51:我が儘……?
私は前世の記憶を持つことで、ヴィクトルが王立聖騎士団の団長になった時の姿を知っている。団長専用の軍服は、純白だ。装飾はすべてホワイトゴールド。マントは奇しくもヴィクトルの瞳を思わせるアイスブルーだ。勿論、背中に白い薔薇と剣の紋章が刺繍されている。
その姿のヴィクトルが見たい。
そう思ってしまった結果。
魔法で掛け布を変化させると、純白の軍服風になっている。飾りボタンや飾緒はホワイトゴールド。本当はもっといろいろ装飾したい。だがそうなると、本当に王立聖騎士団の団長の軍服になりそうだった。よってそこは我慢する。
マントだってアイスブルーにしたかったが、濃紺でおさめた。しかも紋章を背中にいれるのも止めている。とにかく気を抜くと、前世記憶を総動員したヴィクトルにしてしまいそうだったので、それをなんとかすべて抑えた形だ。
でも……これはこれで、とてもよく似合っている!
碧みがかったアイスシルバーの髪と、氷河のような瞳は、白や紺色とよく合うと思った。
「どうですか、グランデェ卿!」
かなり前のめりで尋ねると、ヴィクトルは姿見に映る自分を見て、喜び、そして困惑していることが伝わる。やはり純白の軍服と言えば、王立聖騎士団の団長。軍服は紺色に変えた方がいいかしら……。
「……神聖力を発現させることができたら、いつか白の軍服を、王立聖騎士団の団長を目指したいと思っていた。よってこれは……嬉しく思う。ただ、現在自分は王立騎士団の団長なので、嬉しいのだが、これを着て殿下の前に出るのは……」
「そうですよね……申し訳ありません」
少ししょんぼりすると、ヴィクトルが慌てて私の手を取った。
「アンジェリック様。あなたは王立聖騎士団のことや、団長がどんな軍服を着ているのか、ご存知ではないはずだ。よってこれは、アンジェリック様が、純粋に自分に似合うと思い、魔法で用意してくださったのだと思う。自分が着たいと思う色と一致しており、とても喜ばしく思った。……神聖力は、無事発現できた。自分はこれから、王立聖騎士団を目指したいと思う。そしていつか王立聖騎士団の団長服を身に着けられるよう……励むと誓う」
ヴィクトルの心のこもった言葉が、頼もしかった。
その顔を見上げ、これまた前のめりで口を開く。
「きっと。きっと、なれますよ!」
「それも予言だろうか?」
予言の話、覚えているのね……!
なんだかくすぐったい気持ちになる。
「はい。予言です! 今回、神聖力は発現したので、的中しましたよね」
私の言葉に、ヴィクトルの顔に笑みが浮かぶ。
こんな風に笑うと、ヴィクトルは本当にカッコいい!
「その通りだな。では自分はいつか本物の王立聖騎士団の団長服を、アンジェリック様にお見せしよう。今日のところは、王立騎士団の団長にしていただけるだろうか」
「賜りました!」
こんな風に言ってもらえると、気分も上向く。
気持ちよく魔法を使えた。
「ありがとうございます、アンジェリック様」
そこでヴィクトルは私の手をはなし「アンジェリック様もお着替えをされるか?」と首を傾げる。「はい。でも魔法で」と答えたのに、ヴィクトルは「ではこちらを向いているので」と私に背を向けた。
魔法は一瞬なのに。肌をさらすようなこともない。ヴィクトルは律儀だわ。
そんなことを思いながら、いつも通りで魔法をかける。ラベンダー色のドレスに、着ていた寝間着を変え、ヴィクトルに声をかけると……。
「アンジェリック様」
「はい」
「よかったら、いつもとは違うドレスにしてみないか」
「え……」
いつもとは違うドレス。
そうなると白のドレスにラベンダー色のレースや刺繍かしら?
「これから夕食であろう? 殿下には申し訳ないのだが、我が儘を言うつもりだ」
「我が儘……?」
「はい。食堂まで、アンジェリック様のことは、自分がエスコートしたいと殿下に言うつもりだ」
「なるほど」と私が頷くと、ヴィクトルは思いがけない提案をする。