67:ほう、ほう、ほう。
ここだけの話として聞いていただきたい――ということで、ヴィクトルはこんな話を始めた。
ヴィクトルを連れ戻すため、私とリュカは、南の魔女のイネスが住む「青の海」へ向かった。ジャックは王城の離れで留守番だ。
突然、リュカは旅立つことになってしまったが、フラン国王は、帰国するリュカ達のために、晩餐会や舞踏会を予定していた。食材の調達や招待客の件もある。名目をただの王族主催の晩餐会、舞踏会として、それはそのまま開催されることになった。そこへ顔を出すことになったのが、留守番をしていたジャックだ。
そこでジャックはアン王女と親しくなった。でもブルボン国に、ジャックは帰国することになる。そこで二人は文通をスタートさせたが……。会いたい気持ちは募るばかり。ついにジャックは遊学を決意した。
その後、フラン王国にジャックがやって来てからは、二人は頻繁に会うようになり、その仲を深める。そしてジャックがプロポーズし、アン王女は国王陛下に許しを請い、間もなく両国の国民へ、二人の婚約が発表される状態なのだという。
「殿下は一時、婚約者がいながらも、アン王女へ気持ちを寄せていた。だがある時からその気持ちが冷めた……というより、他にもっと気になる女性ができたようで、アン王女に恋い焦がれることがなくなった。もし殿下がアン王女を想い続けていたら、ジャックは自身の気持ちを封印したと思う」
「殿下に別の想い人がいたのですね……」
考え込む私を見たヴィクトルは苦笑して、指で私の額をツンと押す。
「アンジェリック様、あなたのことだ」
「えっ!」
「『えっ!』ではない。無自覚過ぎる」
これにはもう何といえばいいのか。
口をパクパクさせる私に、ヴィクトルは話し続ける。
「殿下はアン王女に気持ちがもはやなく、そしてここ一年は、婚約者とも仲がいい。そこでジャックは、アン王女へプロポーズすることを決めたわけだ。ジャックは宰相の息子であり、貴族ではあるが、それでも相手は王族。二人の交際は秘されてきた」
なるほど。だからなのね。どうりでヒロインに動きがなく、それでいてジャックが余所余所しかったのは。いつの間にか二人は愛を育んでいた。というか、ヒロインは元々ジャック狙いだったの? それとも攻略できる男子がジャックしかいなかった……なのかしら?
もし後者であるならば。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
「ジャックとアン王女は、とても仲が良いそうだ。まさにおしどり夫婦になるだろうと言われている。元々アン王女は、物静かで理知的、そして読書好きな殿方が、好きだったそうだ。剣を振り回す殿下のようなタイプよりも。お二人の会話が盛り上がるきっかけも、あまり読んでいる人がいないような、古書に関する話題だったと聞いている」
ほう、ほう、ほう。どうやらヒロインは、インテリ美形男子好きだったのね。リュカは文武両道であるが、インテリには分類されない。インテリ美形男子のポジションと言えば、ジャックだった。
そうなるとフェロモン男子のアランは、最初から眼中になかっただろう。騎士であり知的なヴィクトルは、もしかすると候補にあったかもしれない。だが、いかんせん、イネスのせいで、本人が攫われている。その間に自身の好みにドンピシャのジャックと会ったとなれば、ヒロインは何のためらいもなく、彼を口説いたことだろう。
「ジャックは自分にとって、先輩であるが、親友のような存在でもある。彼が幸せを掴もうとしているのに、足を引っ張るような真似を、するつもりはない。よってアン王女が自分の運命の相手だなんて、絶対にない――そう断言できる」
「それは……そうですね。申し訳ありません。私の勘違いでした」
ここは素直に謝ると、ヴィクトルは安堵の表情になった。
私も安堵している。
てっきりヒロインはまだ攻略相手を決めていないと思った。
いろいろイレギュラーなこともあり、まだ迷っているのかと思ったら……。
そんなことはなかった。
もう一年前に、ジャックだと決めていたわけだ。
ジャックとアン王女が婚約したら、この世界はゲームクリア(攻略完了)となる。
ということは、私とヴィクトルが――。
いや、待って。リュカは? 婚約者とうまくやっているというが、ヒロインを諦めたきっかけは、私だって言っていた。そこはどうなっているのかしら……?
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【お知らせ】第一部完結!
『悪役令嬢です。
ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』
https://ncode.syosetu.com/n4280ji/40/
全40話、第二部開始までに一気読みはいかがでしょうか!
第一部だけで読み切りになっています。
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お待ちしています!