11:経験値を上げていく攻略対象たち
さよならもなく、銀狼が消え、まるでその代わりかのように。
やけに成長したリュカとジャックが、森へ戻って来た。
ヴィクトルはいつも通りで魔物を殲滅。
私は初めて家を出て、リュカとジャック、そして二人が連れる兵の相手をすることになった。
といっても。
まだ姿をさらしたわけではない。
家を出て、ゴーレムを少し離れた場所から、魔法で操作しただけだ。
これまでの豆の木のツタと違い、人型のゴーレムを相手にすることになったリュカ達は、分かりやすく混乱してくれた。なにせゴーレムは、その身長が三~五メートルもある。
この乙女ゲームの世界に、高層な建物は少ない。王城の塔や、聖堂に併設されている尖塔、時計台ぐらいで、貴族の屋敷も二階建てがほとんど。平民は平屋住まいだ。それを思うと、ゴーレムの五メートルの身長は、屋敷ぐらいの高さがある。しかも人の形をして、動き回るのだ。しかも数体を同時で動かしている。
「あっちから巨人が来た!」「いや、こっちにもいるぞ!」と、まずは兵士がパニックになり、続いてリュカも大騒ぎになる。ジャックは冷静に分析したいだろう。だがその時間を与えるつもりはない。ゴーレムの動きを、魔法を使い、スピードアップさせた。こうなるとジャックは、ゆっくり考えることができない。
おかげで総崩れとなり、撃退することができたのだ。
しばらくはこのゴーレムで、撃退できていた。ところが日が経つと、ジャックが攻略法を見つけてしまう。
まずゴーレムの動きを止めるため、足を狙うことをリュカに進言した。例え、これでゴーレムが倒れることがあっても、手は動かせる。何せ身長が最大で五メートルあるのだ。立ち上がっていなくても、伸ばした腕を動かせば、驚異になる。
だがゴーレムを動かす基本は、口の中にいれた呪文書だ。この呪文書が口の中から出てしまうと、ゴーレムの動きは止まる。私の魔法で動かすこともできるが、複数体を同時に動かしたい時。この呪文書がないと、不便だった。そしてこの口の中の呪文書の存在に、ジャックが気づいてしまう。足を攻撃した後、ゴーレムの口を狙うようになったのだ。
こうして半年後、ゴーレムによる攻撃は、リュカとジャックには効かくなる。
ならばと用意したのは、霧とゴーストとツタによる攻撃だ。
霧とゴーストは実体がない。よって物理的攻撃は不可能。
それでいてリュカが得意なのは剣。
かなり上達した剣の腕だが、実体がない霧とゴースト相手では、どうにもならない。
霧とゴーストで散々翻弄された時。
ツタがその足元をすくう。
つまりツタの罠があちこちに仕掛けられており、リュカとジャックは、逆さ吊り状態になる。
もしヴィクトルが同行し、神聖力を使い、霧を晴らし、ゴーストを消し去れば、簡単に攻略できた。だが相変わらず、リュカはヴィクトルに頼らず、自分でなんとかしようとする。一方のヴィクトルは、もはや弓は目をつむっても命中させることができるのでは?という腕前まで上達している。剣は言うまでもない。完璧だった。槍についても、騎乗でも問題なく扱えるようになっていた。
騎乗。そう、そうなのだ。
ヴィクトルは馬で森の中に入るようになり、これまでより行動範囲が広がっている。道なき道を進むから、馬を走らせることさえ、困難だと思う。でもそれも難なくクリアしている。
もはやヴィクトルは騎士として求められる、剣と槍。そして馬術。さらには弓も完璧にマスターしていた。あとは神聖力が発現したら……と思うが、未だ使えないようだ。
思うに。
リュカに同行し、でもやっていることは魔物退治であるならば。聖域に向かい、神聖力を発現させるための鍛錬を積んだ方がいいのに……なんてことを、自分を倒そうとしている敵に対し、思ってしまう。
そうしているうちに季節が流れ……。