68:エピローグ
ジャックとアン王女が婚約したら、この世界はゲームクリア(攻略完了)となる。
そうなったらヴィクトルは、ヒロインの元攻略対象だったと過去形だ。それなら中ボスの私とヴィクトルが結ばれても、問題ないのでは?と思ったものの。
ヒロインと双璧をなすメインキャラに、悪役令嬢がいる。
前世記憶を思い出すと、ヒロインより悪役令嬢が脚光を浴びることが多いぐらいだ。そうなると、こちらもなんだかひと段落してくれないと落ち着かない。リュカとゴールインしてくれればいいなと思うが、そのリュカが、まさかの私への想いがあったというのだから……。
「アン王女の件は勘違いでしたが、殿下の件も思い違いですよね? その、私を好きだとかいう件は……。殿下は婚約者の方と仲がいいですし、お二人はこのまま……」
「そちらに関しては、思い違いではない」
「そ、そうなのですか」
私は焦るが、ヴィクトルは冷静に話を続ける。
「だが婚約者との仲も順調だ。近い内に二人の結婚式の日取りが発表になると思う」
つまり私への気持ちも過去形なんだ!
私よりも婚約者の良さに気づいたのだろうと思ったら。
「殿下のアンジェリック様への想いだが、それは……自分のために諦めてくれた」
「えっ!?」
これにはまさかヴィクトルがリュカに対し「自分はアンジェリック様のことが好きだから、諦めて欲しい」と言ったのかと思ったら、そんなことはなかった。
イネスに攫われ、神殿に閉じ込められていた沢山の男性陣を船に乗せ、港を目指していた時。ヴィクトルにエスコートされ、食堂へ向かった。あの時はヴィクトルのリクエストに応え、彼の髪や瞳の色を意識したドレスを、私は魔法で用意した。
あのドレスを見て、リュカは確信したのだという。
「通常、あそこまでパートナーの色を取り入れることはない。瞳の色と同じ宝石を身に着けたり、レースの色が髪色と同じだったり……それぐらいであることが多い。でもあのドレスは色合いからして、明らかに自分を意識したものと分かるものだった。自分がそうすることを求めているか、アンジェリック様がそうすることを望んだか。どちらであるかと殿下は考え、前者だと思った」
「え、でもあれは私が魔法で変えたもので……」
「なるべく表情に出さないよう気を付けたが、どうしたって出てしまっていたと思う。自分はあの時既にアンジェリック様を想っていた。そしてあのドレス……。気持ちを隠すのに必死だった」
唐突に語られたヴィクトルの私への熱い想いに、耳まで赤くなっている気がする。
あの時、ヴィクトルはそんなにも喜んでいたなんて……!
「殿下には多くの家臣が仕えている。彼らの様子を気にすることも、殿下の立場では必要なこと。自分のアンジェリック様への想いを汲み取っていただけた。……そもそも殿下自身、婚約者がいる身だ。アン王女しかり、アンジェリック様しかり、浮ついた気持ちを持つべきではないと、自覚されてもいた。よってこれがいい機会と、身を引いてくれたのだと思う」
そうだったのね。リュカのことはどうしても、子供の頃から知っているので、幼く見えてしまうことも多かった。でも最後の戦いの時は、ゲームそのものの王子様だったし、ヴィクトルの気持ちも汲んでくれた。リュカが家臣想いの性格で良かった。
「殿下の件は、だから過去のこととして気にする必要はない――ということは、分かってもらえたと思う。他に何か確認しておきたいことはあるか?」
そこで念のためで確認する。
ヒロインはジャックと婚約する。悪役令嬢はリュカと結婚秒読み。アランは暗殺者として、マイペースで動いている。ヴィクトルは……周回用デイリークエストに登場する中ボス(魔女)である私との結婚を望んでいるが、何も問題、ないわよね……?
しばしいろいろと考えた結果。
ない。
ないと思う。
「確認しておきたいことはもうないです」
「そうか」
そこで咳ばらいをしたヴィクトルが、再び私を見た。
とても真剣な目をしている。
これを見ると、ドキドキというより、背筋が伸びる思いだ。
「アンジェリック様。もう一度問わせていただく。自分はあなたと結婚したいと思っている。まずは婚約者になってほしい。今回、ここに足を運んだのは、他でもない。このことを告げるためだった。団長になったこと、駐屯地の件。そっちらがおまけだ」
そうだったのね……!
最初は純白の軍服をサプライズで見せるために、わざわざ「黒の森」へ来たのかと思った。でもそれだけのために、転移魔法を使えるわけでもないのに、足を運ぶのかと感じていた。だがそこで駐屯地の話題が出て、それが目的でやって来たのね……と思っていたら!
本当の目的は、まさかの私へのプロポーズだった!
「自分は黒イチジクを毎年、アンジェリック様と食べたい。菜園も手伝いたい。何より、君のそばにずっといたい。どうか自分に君のことを、愛させて欲しい」
畳みかけるように言われ、もうとろけそうだった。
喜びで全身が震え、涙が溢れそうになりながら、なんとか答えを口にする。
「グランデェ卿、その気持ちは私も同じです。私も黒イチジクを、毎年あなたと食べたい。菜園の手入れも一緒にしたいです。あなたの横で、共に笑い、支え合い、季節を感じたいと思っています」
「アンジェリック様……」
微笑んだヴィクトルは、本来ヒロインに贈るはずの、白金で作られた雪の結晶を私に渡してくれた。聞くとイネスの神殿から逃れ、船に乗り、港に着いた際。迎えてくれた近衛騎士から、受け取ったのだという。とても大切なものであるので、すぐに渡した方がいいだろうと、ジャックが近衛騎士に持たせていたというのだ。
「大切な方に贈る物であると、アンジェリック様は言っていた。ならばこれは、アンジェリック様に渡すしかない。受け取ってくれるか?」
まさかこれが私の所へ戻って来るなんて!
予想外だったが、嬉しかった。
本当は、ヴィクトルに持っていて欲しい気もするが、これがなくてももう、大丈夫なのだろう。
だって、文武両道で強い神聖力を持つヴィクトルは、無敵も同然なのだから。
「はい。受け取ります」
私が白金で作られた雪の結晶を受け取ると、ヴィクトルが私を抱き寄せる。
ぎゅっと一度抱きしめ、体をはなすと――。
氷河なような瞳を潤ませ、ヴィクトルが微笑む。
再び優しく抱き寄せられ、そしてゆっくり彼の唇と私の唇が重なった。
~ fin. ~
お読みいただき、ありがとうございました!
筆者の定期的に書きたくなるもふもふと溺愛を詰め込んだ作品でしたが
お楽しみいただけましたか~?
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なお先日スタートしたばかりの新作、ぜひご覧くださいませ。
『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!? 』
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