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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第3章です、お嬢様 欲望を曝け出すのも結構ですが人の目も気にしてください
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第三話 日常を切り裂く声

「ううううぅぅ。胸がぶかぶかじゃあ……」


 と泣きべそをかきながら給仕をするバニーガールの女性。その女性を見つめながら、ふむ、とシャルが満足気に頷く。


「なかなかに、はれんちな姿ね。まあもっとも、わたくしの場合にはもっとたゆんたゆんに胸が揺れるわけだけど……ふふ」


 腕を組んで頷くシャルに、お嬢様、とアンが注意を促す。


「三十路様を視姦されるのも結構ですが、ちゃんとお給仕の仕事もしてください。ルード様がおられず、ただ酒が飲めずに不貞腐れるのも分かりますが、為すべきことは為してください」

「分かってるわよ。でも見てみなさいよアン。あの羞恥に彩られながらも客からのスケベな視線を浴びる興奮、なにかセクハラをされるのではないかという期待と不安。手を離せば服の隙間から乳首が見えてしまうという緊張感。あの女性のスケベ具合はあなたと同等と見ていいわね。期待できるわ!」

「まったく……どのような期待をされている事やら……」


 そうして二人してオロオロしながらも料理や酒を運ぶ女性を見ていると、ある出来事が起きる。


「にょわぁぁぁ! 誰じゃ! わらわの脚を撫でた無礼者はっ!? 切って捨ててくれようかっ」

「へっへっへ。随分と誘ってくれる恰好じゃねえか。なぁ、少しその太い脚で俺の顔でも挟んでくれよ」


 しこたま酒を飲み、酔った労働者が女性にセクハラをしたのだ。


「これまたテンプレねー。『酌をしろっ』ではなく『挟んでくれっ』っていうのも小物感たっぷりで捻りのない……さて、どうでるかな」

「テンプレも素敵ですけどね。様式美といいますか。まあ確かにここは、『一晩俺の相手をしろよ。ゲッゲッゲ』という台詞こそ至高。少々役不足感は否めませんが……」

「いや……『ゲッゲッゲ』なんて笑う人なんているの? 官能小説の読み過ぎではない?」

「そういうお嬢様はティーン向け雑誌とスポーツ新聞の読み過ぎですね。どこに『兄と禁断の恋に落ちる妹』や『秘書に手を付けるキモデブ店主』がいるのですか」

「えー……。だってとってもはれんちではない? 家族を養うためにアルバイトしている人妻の弱みを握ってとか、お兄ちゃんが世界一大好きな妹が人目を忍んでイチャコラするのとか、すっごく滾るわぁ!」

「それが甘いのですよお嬢様。現実は小説も奇なり。実際はもっとドロドロねちょねちょしているのです。その一端を書き記したものが官能小説です。お嬢様が目にされるものはピュアすぎるのですよ」

「ねちょねちょかー。はれんちね!」

「はい。想像するだけで濡れてまいります」

「だからあんたのどこが濡れるっていうのよ……あ、客をひっぱたたいたわ、あの人」


 シャルの視線の先では、絡んできた客の頬に一発キツイ平手打ちをする女性の姿。


 よほど腹に据えかねたのだろう。しかしどこか瞳は潤んでいるように見えるのは、怒りゆえか、興奮ゆえか。


「こんの愚弄がっ! わらわの玉体に触れて良いのはお父様か運命の相手だけじゃ! 汚らわしい手で触れるでないっ」


 机の上に倒れるセクハラ客。その衝撃で食器やグラスは床に落ちて割れる。


「あーあ。備品壊しちゃって。セラ姉のお説教確定じゃない……」

「近頃流行りの〝ケツ穴確定〟というやつですね。ぜひとも洗浄は私に任せてもらいたいものです」


 アンの呟きを無視してシャルが口を開く。


「ていうか運命の相手って……随分とお花畑なのかしら? そりゃあ三十路まで独り身だわ」


 シャルやアンの言葉が届いていない女性は両手を腰に当て、胸部の服が捲れるのも厭わずに大きく宣言する。


「良いかっ! わらわは火の国が誇る巫女っ。頂点に並ぶ女傑! わらわの名は――」


 名前を顕示しようとしたその矢先、厨房からセラの怒号が店内に響き渡る。


「ゴラァァァァっ! 店のモノ壊すんじゃないよ、このすっとこどっこいっ! 酔うのも喧嘩するのもセクハラも結構だけどね! モノは大事にしないかっ……! アホンダラァ!!」


 セラの雷によって、客の睾丸は縮み上がった。


 それはもちろん睾丸のない異邦の女性も然り。


「……ひううぅぅ……ごめんなしゃい……わらわできない子でごめんなしゃい……」


 両耳――兎の耳ではない方――をふさいでしゃがみながら謝罪を口にしている。


「ポンコツ……?」


 とシャル。


「というよりも、精神的成長が止まっているような気が……」 


 とアンがちぐはぐな女性の態度について考察する。


 さらにセラの一喝によって静まり返った店内に、好まざる来訪者が現れる。


「――巡検である! 全員その場から動かないでもらおうかッ」

「…………っ!?」


 黒い鎧を身に纏った帝国兵、数は二十ほど。幾人かはマントを肩から掛けている。


 今の王国は帝国の属国。帝国の命令は絶対。


 故に王国で復興事業に従事する客たちは、他国から出稼ぎに来た者たちであっても逆らわない。


「……店の外にもいるわね。ひょっとしてバレちゃった?」

「ですね。ただの巡検にしては過剰戦力です。この間の〝ハエ叩き〟で暴露してしまったのでしょか?」

「えぇぇ。わたくし完璧にやったわよ? 遠巻きに見ていた偵察隊も潰したし……」

「それは私もです。ということは、なにか他のルートからここを見つけたのかもしれませんね。いかがいたします?」

「ま、成り行きでっ」

「承知いたしました」


 帝国兵が店内の捜索及び客の身分を検分している間に、二人はこそこそと、こうなった経緯と今後について話し合う。


 そこで気になったのは、胸元を抑えながら帝国兵を睨みつける異邦の女性の姿だった。その女性に二人の帝国兵が近づき誰何する。 


「身分証を」

「……ない」

「ない? どうやら見たところこの国の人間ではないな。どうやって入国したッ?」

「……散歩してたら迷子になって、この国に着いたのじゃ」

「そんなふざけた話を信じるとでも思っているのか?」


 まったくその通りだとシャルは思う。せめてもう少し虚飾を施したストーリーはなかったのだろうか?


 訝しむ帝国兵によって、他の客を誰何していた帝国兵たちが女性を取り囲むように配置しだす。


 これはまずいなぁ、と思うがしかし、女性が怪しいのも事実だ。十中八九、火の国の関係者であることは分かっている。ゆえにできるものなら助力をしたいのだが、どうやら帝国兵はシャルたちの変装を完璧に見破った上で巡検に訪れたようではない。


 であれば、このまま逃げ切ることも可能ではある。しかしその結果、女性は連れ去られるだろう。


 どうしたものかと豊満な胸の下で腕を組んで考えていると、見知った顔が店に入ってきた。

お読みいただき、ありがとうございます!


この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると幸甚の至りです。


よろしくお願いします!!

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