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プリンセッサ・ロンド  作者: 美貴
第二章です、お嬢様 身嗜みにはお気をつけください
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第一話 料理人の矜持

 ピコピコと動く耳、ゆらゆらと左右に揺蕩う尻尾。そこだけ見れば〝猫〟と変わらないそれ。


 王宮料理長を任されているドリアーヌ・エスコフィエは猫の獣人である。眼鏡もかけており知的さを思わせる顔。豊満な胸もチャームポイント。


 今は帝国から目付け役として派遣されているファウロスの自室に招かれていた。案内人の指示によって片膝をつくドリアーヌ。その姿を認めたファウロスは、気色ばんだ顔を隠そうと努力しながらドリアーヌに話しかける。


「よっ、よく来たな――っ! ドリアーヌ・エスコフィエ」


 ドリアーヌは答えない。頭を垂れるのみ。


 揺れる尻尾に目を奪われながら、ファウロスは招聘の理由を口にする。


「きょん回ここに――オホン。今回ここに貴様を呼んだのはほかでもない。貴様の主君だったシャルロット姫についてだ」


 揺れていた尻尾が止まる。猫耳が音を拾おうと力を籠める。


「シャルロットがこの王国に潜伏していることが分かった。そこで貴様には王都での捜索を手伝ってもらいたい」


 ここで初めてドリアーヌが声を漏らす。


「……あたしは、料理人にございます」

「知っている。だが貴様は美姫シャルロットの直臣であっただろう。変装していようとも、その顔は分かるはず」

「……あたしは料理人」


 同じ文句を繰り返すドリアーヌ。


「厨房を預かっている以上、半端な仕事は許されない。人探しなら他をあたってほしい……です」


 と鈴が転がったような声。


「その心意気は認めよう。しかしこれは〝篩〟も兼ねていてな。大儀を控えた今、叛乱などは防がねばならない。貴様の料理の腕は認めるが、シャルロットの直臣であった以上疑いが晴れることは無い。どうだ? 存分に料理に打ち込むためにも、ここらで真に帝国に仕えていると他に示すのは?」

「……そんなことでみんなが納得するとは思いません。あたしは――」

「『八陣(はちじん)守護姫臣(しゅごのきしん)』――第四幕ドリアーヌ・エスコフィエ。シャルロット自らが選定した姫の直臣だ。たしかに最も近しい臣下が帝国についたとはだれも信じないだろう。だが俺は忘れない。あの夕暮れ時の貴様の動く尻尾……」

「……尻尾?」

「……間違えた。――貴様の決意だ。〝あたしは料理人。あたしの料理を認めてくれる人のために生きるだけ〟。俺は感銘を受けた。姫の臣下というだけで命すらも葬られようとするその最期にすらも矜持を貫く貴様の覚悟に」

「……ありがとう?」


 戸惑った様子のドリアーヌ。


「うむ、その感謝受け取ろう。俺は貴様の作る料理が好きだ。そんな貴様が陰口を叩かれるのは我慢ならん。頼む、俺の為にもシャルロットを探してくれ」


 と僅かではあるが、頭を下げるファウロス。


 ――ドリアーヌは考える。


 帝国の目付け役であるファウロスに認められれば、好きな料理を続けることができる。しかしその「料理」を教えてくれたのはシャルロットだ。頭が悪いドリアーヌは一生懸命考える。


 料理を教えてもらい、直臣に列席することを認めてくれた姫。


 帝国に接収され、殺されかけていたところを救ってくれたファウロス。


 天秤は傾いた。


「……分かった。姫を探すの、てつだいます。だから料理を続けてもいいですか……?」


 上目遣いをしながらのドリアーヌの答えに、満面の笑みを浮かべるファウロス。


「おおっ。やはり貴様は期待を裏切らないな! もちろん料理は好きにするがいい。帝国の者たちに何か言われたら俺の名前を出すがいい!」

「……ありがとうございます。がんばります」


 話は終わったと思い、立ち上がろうとするドリアーヌ。だがそれはファウロスの問いかけによって防がれた。


「それとこれはちょっとした疑問なのだが――」

「…………?」

「八陣守護姫臣はその名の通り八名いると思っていたのだが違うのか? 剣神、侍従、メイド長、宰相、料理長。この五名しか判明していない。王国騎士すらも知らないのだ」


 軽い質問だが、その眼には力が宿っているのが分かる。


 先ほどまで耳や尻尾に感じていた視線が首筋に注がれている。嘘をつけば即座に首を刎ねられるような気迫を感じるドリアーヌ。ゆえにしっかりと答えることにする。


「……分かりません」


 怪訝そうなファウロス。


「分からない? 名を連ねていたのにか?」

「……はい。元々姫様とヤギューおじさんが〝カッコいいから〟という理由で付けた名で、最初はあたしも入っていませんでした。姫のノリで任命されるので詳しい事は知りません」


 嘘ではない。本当に全容は知らないのだ。


 名前も顔も知らない者がいてもおかしくはない――あの姫ならば。


 そうか、と暫し熟考するファウロス。


「魔法が使えずに剣を振る姫だ。あながち適当なのかもしれないな。まあいい、ご苦労だった。下がっていいぞ」


 一礼し、部屋を後にするドリアーヌ。ほっと胸を撫でおろす。


 そうして厨房への帰路を歩いていると、青空練武場で鍛錬している騎士の姿が視界に入る。

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