吾
私はどういう人間だ?
いつも、いつもそうだった。私は母から罵声を浴びていた。私は父から暴力を受けていた。
いつも、いつもそうだった。私は兄への絶対服従を誓っていた。私は憎しみを抱いた。
いつも、いつだってそうだった。けれど、いつだって彼らを尊敬した。
敬った。朝起きれば笑顔を向けた。水を持ってこいを言われれば即座に席を立ち、コップに水を注いだ。テレビのリモコンを欲すれば、リモコンをすぐ手渡した。
予想した。予測した。彼らの胸中を予想した。彼らの行動を予測した。
私は学んだ。人の欲望を満たすことに助力すれば、人から認められると学んだ。人への服従が私の幸福だと、私は学んだ。
いつも、いつもそうだった。母は私を抱きしめてくれた。父は私に不便を強いなかった。
いつも、いつもそうだった。兄は私と笑い合ってくれた。私は、愛情を抱いてしまった。
いつも、いつだってそうだった。けれど、いつだって彼らを侮蔑した。
私はそういう人間だ。私は、そういう人間だ。