13:……っうわああぁぁっ!
頬が温かく感じ、目が覚める。
氷河を思わせる瞳と目が合い「……っうわああぁぁっ!」と叫び、暴れそうになる私に「落ち着いて」とヴィクトルが声を掛ける。声がけだけではなく、その逞しい腕でしっかり私の体を押さえるので、身動きはできない。半ば強制的に落ち着くことになる。
今、自分がどこにいてどういう状況なのかは、瞬時に理解できた。
自分の家にいる。
そしてヴィクトルがここにいるということは。
ヴィクトルが私を家まで運んでくれたのだと即時に判断できた。
え、でも、家にいる……?
どうして? ……家の周辺では、魔法が発動するようになっていたのに。
あ、なるほど。
ヴィクトルは私を連れていたから、家の周囲に張り巡らした魔法は、何一つ発動しなかったんだ。
私のかけた魔法は、私とノワール以外に発動する。
しかし。
どうしてヴィクトルが私を連れ、私の家に……?
直前の出来事を思い出す。
そうか。
ついリュカ達の声に気を取られ、雪がこんもり積もったトウヒの木に激突したのだわ、私。
そこで額に痛みを感じ、手で押さえる。
「……すまないな。自分は神聖力を持っている。だが、まだ発現していない。神聖力を使えれば、こんな傷、すぐに治せるのに……」
ヴィクトルの手が、私の額に触れた。
驚くほど、ヒンヤリしている。
「!」
すぐそばに真鍮製のボウルが置かれており、そこには雪が入っている。
暖炉の目の前に置かれているので、その雪はかなり解けているが……。
「氷嚢を見つけられなくて。自分の手を冷やし、タオルで拭いてから、額に当てていた。血は出ていない。赤くなっているだけだ」
「……! そんな、あなたの手が凍傷にでもなってしまいます。私はポーションがあるので、大丈夫です!」
「……ポーション」
ハッと息を呑む。
この世界でポーションを作れるのは、魔女・魔法使い、後は錬金術師。
どちらも数は多くないので、ポーションは貴重だ。
つまり価格がとても高い。
王侯貴族ではないと、入手が難しい物。
そのポーションがあると、私は言ってしまった。
私が何者であるか、バレてしまったのでは……?
冷や汗が背を流れる。
「そうか。やはりここは北の魔女のアンジェリックの家なのか」
核心となる一言を、ヴィクトルが口にした。
その氷河のような瞳を向けられ、思わず視線を逸らす。
彼の着ている王立騎士団の、目にも鮮やかなスカイブルーの軍服が、目に飛び込んでくる。真っ白なマントはこの季節にあわせ、ウールでできているようだ。そのマントで私を包むようにしてくれていた。
トウヒの木に激突。落ちてきた雪の中に、私は埋もれたのだ。そこから助け出してくれたのが、ヴィクトルだった……ということだろう。雪の中に埋もれていたので、服と体は冷えている。だが濡れてはいない。よって今も、ドレスにローブという姿のままだ。
ただ、きっとこの家に着くまでの間。
私は馬に乗せられ、ヴィクトルは徒歩だった。時間も相応にかかっただろう。その間に私の体はさらに冷えた。だからヴィクトルはこうやって暖炉の前に座り、私を自身の腕の中に抱き、温めてくれているのだ。
「雪に埋もれている君を助けたのはいいが、体は冷え切っている。どこかで暖を取りたいと思ったら、屋根が見えた。この森に暮らす人物を一人だけ思い当たった。そこで一か八かで訪ねて見ると、あいにくの留守……。いや、いなくて当然だ。自分の友人を今、その人は相手にしているわけだから」
ヴィクトルのこの話し方。私が北の魔女のアンジェリックだとは気が付いていないのでは……?
「自分が思い当たる人物、それがさっき言った北の魔女のアンジェリックだ。……君は、聞いたことがないのか? この森に暮らす悪しき魔女の噂を」
「あります。でもアンジェリックさんは、悪い魔女ではありません!」
「そうなのか?」
やはり、ヴィクトルは私が誰であるか分かっていない!
でもそれは当然だ。
私はヒロインの攻略対象達の前に、一度も姿をさらしたことがないのだから!
お読みいただき、ありがとうございました!
お知らせです!
>>> 異世界転生恋愛ランキング 1位 <<<
【第一部全27話完結】二部スタートまでに一気読み!
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件
~辺境伯のお父様は娘が心配です』
https://ncode.syosetu.com/n2700jf/
ページ下部にタイトルロゴバナーございます。
よろしくお願いいたします☆彡