1
電話を抱いて
1
「バック前進、バック前進、時計は1時15分まで」
カナセは自作のタイムマシンに乗った。
「まあ、こんなところか」時計は1時15分。
過去に戻って、まだタイムマシンが出来上がってないことに気付くのだった。
カナセはふてくされて眠っていた。
続いて犯罪予報です・・。ラジオからニュースが流れる。
「からお伝えします。今日は何件の盗難と・・が起きるでしょう」
カメラは地球をクルクル回る。
BAC殺人事件ということが起こったばかりだった。
コルビー、アレキサンダー、ベアトリス。誰が本当の狙いだ。
カナセが来たほんのちょっとの未来でも解決されていない。
次の犠牲者は誰なのかを楽しんでるのを分かってる。
「そもそも本当なのかい? 1時15分に戻ったっての。今は午後1時15分だけど」
煙突児のコーリッジは言った。
「午前1時15分よ」
煙突児は煙突に入らないといけないからずっと小さいままだ。
「政府も言ってるでしょ。タイムマシンのあらゆる可能性を探れ、って」
「僕はまだ信じられないな。そんなもの簡単に作れるはずない。星新一だって携帯電話を予想できなかったじゃないか」
「分かってないな。私が来るまで、つまり私はそこに存在しなかった」
コーリッジは笑いながら首をひねった。
二人はケフィアコーヒーを飲んでいた。後ろには大時計が控えている。
「お昼はどうするの?」
「ケバブでも食べるさ」
空の下の人々の息づかいも、大時計から見ると人のいない街で。
「近ごろの電化製品は喋り過ぎだ」コーリッジは言った。
「すると、君は犯罪予報を見てからタイムマシンに乗ったのかい」
「そうよ、この時間、午後1時15分から午前1時15分に飛んだのよ」
「まだ分からない・・」
「つまりあなたと話してから、私は家に帰ってからタイムマシンに乗ったの」
「それで戻ったらタイムマシンが出来上がってなかった?」
「でも今、家に帰ったら私が作ったからあるはずよ」
「しかし、まだ組み立ててないわけだろ?」
「一度、組み立てて私がそこに行ったんだから、過去のある時点ではもうタイムマシンは出来上がってるのよ」
「やっぱり僕は煙突掃除の方が性に合ってるな」
「タイムマシンってのは知性的循環なのよ」
「知性ね・・」コーリッジは指でこめかみを掻いた。
「クッキーモンスターのことは聞いたかい?」
クッキーモンスターというのはBAC殺人事件の犯人のことだ。便宜上、そう呼ばれている。
皆が推理に夢中だ。
「何か新しい情報でも?」カナセは大時計台から足を投げ出し膝を伸ばした。
「君の知らない所で犯罪警報が出たんだよ」
「へえ」
「君がタイムマシンを組み立てているだろう過去のある時点でね」
「それで?」
「今日は何という・・、で終わっていた」
「コーリッジは誰が犯人だと思う?」
「分からない。しかし被害者の共通点から考えることはできるよ」
「イニシャルだけでしょ。次はDかしらEかしら」
「それがね・・」コーリッジは口を隠して近づけた。
「僕の推理ではこれで終わりだ。つまり目的は果たした。犯人は、クッキーモンスターはクリスチャンを狙ったんだ。クリスチャンのC」
カナセは誰でも言いそうな事を言う、コーリッジのそんなところが好きだ。
「名探偵ね」
「君はどう思うの」
「そうねえ」またカナセは足を上げ下げしてそのまま飛びそうだ。
「人は並外れた死をしないと納得できないんじゃないかなあ」
「君の言うことはいちいちよく分からないな」コーリッジはまた笑った。
青かった空が一瞬、緑色になって風が吹いた。
「時間稼ぎの連中だ」コーリッジが空を見て言った。
これで時が少し変わったはずだ。
「私そろそろ行くね。もうタイムマシンを組み立て終わってる頃だから」
コーリッジは腕時計を見た。「また午前1時15分に戻るのかい」
「うーん、今度はもっと前かな」
「ここはにぽんだよ、気を付けな。今度会う時は何時の君かな」
道端ではケバブが売られていた。片手で食べられるから労働者に人気なのだろう。
カナセは空を飛んでいた。
目の前にはフライがいる。
蠅と共に夏に行った私の恋人。
カナセは自分のパラシュートの紐を握った。
フライの方へ何か言って口をパクパクさせた。
フライは一瞬、ゴーグルの目でカナセを見たかと思うと、降りるところまで降りると彼は自分のパラシュートを開かずに死んでいった。
パラシュートが開いたカナセは風の関係で浮き上がり、「もっと前へ!」と叫んだ。
カナセは道を歩いていた。少し後ろにはフライが歩いている。
「スカイダイビングなんてやめにしよう」
フライは答えなかった。
「僕も追いつくからさ」そう言って、フライは靴紐を結び直し始めた。
少し先までカナセが先に行くと、後ろの坂で見えない所で、フライがいた所で大きな音がして振り向いた。
誰かが車にひかれたみたいだ。
雷、響くようで。