表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オールタイムベスト  作者: 森川めだか
3/5


 ロングハウスにフライは住んでいた。

カナセは学校でクラーク博士の話を「よく聞いていた」。

「人をおとなしくさせたければ、悲しむ人がいれば、その人の3倍悲しみ、怒る人がいれば、その人の3倍怒ればいいのだという」

授業が終わっても先生に挨拶は欠かさなかった。

学校を出る頃はいつも上機嫌だった。


二人で駅のホームで育てた野良猫。

「そろそろ名前付けてあげないとかわいそうじゃないかな?」

「僕らが飼ってるわけじゃないんだから、その方がかわいそうだよ」

猫は気高い生き物だ。人間は傅かなければならない。

電車が来る度、人々の噂が聞こえてくる。

「BAC・・」

「フライはどう思う? あの事件」

フライは持って来た餌を食べている猫の背中を遠慮がちに撫でている。

「お前はティーチャーズチルドレンじゃないか」

「何それ、ティーチャーズって」

「先生の話をよく聞くってことだ」

「そんなの当たり前じゃない」

食べ終えた猫はまだ口をクチャクチャやって立ち上がったフライを見ていた。

何の前触れもなしに猫は身を翻し、ホームの下に走っていってしまった。

見ているとその陰で顔を洗っているようだ。

カナセはフライを見ていた。小さい子はみんな斜視だというが、それも先生から聞いた、フライはとりわけ斜視だった。

「デラウェアなんじゃないかな?」カナセは冗談を言った。

「Darling Dearだよ。DDだ」

カナセは寒くて顔が赤くなっている。「右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさい」とクラーク博士が言っていた。

「どう? その頃の人生は」

カナセの言葉にフライは驚いたように振り返った。

「日本に帰ろう」


ロングハウスに帰ろうとするフライをカナセは砂場で呼び止めた。

「何だいそれ」

「タイムマシンは日進月歩で進んでるのよ」

カナセは拳銃型のタイムマシンをフライに向けて、タイムトリガーを引いた。

フライの姿は時の彼方に消えた。

カナセも自分のこめかみにタイムトリガーを当て引いた。

砂場に、タイムトリガーだけが猫のように残された。


「あらゆる可能性を・・」

BAC殺人事件のラジオは消えていた。

カナセはまたタイムマシンを組み立てていた。

フライとカナセはまだ出会っていなかった。

あなたの横から私の坂まで時間稼ぎの風が吹き抜けていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ