49:ウトウト……。
「お腹もいっぱいになりましたね。……アンジェリック様、この後はどうされますか?」
食堂でティータイムを終え、ひとまず部屋へ向かい、歩き出すと、リュカにこう尋ねられた。
この後、どうするか。
正直、今朝は五時ぐらいから起き出し、活動していた。
魔法も使ったし、百体近い動物を船に乗せるので、動き回った。そして今、満腹になったのだ。既に入浴は済んでいるし、こうなると……。
横になりたい。
つまり眠りたかった。
ということで「休みたいです」と言うと、リュカは「そうですよね。今日は朝からいろいろありましたから」と言い「夕ご飯になりましたら、声をかけますから、休んでください」と言ってくれる。「ありがとうございます」と返事をしたところで、私の部屋のドアの前に丁度到着した。
そこでドアを開けようとして、リュカを見た時。
その肩に乗っている銀狼姿のヴィクトルは、ウトウトと眠そうにしている。きっと満腹となり、私と同じように眠りたいのだろう。
「殿下はこの後、どうされるのですか?」
「僕はアンジェリック様との森での戦闘を繰り返すことで、体力がかなりついたようです。眠気もないんですよ。聞くとこの船、長距離の運行も行うということで、剣術の訓練ができる施設もあるそうです。そこでちょっと汗を流そうと思います」
これにはビックリ!
リュカは私より三歳年下で、まだ十代。だからなのかしら? 体力が有り余っているようだ。
というか、リュカが剣術の訓練をするなら、ヴィクトルは一人になる。
「殿下。剣術の訓練をされるなら、グランデェ卿は私が預かりましょうか? とても眠そうにしていますし」
リュカは私の言葉にハッとして、肩を見る。そこで船を漕いでいる銀狼姿のヴィクトルを見て、頬を緩めた。確かにウトウトしている幼い動物ほど、愛くるしいものはない。
「そうですね。お願いしてもいいですか?」
「勿論です」
リュカから銀狼姿のヴィクトルを受け取ると、ズシリと重く感じる。
もう眠くて、何をされても身を預けている――そんな感じがした。
「では殿下、また後ほど」
「ええ、また」
部屋に入ると、タオルを枕元に敷き、昔のようにそこへ銀狼姿のヴィクトルを下ろす。
ふさふさの自身の尻尾に包まるようにして眠るその姿は、本当に可愛らしい!
「ノワールも休む?」
「ウン!」
魔法で寝間着に着替えると、窓のレースのカーテンを引く。
窓の外には太陽光を受け、キラキラ輝くコバルトブルーの海が見えていた。
「ふわぁ~」
あくびが一つでる。
掛け布をめくりあげ、ベッドに横になった。
眠りはすぐに訪れた。
◇
眠っている時、私は掛け布にくるまる癖があった。
この時も体を横に向きにして、掛け布にくるまろうとしたのだと思う。
だが布はつかめず、でも代わりに私の手は誰かにぎゅっと掴まれた。
うん……?と思ったけれど、睡魔の方が強い。
さらに優しく包み込むように、抱きしめられたように感じた。
なんだか温かい。さらに安心感を覚える。
夢? 多分、夢。
そのまま眠り続けた。
ノックの音と「アンジェリック様」の声に目がゆっくり覚める。
部屋の中は真っ暗ではなく、薄暗い。
起き上がろうとして、腕の当たりに重みを感じ、かつ動かした手が、サラリとした肌に触れた。
一気に覚醒し、目を開け、大声をあげそうになり、なんとか堪える。
な、どうして、え、え??
完全にパニックとなった時。