10:悪知恵をつけたようね!中ボスって大変!
翌朝。
「おいっ、北の魔女のアンジェリック、今日こそお前を倒してやる! 姿を現せ!」
水晶玉から聞こえてくる大声に、目が覚める。
リュカの声に続き、ジャックの声も聞こえてきた。
どうやら無事、社交界デビューも終わり、森へ戻ってきたようだ。
いくら周回が必要とはいえ、もっと母国でのんびりしてくればいいのに。
そう思いながら、起き上がり、「あれ?」と思う。
ここ最近、目覚めようとすると頭が重く、それは銀狼が私の髪に顔を埋めているからだった。でも今は、すんなり起き上がることができた。
「銀狼は……?」
「アレ! 銀狼ノ姿ガ、ミアタラナイヨ!」
「え、ノワール、探してみて!」
「ハーイ!」
起き上がった私はひとまずいつも通り、ツタにリュカ達の相手をさせるよう、呪文を唱える。そして寝間着からラベンダー色のドレスに着替えた。
そうしながら寝室をぐるりと見渡し、ベッドの下、文机の椅子の下、クローゼットの中と、どこかに銀狼が隠れていないかと探す。
「アンジェリック、玄関ノドア、鍵ガ、カカッテイナカッタヨ!」
「え、まさか、玄関から出て行ってしまったのかしら!?」
今すぐ、銀狼を探しに行きたいと思った。
だがそこで魔法が、強制的に断ち切られた感覚を覚えた。
これは……ツタの魔法が解除されたのだわ。
ということはつまり、ツタの元となる豆の木を倒したことになる。
まさか、と思い、銀狼の捜索はノワールに任せ、水晶玉に向かう。
見るとそこには、ドヤ顔でピースサインをするリュカの姿が見える。その隣では、汗だくで、眼鏡がずれているジャックの姿も見えた。その背後に、根本からごっそり倒されている豆の木も見えている。
ツタの攻撃を抑えるため、豆の木自体を引き抜くなんて!
よく見ると、周囲には沢山の兵士がいて、どうやら彼らの協力も得て、豆の木を一気に倒したようだ。
リュカは母国に帰国している間に、悪知恵をつけたようだわ。
「exploration」
魔物を探すわけではなく、銀狼の聖獣の力を感知しようとした。
だが、見つかるのは魔物の反応で、しかもそれは続々と減っている。
そうか。
リュカとジャックが戻ったということは。ヴィクトルも戻って来ている。今、ヴィクトルが魔物の殲滅を始めてくれているのだ。
しばらく試すが、銀狼の聖なる力を感知することはない。
元々、この森に住みついていたわけではないと感じていた。
きっと玄関のドアが開いていたので、帰るべき場所に帰ってしまったのだ。
寂しい気持ちを噛みしめたいが、今は、それどころではない。
森の中には、ゴーレム(土人形)を何体か配備している。口の中に入れている呪文書では、簡単な行動しかできない。でもそばに行き、別途呪文を唱えることで、複雑な行動も可能だった。ゴーレムにリュカ達の相手をさせよう。
「ノワール、今日は私、前へ出るわ!」
「ハーイ。僕ハ留守番?」
「……そうね、留守番をして頂戴。銀狼は、帰るべき場所へ、帰ってしまったのかもしれない。でも、もしかしたら戻って来るかもしれないわ。その時はお願いね」
「了解!」
箒を手に、再度、家の外へ出る。
これまでは、家の中でのんびりリュカ達の相手をしていればよかったのに。
私を家から出すなんて!
いつの間に、ここまで成長したのかしら?
「flotter」
箒に乗り、上昇する。
上空からリュカとジャックの位置を確認し、配備しているゴーレムの元へと、移動を開始した。