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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第4章です、お嬢様 締めるところはしっかり締めてください、シモの話ではありません
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第二話 はれんち

「――集いなさい、わたくしの配下たち――」


 その言葉で五つの影が方々から飛んでくる。その飛んできた影は、シャルを捕らえようとするおよそ百の帝国兵を空中で蹴散らしシャルのもとに集う。


 シャルを守護するように中心に据え、アオイも交えた六名が観客と対峙する形で陣を敷く。


 その中にはファウロスの見知った顔もあり、思わず声を荒げる。


「そんなッ! ど、どうしてだッ――ドリアーヌ・エスコフィエッ」


 尻尾を揺らしながらドリアーヌが応じる。


「……あたしは料理人」

「そうだッ。だからこそ俺が庇護し、好きにさせたのだッ。その俺を裏切るのか……ッ」


 頭を振るドリアーヌ。


「……ちがう。あたしは料理人であるまえに、姫さまの臣下。姫さまを裏切ることなんてありえない。はじめっからファウロスの味方にはなっていない」

「ぐうぅぅぅ……ッ」


 と歯噛みするファウロス。


 数少ない獣耳との交流はスムーズに行われていたと勘違いしていた。獣耳だからこそ恩赦を与え、王宮に残した。その思いを踏みにじられたように感じるファウロスは、失望の表情に染め上げる。


「八陣守護姫臣、か……」

「殿下。元宰相ユーゴ・オペラの姿もありますぞ」


 ファウロスの傍から側近が情報を伝えてくる。


「……俺の知らぬ顔もある」

「あれは元王国騎士団救護班長のオーギュスト・ロマンスグレイですな。いまは王国派の騎士を取りまとめていたかと」


 動揺が武闘場を占めている中、ファウロスは失望を包み隠しながら状況を分析する。


 しかしそう簡単に終わらせないのが美姫シャルロット。


「ほら、さっさとあなたも来るのよ。言ったでしょ――集いなさいって」


 そう話すシャルの顔はファウロスに向いていて……、


「――ッ! くッ」


 嫌な予感がしたファウロスは剣を抜きながら後ろを振り向く。


 ガキィンッ!


 するとファウロスに切りかかろうとしていた帝国近衛騎士団四番隊隊長と鍔迫り合いになる。


「……四番隊は俺の麾下だ。その隊長が牙をむくかッ! 答えろッ。どういうつもりだ!!」


 帝国近衛騎士団は帝国騎士団の中でも選りすぐりの強者が皇族の守護として召し抱えられる。


 皇帝の守護は零番隊。第四皇子であるファウロスには四番隊が与えられる。


 一騎当千の近衛兵。それを二千名も本国から派遣させたのが三か月まえ。


 部隊は全員、戦争に備え北に配置させたが、隊長だけはファウロスの護衛として帯同させていた。その隊長が反旗を翻したのだ。ファウロスの驚愕も筆舌に尽くしがたいものがある。


「あっれー? 殺気は出してなかったんだけどなー。やるじゃん、ファスファスっ」


 端正な顔から発せられるのは、年若い女の声だった。


「ファス……。貴様は誰だ? 隊長はどうした?」


 すぐさま自分の知っている隊長とは別人だと理解する。


「ウチ? ウチはね、姫ちゃんのことが大好きなただのギャルっ」


 隊長の姿がドロッと溶け、緑色の髪をサイドポニーテールにした十代にしか見えないギャルが現れ、顔の横でサイドピースを投げてくる。


「んで隊長は食べちった♪ てへぺろっ」

「食べた……だと?」

「うん! やっぱ若い男はマジ美味いよねー! 肌も魔力も若返ってテンアゲーってカンジ☆」


 すでに鍔迫り合いは解け、両者は距離を取った。それを好機と捉えすぐさま側近がファウロスの楯となるべく間に入る。


 それを見届けてから舞台上のシャルに叫ぶ。


「ごっめーん姫ちゃん。暗殺失敗しちったー」

「まぁ、いいわ。降りてらっしゃい――ティファニー」

「はいはーい!」


 とその場から消えるギャル。


 次の瞬間にはシャルの元に立っていた。


「――いまのは転移魔法!? それにティファニーだと? 『最古の魔女』ではないかッ。いったい全体どうなってる!」


 もはや取り繕った雰囲気は霧散した。


 眼下の舞台を見下ろす。


 シャルのもとに集いし臣下は七名。


「その七名に剣神を含めた八名が――八陣守護姫臣。化け物を二人も従えているのかッ、あの姫はッ……!」


 他方、混迷極める貴賓席を見上げながらニヤリとするシャル。


「お久しぶりね、みんな。せっかくの晴れ舞台だし、盛大に名乗りを挙げましょうかっ」


 頷く面々。


「……八陣守護姫臣・第四幕ドリアーヌ・エスコフィエ。料理がすき」


 ふんす、と鼻息荒く名乗る。


「同じくぅ、第五幕オーギュスト・ロマンスグレイこと、ローゼリア・ラブロマンスよぉ。むっさいダンディなおじさまぁ! こんど一緒におデートしましょー!」


 観客に向かってムッチュムッチュと投げキッスをする。


「ウチはー、第六幕ティファニー・ティンパニー! 姫ちゃんのおっぱいが大好きなただの魔女だから、そこんとこヨロシクー♪」


 掌を上に向けて、前に突き出すようにするピース――ギャルピース――を繰り出す。


「僭越ながら、終幕を司っております。アンテロスでございます。ただいまお尻を叩いてくれる汗臭い殿方を募集中です」


 優雅に一礼する。


「あたしぁ、セラ! ただのメイド長さ!」


 大きく胸を張る。


「ユーゴ・オペラ。しがない宰相です」


 右手を左胸にあてて一礼する。


「わわわ! わらわはアオイ! 火の国の巫女じゃっ!」


 腰に手を当てて顎を上げる。


「そして主であるわたくしこそが!」


 大きく肺を膨らませる。


「――初代女王の覇の血脈を連綿と継ぎし者! 〝覇連血(はれんち)〟な姫、シャルロットよっ」


 髪をかき上げ凛々しく宣言する姿は女神を彷彿とさせる。


 ドリアーヌの造反、近衛騎士隊長のなりすまし。


 予想外のことが起きてはいるが、それすらも予想内。


 それがどうしたッ、とファウロスは拡声魔法をもって大号令をかける。


「大武闘場外に待機している魔法騎士隊よッ! 魔法の一斉掃射にて敵を穿てッ!」


 ファウロスの指揮によって星の数ほどの攻撃魔法が天から降り注ぐ。


 民間人が巻き添えにならぬよう防御魔法で固めた帝国兵も観客席に配置している。


 ……この場にシャルロットが現れることは予想ができていた。


 ゆえにこれがファウロスの切り札――場外からの魔法による絨毯爆撃。


 発射の初動が見えないからこそ、対処に戸惑るはず。


「『下手な魔法、数打てば当たる作戦』だッ。ドリアーヌを失うのは惜しいが、もはやそうも言ってはおれん」

「ファウロスッ。シャルロットだけは生け捕りに――」

「黙っていてもらおうか、愚王」


 と怜悧な瞳をバプティストに向けるファウロス。


 シャルロットがここにおり、近衛隊長も入れ替わっていた。となればいつ侍が大挙してもおかしくはない。王都でのいざこざなど迅速に対処すべきなのだ。


「なッ!?」


 眼を見開く愚王を無視して、シャルたちの行く末を注視する。


 高く上空に打ちあがった無数の魔法は重力に従って降下を始める。


 それぞれが結合し、反発し、個の魔法が集の魔法となって厖大な威力を内包しながら落下してくる。


 ファウロスたちもただでは済まないだろうが、それも覚悟の上だ。なによりも、ファウロスの温情を蔑ろにしたドリアーヌにも腹が立つ。


 すべてを無に帰してしまえと思いながら舞台を見る。すると突然、


 ――バンッッ!


 と極大の破裂音がファウロスの、いや観客五万人、いいや王都中の者の耳朶を叩いた。


「なんだ――ッ」


 思わず耳に手を当ててしゃがみこんでしまう。ついで瞼を上げると、上空の魔法の悉くが消え失せていた。


「「「「「「「「「「…………は?」」」」」」」」」」


 帝国兵の心が一致した。


 ……静まり返る大武闘場。


 静寂を切り裂くはシャルロットの鈴を転がしたような声だった。


「ふふふ。やあっと来たわね――ヤギューっ!」

「「「「「…………ッッッッッ」」」」」


 その名に慄く帝国関係者。ファウロスとて例外ではない。


 ――カラン。

 ――コロン。


 軽い下駄の音を奏でさせながら大武闘場に姿を見せるは東方の衣類に身を包んだ初老の男性。


 抜き身の刀を肩にポンポンと担ぎながら、優雅に入場してくる。


「…………あいやしばらく」


 ゆったりとした動きで納刀する。チンッと鍔が鳴る。白い歯を輝かし、男は述べる。


「八陣守護姫臣・序幕バンサイ・ヤギュー。ここに参上仕った……!」


 少し顎を上げ、恰好を付ける。


「神輿の一つぐれぇ用意してあんだろうな、姫さんよぉ?」


 にやりと片笑うその男。


 最強の剣士。


 剣神ヤギュー、参戦。

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