43:これが正解ね。
まさかと思いながらも、頭の中でパズルのピースは見事にはまり、形を成していた。これが正解なのか確かめるため、私はイネスに問いかける。
「ヴィクトルは確かに、その身に神聖力を宿しているのに、発現させることができずにいた。できない……と思っていたけど、そんなことはなかったのかもしれない。もしかしてヴィクトルは、神聖力を使うと、この銀狼の姿になるのでは? そしてこの銀狼の姿になると、イネス、あなたはヴィクトルの居場所を感知できる。なぜなら、銀狼の姿になるトリガーは、あなたの魔法だから。魔法……ではない。呪い……そう、呪いね。イネス、あなたはヴィクトルに呪いをかけたのでしょう?」
リュカが「呪い……!?」と驚愕している。
私だって、今気づき、震撼していた。
魔女になるにあたり、私達を育てた光から言われていることがあった。それは魔法を使ってもいいが、呪いは使ってはならないということ。呪いを使うと、魂の堕落につながる。一度使うと魂が堕落し、さらに呪いを使うようになるというのだ。
完全に堕落すると、もはやその魂は消滅の対象となる。この世界での役目を終え、退場することになると。
「『銀の山』で修練を積むヴィクトルを見て、イネス、あなたは彼を気に入った。自分の物になるよう迫り、でも断られた。断られた上に、ヴィクトルはあなたの前から姿を消そうしたのね。そこで頭にきたあなたは、呪いをかけることにした。せっかくヴィクトルが苦しい修練を乗り越え、手に入れた神聖力を使えないようにした」
イネスは無表情に私を眺めている。
否定をしないことから、これが正解なのだろうと思う。
「神聖力を使えば呪いが発動し、ヴィクトルは銀狼の姿になってしまう。しかも呪いが発動することで、その呪いをあなたは感知し、ヴィクトルの居場所が分かるようになる。恐らく、銀狼の姿から人間の姿に戻るには、相応の時間の経過が必要。神聖力を体に宿すヴィクトルは、発動した呪いの浄化も一応できるものの、銀狼の姿では時間がかかる。その間にあなたにさらわれたら、何をされるか分からない。だからヴィクトルは神聖力を使えなかった。そうなのでしょう、イネス!」
さらに言うなら、神聖力で呪いは浄化できるが、それは呪いが呪いとして発動した時にしかできない。だがヴィクトルにかけられている呪いは、呪いの発動と同時に、銀狼の姿になってしまうもの。つまり浄化する時間がない。それ以前に幼い銀狼の姿では、神聖力を存分に発揮できない。強い神聖力は使うには、あまりにも体が幼い。自身の体を、元の人間の姿に戻すので、精一杯なのだ。神聖力を少しずつ使い、つまりは時間をかけ、人間に戻るということだ。
「そう、その通りよ。ヴィクトルは他の子とは違う。特別なのよ、お姉さま。だって、自分で元の人間の姿にも戻れるのだから。しかもヴィクトルは、私から逃げようとする。逃げたら追いかけたくなるわよね?」
「まさかこの神殿にいた沢山の動物。あれは呪いで動物の姿に変えられた、元は人間の男性なのですか!? 必要に応じ、呪いをかけ、呪いを解いて、愛玩具のように扱っている……ということなのでは……!?」
リュカの恐ろしい想像に、鳥肌が立つ。
その可能性が限りなく高いと、私も感じていたからだ。
「ふふ。さすが王子さま。賢いですね~。その通りですよ。私、一人だけ愛するなんて無理なんです。だっていい男がいたら、目移りするでしょう。ぜーんぶ欲しくなっちゃう。でも男って面倒なんですよね。“自分だけのもの”にしたがるから。うるさい子は動物の姿に変えておしおき。いい子にしていたら、また人間に戻し、可愛がってあげますよ」
「イネス、そんなに呪いを使ったら、あなたの魂は……」
そこで気づく。
そうか。
もうその魂は、既に堕落しきっている。だからこんなにもヒドイことができるのね。自分の好きなように気に入った男性の姿を変え、時に愛玩具とする。さらに一応は姉とされる私のことも、平気で剣を刺す……。
「私の魂がどうなろうが、お姉さま、もう関係ないでしょう。それで、交渉です」
イネスは両手をパンと叩き、ぶりっ子全開で微笑む。