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その姫、“はれんち”につき。  作者: 美貴
第一章です、お嬢様 真面目に働いてください
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第七話 灯台下暗し

「――一年以上だぞ! どうして帝国が総力を挙げてもシャルロットが見つからないんだッ! 他の男の慰み者になっていたらどう責任を取ってくれる……!?」


 玉座で声を高らかにして娘の安否を問う男。それだけ聞けば娘想いの父と思われようがしかし、この男にとって娘は性の対象でしかなかった。


 自分勝手な要求に口角泡を飛ばしている玉座。そこに颯爽と現れるファウロス。その姿を視界に納めた王は、非難の矛先を目付け役のファウロスに向ける。


「ファウロスッ。貴方が仰ったのだぞッ。帝国の人海戦術をもってすれば一年とかからずにシャルロットの居所をたちまち暴いてくれようと! なにか申し開きがあれば聞こう!」


 眼が落ち窪み、口を歪めながら寛恕の思いを発露するはコアハード王国現王バプティストだった。シャルロットの義理の父にあたる。


 目付け役のファウロスは王に対し膝を付く必要はない。


 ゆえに立ったままバプティストに進言する。


 彼女の居所が分かりましたよ、と。


「――ッ!? どこだッ! どこに我が娘はいるッッ!!」


 一転して顔を喜色に染め上げるバプティスト。


「帝国ではありません」

「ではやはり火の国かッ」

「火の国でもありません」

「ええいッ! まどろっこしい! 貴方のそういう焦らす癖は好きになれん! 早く教えてくれ……!」


 言葉一つでこうも簡単に感情が揺さぶられているのを見てファウロスの口元には微笑が浮かぶ。滑稽であるからだけではない。自分の思いのままに動かせているからでもない。


 ひとえに、己が理想とする君主の正反対を見せられ嘲笑しているのだ。


「この一年、帝国は総力を挙げてシャルロット王女の捜索をいたしました」


 まるで聴衆に向けた演説のように振る舞う。それが癪に障るのだろう。バプティストは貧乏ゆすりをしながら次の句を待つ。


「その結果、帝国や火の国にはいないことが分かりました。もちろん北の異人種どもの国にもです。となれば、自ずと居所は明らかになりますよね、バプティスト王?」

「………………………………?」


 ファウロスの言葉に首を傾げるバプティスト。シャルロットを己の手で凌辱することしか考えていないのだろう。到底、君主の思考ではない。


「簡単です――このコアハード王国にいるのです」


 灯台下暗しですね、と締めるファウロス。


 その報告に苛立ちを隠せない様子のバプティスト。


「なッ……にィ……! いたのか! この国に! 一年も!」

「ええ。おそらく姿を偽り、反撃の機会を虎視眈々と狙っていたのでしょう。我々の喉元からずっと、一年も」

「そんなことに一年もかかったのか! どうしてそんなにも堂々としておられる……!?」

「見事だからですよ。あの日城から消え、ヤギューは東に向かう我々の足止めをした。その後、牙城門一帯は瓦礫の山。当然姉妹国である火の国に向かったものだと思わせた。その実、シャルロットは王国に残っていたのに。これを見事と言わずなんと言いましょうか」

「貴方を含めた帝国側の落ち度ではないかッ」

「はい。落ち度です。大陸に覇を掲げる帝国、その第四皇子であるファウロス・セントガイアが申しましょう――この一年に及ぶ逃走劇はシャルロット側の勝利です」

「ええい! 負け惜しみの一つも言えぬのかッ。もういい、王国にいるのならさっさと儂の前に連れてこんか! いいな、丁重に扱うのだぞ! あの娘の花を散らすのは儂なのだから!」


 白目を剥き、口の端から涎を零す姿は異常である。しかしそれを誰も不審には思わない。


 ……ファウロス以外には。


 これがファウロスの固有魔法――精神干渉魔法。属性は〈闇〉。


 闇魔法は帝国が得意とする属性だが、中でもファウロスのものはピーキーなものだった。ある特定の範囲を領域とし、その範囲における生物の精神に干渉できるというもの。


 しかし領域の設定には半年ほどの陣構成が必要であり、くわえて精神操作ではなく干渉である。すべてを思い通りにできるという類ではなく、少しずつ、それこそ雨水が石を穿つかの如く緩やかに浸透していくものである。


 だから動き出したのは二年前。


 二年前から王城を中心に陣を構成した。その帰結としての、一年前の無血開城であった。無論、精神力の強い者や王家に対して厚い忠誠心を持つ者、高い魔力を持つ者には効かなかった。


 それでも迅速かつ温和に王国の乗っ取りは成功した。戦場などの偶発的かつ大規模な状況では欠片も役に立たない魔法だが、時間さえかければ無類の効果を発揮する魔法。


 それが、ファウロスがコアハード王国の支配を皇帝から任された理由だった。


「三か月後には軍備も整います。姫を嬲りながら、帝国の覇道を玉座からお眺めくだされば結構です」


 そう言ってファウロスは踵を返す。王女シャルロットを捕らえるためだ。


 王家伝承の召喚魔法も汎用魔法もなにも使えない王国史上初の落ちこぼれ。魔法に才が無いから剣を修めたと聞いている。そのような武者など帝国の圧倒的な武力に散るだろう。


 これからの計画を立てながらファウロスは不気味な玉座を後にする。


 玉座には哄笑するバプティスト王の金切り声が響いていた。

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