23:原動力がその感情!?
まさかの悪役令嬢エミリーの甘言に、リュカはまんまと乗せられていた。
思い出せば、確かにこの森に母国から戻って来た時のリュカは、なんだか強くなったように思えた。ゴーレムだって、一年は持つかと思ったのに。あっという間に攻略されてしまった。その成長と強さの源に、魔法で変身したと思っている私への恋愛感情があったなんて……!
で、でも。
落ち着くのよ、私。
「お前さん、何を寝惚けたことを言っているんだい! 永続して変身魔法を使えるわけがないだろう! それにお前さんは負けているんだ」
私の言葉に、リュカは分かりやすく落ち込む。
その上で、寂しそうにこんなことを言う。
「その通りです。僕は……あなたに負けました。ですから魔法で変身しろとも、婚約者になってくれとも言える立場ではありません。確かに僕はたぶらかされたと思います、北の魔女に。でもそこをのぞき、あなたの言い分は理解しました。森とそこで暮らす動物を守りたいことは。そこはきちんと報告しておきます。ただ、僕が理解しところで、この森はフラン王国のもの。僕はあくまで部外者です」
「いや、だからさ、たぶらかしたつもりはないよ。お前さんのこともさ!」
「そうですか。分かりました。では最後にお願いします。一生の思い出にしますから。ニンフの女神として、あなたの姿を見たのは一瞬のことでした。もう一度だけ、あのお姿を見せてください!」
どうやら髪色や瞳から、「女神と崇めたニンフ=昔、森で見かけた少女の成長した姿=魔法で変身した私」だと、リュカは気づいていたようだ。そしてもう一度だけその姿を見たい、だなんて。
こういう所は十八歳になっても、まだ成長していないというか、リュカらしいというか。
しかもその金髪碧眼の王子様顔でここまで懇願されたら、無視できない。
「あー、分かった、分かった。見せればいいんだろう? それを見たらもう二度とあたしに戦いを挑まないんだね?」
リュカはコクリと頷く。
「仕方ないわね……」と呟きつつ、その前に、と思う。
「ジャックとも話すから、ここで待ちな。氷は解除するけど、余計なことを」「しないですよ!」
そこでリュカはキリッとする。
「自分は誇り高き王族の一員です。一度言ったことを覆すつもりはありません」
「そうかい。分かったよ」
こうしてリュカを拘束する氷の魔法を解除。
次にジャックへと駆け寄った。
ジャックは首から下が氷の塊になっており、何かの拍子で倒れたようだ。うつ伏せに近い状態で身動きがとれずにいた。これは何気に苦しい姿勢だったと思う。
「ジャック、これはキツイ姿勢だったね。大丈夫かい?」
尋ねるとジャックは首を動かし、なんとかこちらを見ようとする。だが布団に簀巻きされたような状況であり、完全に顔をあげることはできない。
「リュカも降参した。お前さんも降参でいいんだよね?」
「勿論です! ニンフの女王! あなたがまさかニンフの女王だったとは! ぜひあの時のお姿をお見せください!」
これにはもうため息。リュカの発言を聞いて、どうやらジャックにもバレてしまったようだ。
「はい、はい。分かりましたよ。お前さんも降参なんだね。もう二度とあたしへの攻撃は」「しませんよ!」
即答するので、氷を解除する。
ようやく元の姿に戻れたジャックは、翡翠色の瞳をキラキラさせてこちらを見た。
ジャックからこんな視線を向けられるのは、ニンフに扮した時以来なので、少したじろぐ。極力、その瞳を見ないようにしながら、確認する。
「リュカとの話を聞いていたなら、あたしに関する噂も誤解だって分かってくれたんだよね?」
するとジャックは急にキリッとして、その頭脳派の一面を披露する。
「この森の大部分を占めるトウヒの木は、建材、家具、それに楽器でよく使われています。この大陸ではとてもポピュラーであり、需要がある木です。調べたところ、かつて東のエリアにもトウヒの木の密集地がありましたが、そこは一気に伐採され、土地として枯れてしまいました」
ジャックは眼鏡をくいっとあげ、話を続ける。
「同時に固有種となるオオライチョウが姿を消し、さらに珍しいランや昆虫の絶滅も報告されています。これらを報告書としてまとめ、フラン王国に提出するよう、父上に話します。フラン王国がこの森を守ることの重要性を理解すれば、節操のない伐採や狩りはなくなると思いますよ」
これには思わず拍手をしたくなる。「というかお前さん、そこまで調べがついているなら、もっと早く進言してくれればよかったのに」と、思わず愚痴ってしまう。
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