21:本音を語り合う
リュカの聖剣は、とても重かった。
かっこよく、この剣をリュカの鼻先に突き出してやろうと思ったが、それは断念する。代わりにそのまま切っ先をザクリと地面に突き刺した。本当に鋭いからか、宝剣であり聖剣であるからか。剣は恐ろしいほど簡単に地面に刺さってくれた。
聖剣を私に奪われたリュカは、ジャックと同じ。首と足首だけ出た状態で、後は氷の塊の中で拘束されている。本当に手強かったが、私が制したわけだ。
「……お強かったです。北の魔女のアンジェリック。祖父と同じぐらいの年齢かと思うのですが、とてもそうは思えません……」
「リュカ、お前さんも十分強かったさ。魔法を使えないくせに、ここまであたしを追い込んだのだから。立派だよ。本当に、初めてこの森に来た時と比べ、あんたは成長した」
私の言葉に、リュカは大きく息をはく。
「成長……そうですね。それはある意味、北の魔女のおかげです。この六年間。ほぼ毎日のようにこの森に来ていました。その僕の相手を飽きることなくしてくださり……。おかげで剣術の腕が磨かれ、体力もつき、格段に運動能力全般がアップしました」
それはそうだろう。今の彼はレベル上げが完了した状態。これだけデイリークエストを周回すれば、スキルも経験値もバッチリなはずだ。
「あなたは悪い魔法使いとして知られていますが、実際に戦ってみて、なんというか……本当の悪党には思えません。今もとどめをさす気はないのでしょう?」
リュカがチラリと地面に刺さる自身の聖剣を見る。
「さあ、どうかね。お前さんが変なことを言えば、その氷ごと、体を砕くかもしれないよ」
私の言葉に、肩をすくめるような動きをするが、実際はガチガチに凍り付き、動けない。
「砕くつもりならもっと前にされていたでしょう……。どうして人間の男をたぶらかしたり、金品や魂を奪うのですか?」
これには私がため息をつき、肩をすくめることになる。そしてヴィクトルには何度も話したこと――森の自然と動物を守りたいから苦言を呈しただけだと打ち明ける。そこから勝手に根も葉もない噂を立てられているだけだと話すと……。
「そ、そうだったのですね……。ではヴィクトルが言っていたことが本当だったのか」
そう言うと、リュカが真っすぐに私を見た。
「僕は、自分が見たこと、聞いたこと、体感したこと以外は、信じられないのです。ですからヴィクトルからいくらあなたは悪くないと言われても、半信半疑で……」
このリュカの言葉には苦笑するしかない。
「お前さん、そうは言うけどさ、根も葉もない噂の方は信じたのだろう? あたしが男をたぶらかしたり、金品や魂を奪うったりするのを、見たというのかい?」
「……! それは……確かに見たわけではないです。……そうですね。完全に偏見でした」
そこでリュカは項垂れたが、不意に顔をあげ、再び私を見る。
「でも、見たんです」
「見た?」
するとリュカは、まだこの森に来て間もない頃、森の全容を把握していないのに、むやみに歩き回ってしまったことを話しだした。
「二日間、この森の中を彷徨いました。野宿もしたのです。ここの森には魔物がいると聞いています。……実際、この六年間。ヴィクトルはものすごい数の魔物を退治しています。そんな魔物もいる森で野宿なんてしたら、生きて朝を迎えることはできない。そう思ったのですが、僕は無事でした」
これには「ああ」と思い出す。
六年前のやんちゃで無鉄砲なリュカは、まだまだ経験不足なのに。中ボスの私に挑もうとして、森の中、奥深くに迷い込んでしまったことがあった。その結果、二日間、森の中を彷徨うことになったのだ。
「僕は体を横にして眠ろうとしたのですが、眠るなんてできるわけがない。……でも僕が眠ったと思ったのでしょうね。大変美しい少女が、僕に近づいて来たのです」
リュカの碧眼の瞳が甘く輝き、頬がうっすらと赤くなる。
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