48:想像してはいけないと思うけれど……。
「な……!」
なんて、可愛らしいの……!と言いたかったのだけど、あまりにも感動し、言葉が続かない。
食堂では、神殿から救出したみんなが、昼食をとっている。そしてまだイネスの呪いは、解けていない。つまり、みんな動物の姿のままだ。すなわち子猫、子犬、子狐、子ウサギ、小鹿やうりぼうが、銀食器に顔をつっこみ、一心不乱で食事をしている。
とにかく愛らしくて、メロメロになってしまう。
「本当は、男性なんですよ、ここにいるのは。でもこの姿だと、ただただ、愛くるしいですよね」
それはもう、リュカの言う通り!
本当に頬が緩む。
「では席に着きましょう」
案内された窓際の席は、海の景色を楽しめる。だがそれよりも、食事をする動物達に、目が釘付けだった。三段スタンドが到着し、紅茶が用意されても、そっちのけになってしまう。皆が食べる様子を、ついつい眺めてしまうのだ。
すると……。
左手の甲に、柔らかいものが触れている。
ハッとしてそちらを見ると、銀狼姿のヴィクトルが、あのアイスブルーの瞳で私を見上げていた。その目をじっと見ると、それは氷河を思わせる瞳であり、自然とヴィクトルの顔が浮かぶ。
そのヴィクトルが鼻を手の甲に押し付け、お皿の上をじっと見る。そこには三段スタンドからとったタルトがおかれていた。そこで思い出す。確かヴィクトルはイチジクが好物だった。そしてこのタルトは、イチジクのタルトだ。
「グランデェ卿、このイチジクのタルト、召し上がりますか?」
私が尋ねると、ヴィクトルは「クゥーン」と可愛らしく鳴く。
ヴィクトルは、碧みがかったアイスシルバーのサラサラの髪に、氷河のような瞳、新雪のような肌をした、キリッとした顔立ちの端正な美青年だった。
それが今は、ピンと立った耳、白銀の毛、ふさふさの尻尾。
しかも「クゥーン」と愛らしく鳴いている。
な、なに、このギャップ!
萌えてしまうわ……!
キュン死しそうになりながら、銀狼姿のヴィクトルが、イチジクのタルトを食べる様子を見ていたら。「キュウン」と鳴いて、再び私の手の甲に鼻を摺り寄せる。そしてお皿の上のエッグタルトを見た。
まだイチジクのタルトが食べ終わっていないのに。エッグタルトも食べたいのかしら? 食いしん坊ね。あ、でもこんな姿だけど、本来は十九歳。食べ盛り。エッグタルトを差し出すと「違いますよ」とばかりに首をふる。
「アンジェリック様、それは多分、『君も食べて』という意味だと思いますよ。沢山の動物達に夢中になり、アンジェリック様は、ろくに召し上がっていないですから」
リュカの指摘に「ああ」と納得することになる。
そして銀狼を見ると「その通りです!」とばかりに、ふさふさの尻尾を振っていた。
こんな小さな銀狼姿なのに。
私のことを気遣ってくれたのね。
これには気持ちがほっこり和む。
「ありがとうございます、グランデェ卿」
そう言って頭を撫でると、「クウゥゥン」と甘えるように、銀狼姿のヴィクトルが鳴く。
想像してはいけない。
想像してはいけないと思うけれど……。
脳内で、目の前の銀狼の姿を、王立騎士団の団長姿のヴィクトルに置き換えてしまう。
「くはっ……」
美青年が、銀狼のように甘え声を出すなんて。
萌えすぎる。尊い。眼福。最高!
このティータイムは、お腹も満たされたが、同時に。
実に胸がキュンキュンとするものになった。