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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第4章です、お嬢様 締めるところはしっかり締めてください、シモの話ではありません
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第一話 暴露

「――以上のように、この王国は帝国の援助のもと、更なる発展を遂げ――」


 王都の一角に位置する大武闘場では、帝国第四皇子ファウロスが開会の挨拶をしている。


 それを見上げるは舞台に立っている八名の天覧武闘会予選通過者たち。


 それを取り囲むようにして五万人を収容できる大武闘場は、そのすべての席に観客が座っている。


 高らかに講釈を垂れているファウロスの背後――貴賓席――には、本国より派遣された帝国近衛騎士団四番隊隊長が護衛についている。


 横には形式上、コアハード王国現国王バプティスト・コアハード。そこから少し離れたところにファウロスの側近中の側近、三嫌人が控えている。


 ファウロスの演説に続く形で、バプティストが開会の宣言を行う。


「……我が臣民よ、今日という日によくぞここまで集まってくれた。天覧は、その名の通り王の前で行われるもの。我が妻にして先代女王であったヴィルヘルミナ亡きこの十一年。天覧武闘会は執り行われなかったが、こうして彼女の命日に実施できることを心より嬉しく思う」


 バプティストの言葉に観客は拍手で迎える。それが静まるのを待ってから、二の句を継ぐ。


「ゆえに! この時、この場所こそが、開戦の狼煙を上げるのに相応しかろうッ」


 ――観客も噂には聞いていたのだろう。 


 二週間まえに北の混成国家群の軍隊が王国との国境付近に陣を敷いたのを。


 それを迎え撃つ形で王国兵及び帝国兵が布陣したのを。


 万全を期すべく帝国からファウロス麾下の近衛騎士団四番隊二千名が王国に入ったことを。


 だから観客五万人に動揺はなかった。


「現時刻をもって、コアハード王国は北方の異人国家群に対し開戦を宣言するとともに、天覧武闘会の熱気を持って我が国の出陣式とするッッ」


 魔法騎士隊による豪華な魔法での演出で開幕した天覧武闘会、本戦。


 第一試合は、バニーガール姿が特徴的な妙齢の女性と歴戦の勇者感を醸し出している冒険者。


 女性は兎の面をしているため顔は分からないが、その剣筋には一切の迷いなし。一瞬で勝利を収めたバニーガールの女性こと『発情兎ちゃん』は順調に駒を進める。


 対して第四試合は、可愛らしいライオンの着ぐるみを身に纏った『お酒大好きライオンさん』対帝国騎士団に在籍する青年だった。


 はじめは青年が有利だったが、最後にライオンが逆転し勝利。そのまま駒を進める。


 ――天覧武闘会、決勝。

 『発情兎ちゃん』対『お酒大好きライオンさん』


 これまで一振りで試合を終わらせてきた兎と、起死回生を成し遂げてきたライオンの戦い。


 観客は一様に、これまでのような戦いが繰り広げられると考えていた。しかし実際は、両者まったく同じ剣筋、まったく同じ戦法をぶつけ合うものだった。 


 干戈の音が鳴り止まない。


 人知を超えた剣術に、観客は皆魅了された。


 火花を散らし、舞台を切り刻んでいく剣舞は激しさを増していく。


「こうして剣を交えたのは初めてだけど、なるほど、これはこれで面白いわねっ」


 ライオンが感想を口にする。


「……わらわもまったくもって同感じゃ。そしてこの剣捌き……お父様の関係者じゃな」


 兎もまた、感想を述べる。


「あら? 言ってなかったかしら? そうよ――ヤギューはわたくしのお師匠様。だからアオイとは姉妹になるわね。剣姉妹。竿じゃなくてごめんなさい。あ、でもあなたの父親だから、それはそれで問題ね」

「……すけべぇめ。それにわざとわらわに黙っておったのじゃろうが。食えぬ女よ」

「わたくし〝はれんち〟だから」

「意味がわからぬわっ」


 二人の会話は極めて仲睦まじいもの。されどその剣のぶつかり合いは、まるで剣戟の暴風といっても過言ではない。


 だが二人の剣舞にも終わりが訪れる。


 ライオンの下からの切り上げが兎の面を吹き飛ばしたのだ。


「あ……」


 アオイの黒い髪、切れ長の瞳、薄い紅の唇。素顔が白日の下に晒される。


 両者の動きが止まる。


 武闘場にいる観客は皆が一斉に謎の女剣士の顔に注目する。それは武闘場の警護についていた帝国兵も然り。


「あれは……!? 誰かッ! その黒髪の女をひっ捕らえろ! 火の国の関係者だッ」


 そう言葉を発した帝国兵は、三か月まえに『年中酔い』で巡検にあたった男だった。


 ――火の国。


 その言葉によってその場にいた人間に衝撃が走る。


 帝国の人間は、やはり侍が来たかと警戒し、


 王国の人間は、なにが起きるのかと期待し、


 祖国を愛する者たちは、時は満ちたと歓喜する。


 兎の面が取れてしまったことでワタワタしているアオイに、手隙の警護兵十名が舞台に上がり取り囲む。


「わわわっ。ここで正体がバレるのは想定外じゃ! お父様もいないし、わらわどうしようっ」


 三十路、大パニック。


 当初の計画では、シャルとアオイが純粋に戦いを楽しむ予定だった。それでどちらが勝ってもよかった。優勝した方が国王を攫うか斬るか、個人判断の計画。


 ヤギューはおらず、侍が王国に到達しているのかも知らないアオイは、ここで正体が露見することは避けたかった。


 舞台上で狼狽えるアオイにシャルが声をかける。


「大丈夫よアオイ。これでいいの」

「シャル……?」


 言うが早いか、瞬きの間にシャルが舞台上の警護兵を倒す。


「…………は?」


 起きた現象に、誰かが呆気にとられた声を漏らす。


 女剣士が火の国関係者であった事実、それを捕らえるべく舞台に集う警護兵。刹那の内に地に伏したそれら。眼下で次々と起きることに苛立ちを隠せない様子のバプティストが、身を乗り出し激しく喉を鳴らす。


「ええいっ! 一体なにが起きておる……! なぜ火の国の人間が我が国にいる! なぜ対戦相手である貴様が兵士を斬る……! 貴様は何者だ……っっ!!」


 待ってましたと言わんばかりの声色で、ライオンの着ぐるみを着ていたシャルが答える。


「わたくしが何者ですかって……?」


 ゆっくりとライオンの顔を模した頭部の着ぐるみを脱ぐ。はらりと青い髪が垂れ落ちる。


 しかしその髪色は、毛先から徐々にピンクゴールドに変遷していく。


 顎を上げ、誰何をしたバプティストに流し目をしながら己が正体を露にする。


「わたくしは――この国の正統な統治者にして、〝はれんち〟な姫よ」


 シャルが毅然と宣言する。


 決して大声で話したわけでもないのに、なぜかその声は大武闘場五万の観客の耳に染み渡る。


「シャ……シャルロット……? 我が美しきシャルロットか……っ?」


 目の前の事実を認識することに時間がかかっているバプティスト。


「あなたの? 寝ぼけたこと言ってんじゃないわよこのハゲ! わたくしはわたくし! わたくしの在り方はわたくしが決める! 悪いけど、その玉座を渡してもらおうかしら」


 シャルが剣先をバプティストに突きつける。


「その玉座は、〝はれんち〟な者に限られるもの」

「シャル……ロット……」


 と同じ事しか宣わないバプティストとは異なり、横に座していたファウロスの行動は早かった。


「やはり現れると思っていたぞッ。帝国兵ッ! シャルロットを生け捕りにしろッ」


 ファウロスが立ち上がり、大きく手掌を舞台に向けて号令をかける。


 すると観客席から百名ほどの武装した帝国兵が抜剣しながら舞台のシャル目掛けて飛んでくる。


「いくら剣術に優れていようとも、武闘会で疲れた状態でこれほどの武装した兵を無力化することは不可能。俺の勝ちだ」


 ファウロスが勝ち誇る。


 それを遠めに見ながら、ふっ、と鼻で笑ったシャルが玉座奪還への狼煙を挙げる。



「――集いなさい、わたくしの配下たち――」

お読みいただき、ありがとうございます!


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