だ。その後王国派と近衛隊が造反。そこまでは分かる。いや、理解はできないが事実としては認識できる。


 それがどうして近衛隊がこの王都に居て、魔法騎士隊と衝突しているのだ?


 北に敷いた布陣から王都までは早馬でも一週間はかかる。


 それがどうして数時間で……と考えてファウロスは考え至る。


「『最古の魔女』ティファニー・ティンパニーか……! なにが八陣守護姫臣だと思ったが、これほどとは……!」


 怒りの表情でシャルたちを見下ろしてくる。


 思い通りにいっていることを確認したシャルが、ある訂正をする。


「ふふふ。わたくしの配下は素晴らしいでしょう? でも一つだけ、あなたは勘違いをしているわ、第四皇子サマ」

「勘違い……だと?」

「ええ、さっきの名乗りにもあったけれど、セラ姉とユーゴ、アオイは八陣ではないわ」

「なん……だと。であれば、あと三人も残っているのか……!」

「いいえ。これで全部。八陣は埋まっていないのよ。二、三、七が空席。ただいま絶賛募集中!」

「……ならそこの三人をいれればいいだろうが……ッ」

「なにを言っているのあなた? セラ姉はメイド長。ユーゴは宰相よ? 八陣に入れるワケないじゃない」


 疑問に包まれるファウロス。どうして真面目に問答しているのかも分からない。


「メイド長はその名の如く、メイドの長よ。常に模範たる姿勢でメイド道を歩まなければならない。宰相もそう。宰相とは国の政を一手に引き受けるのが道理。八陣なんかに入ってはいられない」

「……ちょっとまて。そもそも八陣とはなんなのだ?」


 ファウロスの問いにヤギューと頷き合うシャル。


「八陣守護姫臣とは!」


 シャルが叫ぶ。


「好きにふらふらし!」


 とヤギュー。


「すきにりょうりをして」


 とドリアーヌ。


「好きにおじさまを追い駆けてぇ!」


 とオーギュスト。


「好きに姫ちゃんのおっぱいを観察して!」


 とティファニー。


「好きに淫らな体を衆目に晒す」


 とアン。


「「「「「「自由に自由を愛する集まり!」」」」」」


 銘々が、己が思いの丈を暴露する。


「……頭が痛くなってきた」

「ふふふ、こんなこともわからないから所詮、あなたは皇太子になれないのよ。適材適所。それこそが統治者の理。まだまだひよっこね」

「貴様……! 魔法も使えない落伍者が……ッ!」

「ふふ、ならひよっこのあなたに見せてあげましょうかっ。アン!」

「はい」


 シャルの喚呼にスカートを広げ、深く一礼する。


臣従紋(オマージュ)――解放」


 そうアンが口にした途端、臀部を中心に魔方陣が現出する。


 大武闘場に光が満ちる。


「くぅ! 次から次からッ」


 あまりの眩さに顔をそむける。


 およそ三秒ほどで光は収まった。


 目を凝らすとそこには、中空に浮遊する白き両翼を携えた『神』が顕現していた。


「墜ちし神――アンテロス」


「…………」


 言葉が出ない。しかしこの存在が神だということだけは理解できる。


 ボブカットの髪は腰ほどまでに伸びている。三重の光輪が背後に浮いている。


 神が口を開く。


「あぁ。五万人が私を見ています。熱く火照った下半身もスースーして気持ちいい……」


 見ちゃいけませんっ、という子供の目元を覆う母親の声がやけに響いた……。


「お分かりかしら? アンはその名の如く、神話に刻まれし神よ。それを召喚したのがわたくし。つまりね――魔法は使えるのよ」


 言い終わるや否や、シャルを中心に莫大な魔力の渦が立ち込める。


 それはまるでシャルロットの存在を世界に知らしめるようなものであった。


 魔力の渦が晴れると、


「――艶姿(あですがた)姫舞衣(ひめのまいぎぬ)――」


 東方のキモノをベースとした、胸元が大きく開いた純白のドレスを身に纏ったシャルが凛と佇んでいた。すでに着ぐるみは消え去っている。


「仮にも〝覇連血〟な姫であってよ? わたくし。〈堕ちし神〉アンテロスの常時召喚と力の封印に魔力のほとんどを使うだけであって、わたくしの魔法の腕はピカ一なんだからっ」

「くッ……うううぅぅ……!」


 ファウロスの歯噛みは止まらない。


 それは計画が頓挫したこと、剣神が王国に現れたこと、北の戦線が崩壊したこと、シャルロットが無能ではなかったことによるものだった。


 シャルロットとアンテロスの真の姿をお披露目したことで、大武闘場にはこれまでとは異なる熱気も巻き起こる。


「この時をお持ちいたしておりましたぞッ、シャルロット様!」


 観客席から立ち上がり、男が叫ぶ。


「我ら地方より参戦せし元王国兵にございます!」


 一人、また一人と立ち上がる。


「どうか祖国を取り戻すために戦わせてくださいッ」


 見たところただの平民にしか見えない服装だ。王宮を除され、地方に流され、冷や飯を食わされていたのだろう。その者らが決戦に際し集ってくれた。シャルは確かに胸が暖かくなるのを感じるとともに、友が見事に務めを果たしたことを理解した。


 舞台上で両手を広げ、シャルは高らかに宣言する。


「よくぞ集まってくれたわね、愛すべき我が臣民たちっ。愛と笑顔とちょっとのスケベに溢れる、あの素晴らしき王国を取り戻したいという馬鹿は! 剣を取って立ち上がりなさい!」

「「「「「おおおおお…………ッッッ!!」」」」」


 憂国の士たちの雄叫びは大武闘場を轟かせる。


「戦う力のない者は! 家に帰って朗報を待っていなさいな! この戦いで巻き込まれてケガをすることも、死ぬことも許さないわ! 素敵な笑顔で、勝利を収めた家族を、友を、隣人を出迎えなさい!」

「「「「「はい……っ!」」」」」


 非力な者たちの覚悟を決めた返事は戦士に安心を与える。


「――さぁ、お祭りの始まりよっ」


 シャルロットの号令で、王国を取り戻す戦いの火ぶたが切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ