47:な……!
イネスの神殿にいる、動物の姿をした男性達を、漏れなく船に乗せる。それはかなり時間がかかった。動物の姿をしており、体も小さい。一箇所に密集しているわけではなかった。
でもリュカと手分けし、さらにノワールと銀狼姿のヴィクトルも協力してくれた。最終的に私の魔法で、神殿の中に残された動物がいないか感知し、無事全員を船に乗せることができた。
こんなに沢山の動物を乗せているなんて。まるでノアの箱舟みたいだわ。
それにしてもアラン……というかその依頼人が、この船を手配してくれたことは、実に有難かった。
既にケートス(海獣)からイネスの神殿へ移動するので、私は今日の分の転移魔法を使いきっていた。イネスの魔法で作られた神殿が、彼女の死後、どれだけ持つか分からない。もしこの船が来てくれなかったら、動物姿の百人の男性達と共に、海を漂流する事態になっていた。
しかも船の船員も船長も、とても親切。乗客が動物であっても、文句を言わず、対応してくれた。これなら依頼人について何か聞けるのでは……と思ったが。彼らはただ、ここへ派遣したのはアランということしか知らなかった。アランを派遣した依頼人が誰であるかは、分からないと言う。
その点に関し、私が考えている可能性は一つ。
イネスの行動は、この乙女ゲームの世界観から大きく逸脱するものだった。ヒロインの攻略対象であるアラン、ヴィクトル、それにうまく私を出し抜くことができたら、リュカのことさえ、手に入れるつもりだったと思うのだ。
そんなことをしては、ヒロインの存在意義がなくなる。それにいくらモブとはいえ、百人に近い男性を自身の愛玩具にするなんて。ゲームの世界観が崩壊しかねない。ゆえに、いわゆるこの世界を維持するための抑止力が、働いたと思うのだ。
つまりイネスはやり過ぎた。
同じ周回用デイリークエストに登場する中ボス(魔女)である私に手を出したことも、多少なりとも影響を与えたと思う。
このことを考えると、明日は我が身だ。
今回、ヴィクトル救出のためとはいえ、リュカと過ごす時間が増えてしまった。だがリュカはれっきとしたヒロインの攻略対象であり、しかも王道攻略ルートなのだ。ひとまず今日は仕方ない。だが明日、転移魔法でフラン王国に戻ったら、関りを持たないようにしよう。
そこでドアがノックされ、返事をすると、肩に銀狼姿のヴィクトルを乗せたリュカが、顔をのぞかせる。
港に着くまで、約八時間かかると言われていた。
それぞれ個室へ案内され、私はノワールと二人、ソファに腰をおろし、一息ついたところだった。
「アンジェリック様。なんだかんだで、昼食の時間は過ぎ、既にティータイムの時間です。食堂でみんなも遅い昼食をとっているので、僕達もお茶でもしませんか」
そう言われた瞬間。
正直なお腹が、キュルルルと音を立てる。
「ゴ主人様ノオ腹ノ虫ガ、鳴イテイルヨー」
ノワールがぱたぱたと飛びながらそう言うと、リュカがクスクス笑い、銀狼姿のヴィクトルも、なんだか笑っているように思える。でも朝食は缶詰と水だけだったし、お腹が空いて当然だった。そのままリュカにエスコートされ、食堂へ向かうと……。
「な……!」
なんて、可愛らしいの……!と言いたかったのだけど、あまりにも感動し、言葉が続かない。