3:ヒロインの攻略対象が倒しにきます!
前世で交通事故にあい、大好きだった乙女ゲーム『恋するプリンセス~心を溶かす甘い時間を君に~』の世界に転生した。しかもメインキャラ、ヒロインや悪役令嬢でもなく、かと言ってモブでもない。
周回用デイリークエストに登場する中ボス(魔女)への転生は、可もなく不可もなくかと思った。
それに北の魔女のアンジェリックは、魔法を使え、今はまだ十五歳だが、ゲームでよく見ていた姿まで成長すれば、とんでもない美女になってくれる。しかもその美は、ゲーム設定のおかげで、永遠にキープできるのだから!
会社の後輩女子のキツ~い言葉に傷つき、前世命を終えることになったが、こんな転生なら前向きになれる。この世界では悠々自適に生きてやる――!と思ったのですが。
そうは問屋が卸さない。
アンジェリックは、周回用デイリークエストに登場する中ボス(魔女)なのだ。だから――。
「おいっ、北の魔女のアンジェリック、今日こそお前を倒してやる! 姿を現せ!」
ソファの前のローテーブルに置いた、紫色の水晶玉から、高音ボイスが聞こえてくる。
あー、これはヒロインの攻略対象の一人、隣国の第二王子、リュカ・ジョゼフ・ブルボンね。
水晶玉をのぞくと、そこに金髪碧眼のリュカの姿が見える。現在、まだ十二歳のリュカは、もうただの子供だ。剣なんてまだろくに扱えないのに、中ボスの私を倒そうと、息巻いている。
でもリュカが息巻くのも仕方ない。何せ彼は、この乙女ゲームのヒロインであり、フラン王国の王女アン=マリー・フランに、既に一目惚れをしている。彼女のハートを掴むために、「黒の森」に住む悪しき北の魔女であるアンジェリックを、倒そうと考えているのだ。
なぜアンジェリックが、悪しき魔女扱いをされているのか。
それは「黒の森」を、人の手から守っているからだ。
人間は、森の木、そこで生きる動物、木の実と、いろいろ欲しがる。だがそれは、一方的なのだ。木が必要となると、ごっそり切り倒してしまう。動物を食料とし、毛を欲し、一斉に手に掛けてしまうのだ。
これでは「黒の森」の生態系は破壊され、環境破壊も進み、この世界から消えてしまう。
ということで、行き過ぎたことをする人間を注意していたら、あらぬ噂――悪しき北の魔女は、人間の男をたぶらかす、金品をとる、魂を奪うと言われてしまうようになる。
そうなると、討伐だー!となり、ならばと名乗りをあげたのが、ヒロインに既に恋しているリュカだった。でもリュカには、悪役令嬢の婚約者がいる。隣国で魔女退治なんてしている場合!?と思うものの。これでいいのだ。これでリュカは経験値を上げ、沢山のアイテムを手に入れ、ヒロインの好感度も上がるのだから。
だがしかし。
今はまだ経験値もアイテムも何もかもが足らず、本人も幼過ぎて、ダメダメな状態。そしてそれは、お目付け役もよく分かっている。
「殿下、まだ何も現れていません。やたらと剣を振るうのは、危険です。剣の扱いに不慣れな人間が、そのように剣を振り回すことで、ご自身が怪我をする確率は、七十%を超えます。まずは……」
やんちゃなリュカに苦言を呈しているのは、宰相の息子であり、リュカのお目付け役の一人でもあるジャック・カレ。ジャックもまた、ヒロインの攻略対象だ。攻略対象の中では最年長のジャックは、現在十七歳。
ダークブラウンの長髪は、後ろで一本に結わかれている。翡翠のような瞳に、眼鏡をかけ、見るからにザ・秀才。武術はからっきしダメなのだが、ここにいるのには訳がある。