24:まさに結果オーライ
「というかお前さん、そこまで調べがついているなら、もっと早く進言してくれればよかったのに」と、思わず愚痴ってしまう。
するとジャックは慌てて謝罪の言葉を口にした。
「そ、それは本当に申し訳なく思います。……ただ、この調査にも時間がかかりまして……。というのも黒の森はエリアも広いですし、あなたのトラップで魔法があちこちにかけられているので、むやに足を踏み入れることができませんから……」
「ああ、そうだったね。だったら調査したいと言ってくれれば、こっちも初めから協力するのにさ。……でもいいさ。済んだことをごちゃごちゃ言っても始まらない」
こうしてジャックとの話し合いも終わったのでリュカのところへ戻る。
リュカは聖剣を自身のハンカチで綺麗に磨き、手入れをしていた。
私とジャックが戻ると、腰に帯びている鞘に剣を戻す。
「二人とは和解できたから、約束通り、女神と女王の姿を見せるけど……」
すると二人は「心得ています」とばかりに揃って私に背を向ける。
別にこの場で服を着替えるわけではないが、そうしてもらえると安心できた。
何せ変身するわけではなく、魔法を解除するのだ。
魔法で変身したのではなく、魔法を解除したのでは……?と思われるのは、ややしくなりそうで困る。
ゆえに背を向けてもらえてよかった。
安堵しながら、魔法を解除した。
「はい。魔法での変身は終了です」
私の言葉に、二人の背中がビクッと震える。
背中を向けた時は素早かったのに。
こちらに体を戻すのは、やけに慎重だ。
それでも体の向きを変え、私の姿を見ると……。
「あああああ、なんて美しい。あの時より、ずっと大人びたお姿になりましたね。ずっと、ずっと、あなたにお会いしたかったです。あの時、僕に魔物除けの炎と毛布、そして食料を与えていただき、ありがとうございました」
リュカは片膝を地面について跪くと、私の右手を取った。
一方のジャックは両手で私の左手にそっと触れ、感動の涙を流している。
「あの時。一瞬触れたあなたの手は温かく、確かにそこで生きていると思いました。他のニンフは、触れようと手を伸ばすと、消えてしまう。ですがあなただけは、違っていました。生きていると実感できたのです。まさにニンフの女王であり……。再会できてよかったです……!」
なんだかこれまでの六年間は何だったのかと思うぐらい、リュカは私に懐き、ジャックは「永遠の心の友です」とリスペクトしてくれた。
ともかく言えることは一つ。
掴むつもりはなかった。だが蓋を開けてみると、二人のヒロインの攻略対象のハートを、がっつり掴んでいたようだ。魔法で変身したと思っている私に、勝手に二人とも恋をしてくれていた。勝負は私の勝ちで終わったが、例え二人が勝負に勝っていたとしても。リュカは私に痛い思いをさせるつもりはなかった。ジャックだってSAN値を落とすような発言はしなかっただろう。
しかも変身魔法を永続的に使えないことを、リュカもジャックも理解した。そしてここが重要。私を還暦のおばあさんだと信じている点だ! つまりどれだけ私に恋をしようと、魔法が永続ではないのだから、諦めるしかないということ。これでリュカが私と無理に婚約しようとすることもない。つまり悪役令嬢の代わりに、私が断罪されることもないということだ。
リュカが私への想いを断ち切ったと悪役令嬢が知れば、残念がりそうだけど……。でもリュカの母国にいる悪役令嬢が、ここに現れることはない。それにこうなっては、悪あがきはできないと思う。よって特に心配いらないと判断した。
ニンフに変身した時、他のニンフから浮いていると焦ったが。返ってそれが良かったようだ。
まさに結果オーライだった。
こうしてリュカとジャックとは最後に握手をして、二人は森を出て行った。
遠ざかる二人の後ろ姿を見送り、ふと考える。
この後は、どうなるのかしら?
ヒロインとその攻略対象達がどうなるのか、よりも。
気になるのは残りの攻略対象たちだ。
アランはここには来ないだろう。
だがヴィクトルはどうかしら?
そう。
神聖力に目覚めないまま終わりそうなヴィクトルが、気になっていた。
リュカとジャックと共に、母国へ帰るとは思うけれど……。
最後にもう一度、会うことはない――のかしら?