9:もふもふ、可愛くて仕方ないっ!
銀狼が私の家に来て五日も経つと、足の怪我もすっかりよくなった。心配していた魔物の毒の影響もないようだ。ただ、あれだけの数の魔物に追いかけられていた。森が怖くなり、また魔物を見たら、怯えるだろうと思っていたら……。
日課となった魔物退治に向かう私に、銀狼は同行したがった。
最初は、どこへ行くか分からず、一緒に行きたがったのかと思っていた。魔物のそばに行ったら、怯えるかもしれない。そうなった場合に備え、蓋つきのバスケットを持参していた。中にいつも銀狼が寝る時に使っているふかふかのタオルを敷いて。
「怖かったら、このバスケットの中に入ればいいからね」
「クゥン」
「ゴ主人様、銀狼モ、言葉ワカルノカナ?」
「そうね。ノワールみたいには話せないけど、私の言葉は分かるみたいよ」
「クゥン!」
銀狼は元気よく私の肩に乗る。今日はさすがに陽射しも強く、汗ばむ陽気だったので、薄手のローブはなしで、ラベンダー色のドレスのみだ。
「では、出発するわよ」
箒に乗った私が上昇しても、銀狼は怖がることはない。
魔物を感知し、その近くに向かっても、ピンと背を伸ばし、怯える様子はなかった。
これならバスケットは、不要だったかもしれないわ。
そう思いながら、魔物に向け、呪文を唱える。
「glacon」
目の前にいた数体の魔物が、魔法により氷の塊に変わる。
「explosion」
パリンと氷が砕け、魔物の姿も消えた。
「この森にね、腕白な子供達が毎日のようにやってきていたの。その中の一人が、魔物を退治してくれるから、これまでは楽ができたのだけど……。その子達、今は国元へ帰っているの。社交界デビューのためにね。だからこうやって私が魔物退治しているのよ。家のそばに菜園があったでしょう。あそこを荒らされると困るし、それにこの森の中に住む野生動物を攻撃するから。みんなのこと、守らないといけないからね」
肩の上の銀狼にそう伝えると「クゥ~ン」と頬に鼻を摺り寄せる。それはなんだか「偉いですね」と言ってくれているようで、嬉しくなる。「よし、よし」と頭を撫で、「たまにはお散歩しながら帰る?」と尋ねると、「クン!」と頷く。
銀狼の足の傷は、もう包帯もいらない状態。やはり聖獣なだけあり、回復力が強い。肩からおろすと元気よく走り出す。
ブラックベリーの淡いピンク色の花の香りをかいだり、エルダーフラワーの群生地を見つけ「見てください!」というように、アイスブルーの澄んだ瞳で私を見たり。
銀狼は実に愛らしい!
しかも聖獣だからだろうか。周囲に動物が寄って来る。ウサギ、リス、小鳥。遠くでは鹿やアライグマも銀狼を見守っていた。
家に戻ると掃除をしたり、洗濯をしたり。
それは魔法で行うのだけど、私のそばをちょこまか動き回る銀狼が可愛くて仕方ない。
ヒロインの攻略対象である子供達が来ないことで、なんだか心にぽっかり穴が開いたが気がしていた。でもその寂しさは、まさに銀狼が埋めてくれているように思える。
午後は銀狼に水浴びをさせ、綺麗にブラッシングもしてあげた。
ふわふわの毛はますますふかふかになり、手触りも抜群!
もう少し大きければ、抱っこして一緒に寝たいところだった。
でもさすがにまだ小さいので、寝返りをうったら押しつぶしてしまいそうだ。
それは我慢して、いつも通り。
枕元にタオルを広げ、休ませることにした。
「クゥ~ン、クゥ~ン」
なぜかこの時、銀狼はしきりと私に甘える。
「どうしたの~」と何度も頭を撫でているうちに、私は眠りに落ちる。