7:もふもふを発見!
魔物が向かう先にいるのは……ピンと立った耳、白銀の毛、ふさふさの尻尾。
あれは銀狼ね。
しかもまだ小さい。
子どもだわ。
これは……銀狼が魔物に追われている?
「ゴ主人様、アノ銀狼、足ヲ怪我シテイルヨ!」
「本当だわ」
銀狼は獣でもなく、魔物でもなく、この世界では神聖力に匹敵する聖なる力を持つ聖獣として扱われる。成体であれば、魔物なんて簡単に蹴散らすことができるのだろうけど。
あの幼さでは無理ね。
「glacon」
魔物の動きが一瞬でとまり、森の中に氷河が広がる。
氷結の魔法を行使した。
「explosion」
パリンと氷河が砕け、魔物もろとも氷解する。
破壊の魔法で魔物は一掃できた。
「銀狼ガ倒レタヨ!」
「助けに行くわよ」
降下し、箒から降りて、銀狼の様子を確認する。
本当に小さくて、大きさとしては、子ウサギみたいだ。
両手で収まるサイズ。
血が出ている足を見ると、どうやら魔物に噛みつかれたようだ。
ヴィクトルの固有スキルである神聖力があれば、回復ができるのだけど、魔法使いはそれができない。薬草やポーションを使うしかない。
「家に連れて帰るわ。でもこの森に聖獣がいるなんて、珍しいわね。どこからか迷い込んだのよね、きっと」
「ウン、初メテ見タヨー! オ客様?」
「そうよ」
小さな銀狼を抱き上げ、箒に座る。
膝の上に優しくのせ、上昇した。
最短ルートで家に戻ると、まずは傷口を水でよく洗う。銀狼は気絶したままだ。
ふかふかのタオルに寝かせると、ポーション作りを始める。
「ノワール、薬草を準備して」
「マカセテ!」
鍋を用意し、竈に火を入れる。魔物は毒を持つものも多い。噛みつくと同時に毒が注入されている可能性もある。解毒薬も、取り立ての朝露を使い、同時進行で作ることにした。
「ハイ、ゴ主人様、薬草ダヨ!」
「ありがとう、ノワール」
しばらくは薬草を刻んだり、煎じたり、煮込んだり。
慌ただしく動くこと三十分。
「完成!」
解毒薬を飲ませ、ポーションを足の傷に塗り、包帯を巻く。
聖獣自身が浄化の力を持つが、ここまで弱っていると、その力が発揮できるものなのか。
ともかくやれることはやった。
後は休息ね。
このまま寝かせておこう。
改めて見ると、呼吸に合わせ、美しい白銀色の毛が上下している。
その毛は、まるでキラキラと輝いているように見えた。
尻尾はふさふさで空気を含み、ふわっと膨らんで見える。
体より尻尾が大きく見えるわね。それぐらいまだこの子が幼い。
「どうしてこんなところに来ちゃったの? ここは魔物が多いから危険なのに」
頭を優しく撫でるが、反応はない。
でもちゃんと呼吸をしているから、生きている。
気になるけど、休ませてあげるべきね。
銀狼は休ませ、部屋の掃除を始める。
部屋の掃除と言っても、魔法で箒とモップを動かすだけだ。
同時進行で窓拭きも行い、私自身は薬草や花に水をあげる。
掃除が終わると、これまた魔法で洗濯をして、庭に干していく。これも魔法で出来るので、楽ちんだ。メイドも従者も執事もいないけれど、魔法が使えれば問題なし!
朝摘みしておいた野菜で昼食をとり、銀狼の様子を確認するが、相変わらず眠っている。ここは寝かしておくべきとそのままにして、昼食の片づけを行う。
今日のティータイムは、時間があった。
いつもならこの時間、リュカ達が大暴れした後の、森の片づけをしている。切り落とされたツタやヴィクトルが倒した魔物を土に還す。踏みつぶされた草花に、栄養剤となるポーションを撒く。
本当は神聖力があれば、ツタも草花も復活させてあげることもできる。だがポーションでは、栄養を与えるのがせいぜい。それでもやらないよりはましだ。
でも今日もリュカ達は来ないから、片付けはしないでいい。
よって久々のゆとりある優雅なティータイムだ。
上質な茶葉で紅茶を入れ、ソファに腰を下ろす。
ティーカップを手に、チラリとローテーブルに置いた水晶玉を見る。
別にあのガキたちが来なくても、構わない。
寂しくなんてないわ。
ただ……。
何をしているのかしら?
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ気になって、覗いてみることにした。
すると……。