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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第3章です、お嬢様 欲望を曝け出すのも結構ですが人の目も気にしてください
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第四話 ポンコツ連鎖反応

 にんまりと口角を挙げたシャルは、小さく、呟きとして聴こえないくらいか細い声を出す。


「な…も訊……に話を合…せな…い」


 頭の上に生えている耳がピコピコと動いたのを確認してから、シャルはわざとらしいほどの声色で件の人物に近寄っていく。


「あら! 久しぶりじゃない――ドリアーヌっ」

「…………ッッ」


 唐突な喚呼によって、帝国兵のみならず客までもが一斉にシャルの方を向く。


「……っ。ん、久しぶり」


 シャルはドリアーヌに抱き着き歓喜の声を漏らす。


「いやん! 随分と逞しくなっちゃって。元気にしてた? 今はどこでなにしてるの?」

「……いまは――」

「おい! そこの女! 動くなといったはずだぞ!」


 制止の命令を無視したシャルの行動を咎める帝国兵の一人。


「なによー、ケチ臭いわね! 旧友に会えたのだから見逃しなさいよ!」

「旧友、だと?」

「そ! わたくしとドリアーヌは幼いころに一緒に育ったの。料理の腕が秀でていた彼女はお偉いさんに連れられちゃったけど……ねードリアーヌっ」

「ん。あたしと姫様はずっとなかよし。ずっときゅうゆう」

「いやん。旧友の意味が違うわよぉ。相も変わらず可愛いわねっ」


 とドリアーヌの腰に頬を擦りつけるシャル。ドリアーヌは背が高いのだ。


「…………」


 帝国兵の視線がドリアーヌの尻尾と耳に向けられているのが分かる。これ以上ないぐらい揺れているのだ。嘘ではないことが伝わるだろう。


 ――もちろん、本当のことでもないのだが。


「ふんッ。獣風情が慣れあいやがってッ。女! お前はそこから動くんじゃないぞッ」


 どうやらドリアーヌの扱いは帝国兵と言えども軽んじることはできないようで、シャルのとった行動は許された。それを好機と捉ええるは、アンである。優雅に尻を振りながら近づき唇を開く。


「お久しぶりでございます、ドリアーヌ様」

「――っ! ん。久しぶり。げんきだった?」


 と、二人目となればそれっぽい台詞も口から吐きだせるドリアーヌ。


 彼女は決して馬鹿ではないのだ。


「おいッ! なんだ貴様は!」

「私もドリアーヌ様の旧友でございます。付き合いでいえば十年以上になりますでしょうか。そう――あれは霧雨の振る王都。買い物帰りの私を――」

「ええい! もういい! ドリアーヌ様の知り合いは分かった! もういいからそこでおとなしくしておけッッ」


 シャルの時と同様に、ブンブンと揺れる尻尾とピコピコと動く耳を確認した帝国兵は、アンの長くなりそうな回想話を遮って、その場での待機を命じてくる。


「ご配慮感謝いたします。ほら、ドリアーヌ様もお知り合いなのでしたらお礼を申し上げないと」

「ん? そなの? じゃ……ありがと」


 チッ、と舌打ちをした帝国兵が再度、異邦の女性を詰問しようとする。そこに待ったをかけるのはシャルだ。


「ねー、帝国兵のお兄様方。わたくしやアンがいいのなら、その女性も見逃してあげてくださらない?」

「……この怪しい女もドリアーヌ様の知り合いだと……?」

「……その人、あたしは知らない。あっ、いってしまった。良かった?」


 ドリアーヌは耳をペタンと垂らしながら、失言をしてしまったかもしれないと落ち込んだ様子をみせる。それを感じ取ったシャルがしっかりフォローに入る。


「大丈夫よドリー。彼女はわたくしお気に入りの新しいペットなのよ。いつかドリーに紹介したいなと思っていたところにあなたと再会できたものだから、わたくし歓喜のあまりに濡れてしまうわっ!」

「ぺっとだとっ! 高貴なるわらわを家畜同然に扱うと申すのかっ! 不敬であるぞ!」


 シャルの言い分に三十路大激怒。


 顔を怒りで真っ赤に染め上げて抗議の声を上げる。


 空気の読めないポンコツねー、と思いながらシャルが満面の笑みを浮かべながら女性に声をかける。


「料理――美味しかったでしょう?」

「うぎゅっ! わらわの弱みを握って偉そうな顔をしおってからにぃぃ!」

「わたくし、いったわよね――この店の料理は世界で二番目に美味しいって。じゃあ一番美味しいのは?」


 唐突なシャルの問いかけ。


「…………???」

「なにを隠そう、このドリーの作る料理こそが世界一なのよ!」


 ババーンッ、とドリアーヌに両手を向けて、まるで新作発表のように大仰にドリアーヌを持ち上げる。


「……本当か……?」

「ええ! だって今や王宮の厨房を一手に引き受ける料理長を任されるほどですもの!」

「……えっへん。だれか知らないけれど、あたしはすごいのだっ」


 よく分かっていないドリアーヌが胸を張ってシャルの言い分に同意する。


 彼女は馬鹿ではない……が、頭が言い訳でもないのだ。


「おおっ! そうだったのか! この店の料理も垂涎の代物だったのだが、それ以上となると……ゴクリ」

「ゴクリって言っちゃってるわよ、このポンコツ三十路」


 女性の単純さに呆れたシャルが二の句を継ぐ。


「てことで、その女性も見逃しなさいな」


 危機的なような、危機的でないような状況をスマートに回避できたな、と思わず高笑いしてしまいそうなのを我慢していると、帝国兵の一言で冷や水を掛けられたように沈静してしまう。


「……ちょっと待て。貴様、ドリアーヌ様とは久方ぶりに邂逅したといっていたな。その貴様がなぜ、いまのドリアーヌ様の職務を知っている……?」


 ――あ、これはミスったかも。


 わたくし口を滑らしたのではない? と冷や汗が止まらない。


 異邦の女性にポンコツと罵ったシャルもまた――ポンコツだった……。

お読みいただき、ありがとうございます!


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