第四話 衆人環視プレイですか……?
「お、女の部屋。それも夜に一人で……。これってあれだよな? 俺を元気づけようとしてシャルが人肌脱いでくれるってことだよな……?」
――夜も更け、客がすべて引き払った『年中酔い』。
二階に通じる階段を上りながら、ルードはドキがムネムネしているのを自覚していた。
シャルと知り合ったのはちょうど一年前。店を立ち上げたものの、中々軌道に乗らず不貞腐れている時に出会った。
金がなかったルードが人づてに聞いた安酒を飲ます店に赴いたのがはじまりだった。味が濃いだけで量のある食事、安くて沢山飲め、美人な女性三人で経営をしている店。
想像以上のものだった。なによりも、青い髪を靡かせながらホールを縦横無尽に差配するシャルに目を奪われた。
話しかけられ、勝手に席に座られ、酒を飲まれた。
しかし何事も上手くいかなかった時に、ああして気兼ねなく接してくれたのは助かった。だから仕事が壁にぶち当たっても頑張れた。
好き――という感情に偽りはないが、男女のソレというより友情に近いものを感じていた。それが唐突に部屋に誘われたのだ。体のイロイロなところが奮い立ってしまうのも無理はない。
なんてシャルについて考えていると扉の前に到着した。控えめにノックをする。
「はーい。ルードでしょ? おはいりなさい」
「お、おう……」
育ちの良さ、というよりも貴族特有の人を扱うのを常としていた者の口調。ルードの予想では、帝国の接収によって没落した貴族のお嬢様か、商家の妾腹の子だと思う。
しかしそれにしてはどこか近寄りがたい雰囲気もあり、彼女が依然口にした「姫」という発言からどこかの小国の姫かもしれないな、と一人納得しながら入室する。
「よ、よう。言われたから来た――ぜ……」
質素な部屋だった。ランプが一つだけということもあって仄暗い。踏みしめた床がギシギシと鳴る。だがルードが驚いたのはそこではない。
シャル以外にも、アンと店主であるセラがいたからだ。
もしかして三人が? 複数プレイですか? と頭の中でグルグル思考が入り乱れていると、ベッドに腰かけていたシャルが口を開いた。
「椅子はセラ姉が座ってるから、立ったままで。ね?」
まさか衆人環視プレイでの立位でしたかっ、とルードは顔が赤くなっていくのが分かった。
「は、はい……ッ。よろしくお願いしましゅッ」
と勢いよく頭を下げたルードは、ズボンを脱ぐべくベルトに手をかけた。
「お嬢様。ルード様が勘違いされておりますよ。訂正してあげては?」
とシャルの傍に佇んでいたアンが具申する。
「え? 勘違い……?」
もしかして上から脱ぐべきだったのか? なんて思いながら上目遣いでシャルを見る。
「もうっ。言うのが早いわよアン。もう少しでルードの間抜けな姿が見られたのに」
それはまるでドッキリが失敗したかのような表情にルードには感じられた。
「は? え……間抜け……?」
ズボンを下ろそうと中腰になったまま動かないルード。それを見かねたセラが真相を教えてくれる。
「ごめんねルードちゃん。たぶんシャルちゃんがその体で慰めるとか思っちゃったんだろうけど、そういうのじゃないから。真面目な話があるのよ」
沈黙が四人を包む。
急に頭が冷やされたようにルードは正気を取り戻す。
「なななななッ! だって女性が夜に男を誘うって……そういうことじゃ……!?」
「そんな訳ないでしょうが。このむっつりルード。まあ、純情な青年を弄んでしまうわたくしの魅力が罪なのよ」
「……いや、単純にお嬢様が意地悪なのとルード様がむっつりスケベなだけです」
「ま、若い男なんざ腰を振る事しか考えてないからねぇ」
はっはっは、と一笑に付すセラ。
ひどい言われようだ……。
ルードは小馬鹿にされたのだと思い、カッとなってしまう。
「――なッ! なんだよッ。人が落ち込んでるっていうのに馬鹿にしてッ。もう帰る……!」
怒りと勝手な期待を裏切られたという失望感を抱えて踵を返そうとして、足が止まる。
いや、足を止められたのだ。シャルから発せられる気迫によって。
「――まあ、揶揄ったのは謝るわ。ごめんなさい。でもね、あなたを助けるといったわたくしの言葉に嘘はないのよ。おわかり?」
「…………ッ」
言葉はいつもと変わらない。酒場の店員にしてはえらく上からの物言い。優雅に脚を組み、凛とした姿勢は高貴さを感じさせる。
しっかりと手入れされた青い髪はまるで舞台上で花咲くようで、ここが場末の酒場の二階とは思えないほどだ。
アンも、セラも、口を開いていない。アンに至ってはシャルの傍で瞳を閉じているほどだ。
しかしそれでもシャルから発せられる威圧感のようなものに思わず膝を屈してしまいそうになる。
言葉が喉から洩れることすらも許されない空気がルードを襲う。
「詳しくは言えないけどね、わたくしはそのルードの恩人という人に興味があるの。そしてその人物がわたくしの予想どおりであれば――救うことができる」
もちろんルードもね、とシャルは絹のような言葉をルードに投げてくる。
「その代わり、と言ってはなんだけど、ルードには店を畳んでもらうことになるわ」
――店を畳む。
その言葉がルードを見えない支配から解放した。
「……ふ、ふざけんなよ! 俺が一生懸命やってきたのはシャルも知ってるだろ? それでなんで〝畳む〟なんて言葉が出てくるんだよ……ッ」
「ならあなた――死んでもいいの?」
「…………ッッ!」
下唇を噛む。
分かっているのだ。恩人や実家のために店を畳むことが一番マシな選択であることを。
しかし文字通り血と汗の結晶である己の店を潰すことは受け入れざるものがある。
ルードが目を血走らせながらシャルを睨んでいると、傍に控えていたアンが助言する。
「言葉が足りないのはお嬢様の欠点にございます。店を畳むのは物理的かつ一時的なものであることをお伝えしなければ、ルード様はお怒りになられますよ?」
「もう怒ってると思うけどねえ、あたしぁ」
「…………………………………………………………………え???」
なにを言っているのかまったくと言っていいほど分からないルードは間抜けな顔を晒す。
「えー? 今の説明で分からないかなぁ。ま、要するにねルード――」
シャルの言葉に呆けながらも耳を傾けて、
「その恩人とやらに、わたくしを会わせなさい!」
予想外の言葉がルードの耳朶を叩いた。
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