1:プロローグ
ぐいと腰を抱き寄せられ、添えられた手で顎を持ち上げられた。
「な、何をし――」
突然、重ねられた唇。
何が起きているのか、理解できない。
私は、乙女ゲームの周回用デイリークエストに登場する中ボス(魔女)だったはず。
どうしてヒロインの攻略対象に、キ、キスされているんですかー!?
◇
類は友を呼ぶ。
アラサーになる私の周りに残った友達は、皆、独身女子。
学生時代より数は減ったが、週末に会って、遊んで、ご飯を食べる。趣味嗜好が似ている女友達がいるって、本当に楽しい! SNSもあるし、猫動画もある。彼氏がいなくても、乙女ゲームもあるのだ。毎日そこそこ楽しくやっていまーす!――だったのに。
「広瀬先輩って、もうアラサーでしょう? それなのにいまだ髪を染めてネイルサロン通いして若作りして、痛くないですか~? しかも役職なしの平社員。リーダーにも主任にもなれず、あれでこのまま会社にしがみつくつもりなんですかねぇ? ただの金食い虫! あんな風にはなりたくないですよね!」
入社三年目で、若い・可愛い・守りたくなると、男性社員から大人気の後輩女子。彼女が給湯室で、自身の同期とこんな会話をしているのを、耳にしてしまった。
広瀬先輩って私のことだ。
そしてその後輩が言っていること、全部その通りだから、困ったなぁ。
でもさ、本音を会社の給湯室なんかで言っちゃダメでしょ。
せめて社外で頼みますよ。
ちょっと気持ちが落ち込み、会社を出た私は。
あの後輩のような女子に、元カレを寝取られた過去を思い出す。
割とそれがトラウマで、その後、恋愛から遠のいてしまった気がする。
恋愛なし(結婚予定なし)のアラサー女子が生きて行くには、働くしかない。
よって寿退社したり、結婚したので派遣社員に転向しますという同期を見ながら、それでも正社員として、この会社にしがみついてきたわけであり……。
そんな考え事をしながら。さらには十八時からスタートした乙女ゲームのイベントが気になり、歩きスマホをしていたところ。
横断歩道の信号が点滅していることに気がつかず、眩しい光と衝撃の後に――闇が広がった。
◇
目覚めた時の私は、まだ赤ん坊。
そばには私と同じような赤ん坊が三人いた。
二人は男の子。
一人は女の子で、ストロベリーブロンドにさくら色の瞳で、とても可愛らしい。
が。
その媚びるような笑顔は、あの会社の後輩女子にそっくりで、思わず「げっ」と思ってしまった。その瞬間、自分が前世持ちで転生していることを悟る。でもまだここがどんな世界かは理解できていない。それでも思ったのは、できればこの女子(赤ん坊)とは関わりたくないということ。だが結局、一緒に育てられることになる。
私達四人を育てるのは、光だ。
そう、光。
人間ではないのに、その光からは声が聞こえる。その光から言葉を習い、魔法の呪文を習い、食べ物を与えられ、私達四人は育てられた。この光の正体がなんなのか、最後まで分からなかった。
というか、そもそもここがどこなのかも、分からずに成長していた。
言えることは、ここはどうも前世の世界とは全く違うということ。何せ光に育てられ、魔法を習っているのだ。しかも自分達がいるのは、実に不思議な空間。とにかく周囲に果てはなく、昼間は白く明るく、夜になると真っ暗になる。ここで私達四人は、光により、十五歳になるまで育てられた。
ちなみに四人は没交渉。お互いに距離をとり、話すことはない。会話なしで寂しくないのかというと、これが不思議と何も感じなかった。
そしてその日は突然、訪れる。
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