5:毎日来るの!?デイリークエストなら仕方ないっ
リュカ達ヒロインの攻略対象が、「黒の森」へやってきた時。
もしかして彼らの相手を私がしなければならないの!?と驚愕した。
冷静に考えたら、そこは驚愕するところではなかった。
なぜなら私は、周回用デイリークエストに登場する中ボス(魔女)なのだ。攻略対象が悪しき北の魔女を討伐するぞー!とやってくるのは、当たり前の流れ。私と戦い、経験値を積み、アイテムを手に入れ、レベル上げ(成長)する必要があった。
頭では理解しても。
毎日のようにやってくるリュカ達には、うんざりだった。
リュカはやたら剣を振り回すだけの子供で、ジャックは口ばかりでうるさいだけ。ヴィクトルは目の保養になるが、無口でいてもいなくても同然のような状態。
アンジェリックは十五歳で、たいして攻略対象達と年齢は変わらない。それでも中身はアラサーの魂なのだ。よって攻略対象がとにかく幼く見え、相手にする気にならない。というか、私が魔法を行使する必要もないぐらい、ヴィクトルをのぞき、とにかく弱い。
その結果、最初の三年間。
私は彼らの前に姿を見せることはなかった。
鞭のようにしなり、竹のように丈夫な豆の木のツタに相手をさせれば、それで十分だったのだ。リュカはそれで剣の腕を上げ、あの頭脳派のジャックさえ、剣を使えるようになった。その間、ヴィクトルはどうしていたのかというと……。
水晶玉を使い、様子を見ていたことがある。
リュカはヴィクトルの強さを知っていた。そこには少し、嫉妬もしていたようだ。
「ヴィクトル、君の助太刀は不要だ。君が動くのは、北の魔女が現れた時。ここは僕とジャックがなんとかするから、君は……好きなようにしていてくれ」
この一言にジャックは「えええっ!」と抗議の叫びをあげ、一方のヴィクトルは、表情一つ変えることなく「では見守ってお待ちします」と答えた。するとリュカの顔は真っ赤になる。
「! いや、見るな。見る必要はない。その辺に魔物がいるかもしれない。奴らを片付けてくれ!」
ツタ相手のリュカは、決してかっこよく戦うことはできない。ツタに叩かれ、手から剣を落とすこともあれば、ツタに絡まれ、逆さ吊り状態にもなる。とても見られた姿ではない。
「分かりました」
「殿下、では自分も見ないようにします」
「いや、ジャック、お前は僕と一緒に戦え!」
「ええええ」
こんなコントみたいな会話を繰り広げている。
こうしてリュカとジャックはツタを相手に剣をふるう。
一方のヴィクトルは彼らに背を向け、森の奥へと歩き出す。
そして言われた通り、魔物を見つけると、矢を射て、槍を放ち、剣をふるう。
驚いたのは、ヴィクトルはもう剣・槍・弓を完璧に扱うことができている。しかもそのどれもが一撃必殺のような威力。よってそれらの武器だけで、ヴィクトルは十分強い。
でもヴィクトルの強さは、この程度ではないはずだ。神聖力を使えば、大型の魔物でも、瞬殺できるはずだった。でもそれを使う様子はない。
未だ、神聖力は発現していないのかしら?
ヴィクトルに神聖力を使われたら、さすがに私も前に出るしかない。でもそれがなかったので、ツタに相手をさせれば十分で、三年間は悠々自適に過ごせた。
そんな最中、いつもの時間にリュカ達が来ない。
おかしい。天気が悪いわけでもない。
嵐や雪をのぞき、彼らは毎日欠かさず森へやって来た。
それなのに突然、姿を現さないなんて。
三年経ち、ついにリュカはレベルがMAXに到達した……?と思ったが、そんなことはなかった。水晶玉でリュカの様子を確認し、すぐに理解する。