22:とんでもない言葉を信じた結果。
頬をうっすらと赤くさせたリュカが私に尋ねた。
「その少女は、ディープロイヤルパープルのローブを着て、フードを被っていました。でもストレートのプラチナブロンドは見えています。わずかに差し込む月光に照らされた肌は、陶器のように艶がありました。瞳の色はよく分かりませんが、聡明そうに見えます。その少女は、魔物除けの炎を起こし、体に毛布をかけてくれました。さらにパンと果物と水を入れたバスケットを置き、去っていたのです。あれは……あなたですよね?」
リュカが瞳をこちらへ向ける。眩しいばかりに瞳は輝き、顔も笑顔になっている。
あなたですよね……って、あちゃー、バレていたのね!? てっきり寝ていると思ったのに。
「あれは」「あれは魔法で若返った姿をしていたのですよね?」
うん? 若返った姿?
「あんな姿で親切な行いをしたら……恋に落ちると思います。男をたぶらかす……というのは本当だと思いました」
「いや、ちょっと待っておくれよ。どうして親切にしたのに、たぶらかすっていう発想につながるのさ! それはちょっとひどくないかい!?」
「そうでしょうか。でも……僕は……たぶらかされたと思います」
「はいっ!?」
そこからリュカはとんでもないことを語り出す。
あれは私の本来の姿だったが、魔法で変身した姿だとリュカは思った。そして親切にしたのは、自分につけいるためだと思い、心を鬼にした。だが、忘れることはできない。でも魔法で変身した姿であり、実際の私は老婆であると分かっている。だから変な気持ちを持ってはいけないと自制していた。
その一方で、もう一度あの美しい少女の私に会いたいという気持が、募っていたのだ。
「社交界デビューのため、母国に戻った時。婚約者であるエミリー公爵令嬢からこう言われたのです。『殿下、諦めてはなりません。それは運命の相手です。願いを込めたら彫像に魂が宿ったように。魔女は殿下の恋心が分かれば、願いを叶えてくれるかもしれません』と。つまり……」
リュカの婚約者ということは、この乙女ゲームにおける悪役令嬢だ。つまり彼女は、来る断罪を回避したいと思っている。自分が婚約者である限り、リュカがヒロインに攻略されれば、邪魔者として悪役令嬢は断罪されてしまう。そうならないために、婚約破棄を先にしておきたいと考えた。
そう。
悪役令嬢エミリーは、リュカを私に押し付けようとしている!!!!!
最悪だった。
悪知恵が働くエミリーは、リュカが私を気になっているなら、その恋を応援します!と言っているが、本心はそうではない。リュカと私が恋仲になれば、自身はこれ幸いと婚約者からドロップアウトするつもりだ。もし私とリュカが婚約し、そこにヒロインが登場してリュカを攻略すれば……。私が悪役令嬢の代わりに断罪されてしまう……!
しかもこんなことまで、エミリーは言っていたというのだ!
「殿下は文武両道で容姿も優れ、王都の令嬢は皆、社交界デビューしたそのお姿を見て、夢中になっています! 殿下がさらに強くなり、魔女を追い詰めた時。『その命は助けましょう。ですから改心なさい。そして僕の婚約者になっていただけないでしょうか。その姿は、以前森で会った少女に、一生姿を変えてください』と言えば、強くて賢い殿下に、魔女は夢中のはずです。きっと言われるままに、その少女の姿に変身し、一生殿下のおそばにいてくださると思いますわ」
悪役令嬢、恐るべし。何を尤もらしく言っているの!
だが社交界デビューしたとはいえ、まだ幼いピュアで単純なリュカは「なるほど!」と思ってしまった。簡単に、エミリーの言葉を信じてしまったのだ。
その結果……。
ここまでリュカは、成長することになった。
そう、私を追い詰め、自身の願いを口にするまでに。