10 VSオオワシ! 楽器の覇者!
「わわっ!」「きゃあ!」
咲音ちゃんとみつる君は近くの枝にすがりつき、劉生君は風におされてすっころび、ゴロゴロ転んで木簡に激突してしまいます。
「あぐっ!」
こんっ、といい音がなりました。劉生君は涙目で顔をあげ、一瞬で青ざめます。
羽の上部は白く、それ以外の体は焦げ茶色の鳥がいました。くちばしは鋭く、目を見張るほどに鮮やかな黄色の色をしています。
金髪の女の子が、小さく呟きます。
「……一層ドレミを守る三羽烏、オオワシ……!」
オオワシは不敵な笑みをもらします。
『子供といえども、偉そうな連中には、平等に灸を添えてやろう』
高く飛び立つと、女の子めがけてかぎ爪で攻撃してきました。
「……っ!」
女の子は怯えて固まってしまっています。
このままでは、オオワシの爪にやられてしまいます。
劉生君の身体が自然と動きました。
「えいや!」
女の子を背中でかばい、オオワシの爪を剣ではじき返しました。
意外や意外、手ごたえは全くありません。楽々とオオワシを吹き飛ばせました。魔王リオンと比べると雲泥の差です。
「これなら、リンちゃんたちがいなくても倒せるかも!」
劉生君は自信がわいてきました。
一方のオオワシは、態勢を整えつつ、感心するように声をあげます。
『ほう、中々の強さだ。マーマル王国の連中を倒しただけある。だが、ワシたちはあんな間抜け集団とは違う。ワシの戦い方を見せてやろう』
オオワシは大きな翼で、近くにある大太鼓をはたきました。ドーン、ドーン、と、葉が震えるほどに低い音が辺りに響きます。
一瞬の沈黙ののち、風の音がそこらじゅうから聞こえてきました。音は徐々に大きくなり、姿を表しました。
劉生君は息をのみました。
どこからともなく、大量の鳥の大群がやってきたのです。
鳩やスズメ、ヒヨドリやメジロなどなど、一羽一羽は小さな鳥たちですが、たくさんいれば強敵となります。劉生君は足がすくんでしまいます。
「と、鳥の大軍……! フィッシュアイランドの途中にあった鳥さんたちよりもたくさんいる!」
フルーツバスに乗ってフィッシュアイランドへ向かうとき、ハトの大軍に襲われたことがありました。
みんなで頑張って戦っていましたが、結局倒しきれず、橙花ちゃんの術でどうにかこうにか逃げたのです。
その時のことを思い出していると、オオワシは『ああ、そうか』と納得したように目を細めます。
『そういえばあのハトたちを倒したのは、青ノ君御一行だったな』
オオワシは枝にとまると、翼をばさりとひろげて胸をはります。
『だが、奴らは訓練に出していた弱小凱旋隊だ。こいつらは、お前らが倒したハトたちの何十倍も強い。さあ、ゆけ、ものども。奴らを引き裂癒えしまえ!』
たわわに実っていたカスタネットをむしり、思いきり踏みます。軽快な音がなるとともに、鳥たちは攻撃を仕掛けてきました。
「わわわっ! <ファイアーウォール>!」
炎の壁で凌ごうとしますが、鳥たちは炎の壁を避けて攻撃をしてきました。
「うぎゃあ!」
「劉生さん! わたくしが援護します!」
咲音ちゃんは図鑑開きます。
「おいで、わたくしの大好きな子、<ウサギ>ちゃん! 鳥さんに飛び膝蹴りよ!」
白くてふわふわなウサギが召喚されました。ウサギは大きくはねると、鳥の集団を蹴ろうとします。しかし、鳥たちは一糸乱れることなくウサギを避けます。
まるで巨人が両手でつぶすかのように、ふわりと浮くウサギに鳥たちが押し寄せました。
ウサギは一瞬で赤い魔物たちに押しつぶされ、やられてしまいました。
「そ、そんな、こんな早く!」
『はっはっは、みたか。これこそワシら一層ドレミの真の力だ』
今度は近くのトライアングルをちんと鳴らすと、鳥たちは一気に降りてきます。
「今度は俺がっ!」
みつる君はフライパンを構えます。
「いけ、<クッキング=アンセーフ>!」
シルバーの粒がキラキラと輝くと、なめらかでとろみのある蜂蜜が現れました。フライパンから零れ落ちそうな蜜を、鳥たちにぶちまけます。
そのうちの一滴が、劉生君の頬に垂れます。
「わっ!」
固まる劉生君ですが、ほっぺたが落ちることもなく、急に爆発するわけでもありません。かわりに、甘い香りがふわりと漂います。
「……」
試しに、ぺろりと舐めてみます。自然な甘味が口の中に広がります。
「おいしい……。おいしいけど、これって、普通の蜂蜜じゃないの?」
「まあね。俺たちにとってはそうだね」みつる君はウインクをします。「小さな子どもには違うけどね」
上空を見ると、蜂蜜がかかった鳥のうち一部はふらふらとすると、地面に降りています。寝ているわけではありませんが、動きが緩慢になってしまっているようです。
「鳥だから効かないかもしれないって思ったけど、効いてよかったよ」
みつる君は安心したように肩を下ろします。
蜂蜜は甘くて美味しく、ホットケーキにかけたりカレーの隠し味にいれたりと、日本の食卓に欠かせない食材です。
牛乳に少し入れると、甘くて美味しくなりますので、劉生君はいつも入れています。
しかし、万能な蜂蜜にも、ある恐ろしい側面があります。
なんと蜂蜜の一部には、恐ろしい細菌が住んでいる可能性があるのです。
弱い細菌ですので、劉生君くらい成長した子どもには効きませんが、生まれからまだ一年もたっていない赤ちゃんが舐めてしまうと、細菌が猛威を振るい、恐ろしい病気にかかってしまうおそれがあるのです。
病気が悪化すると呼吸ができなくなり、場合によっては命を落としてしまいます。
劉生君たちの世界の鳥にも、その病が発症するかどうかは分かりませんが、どうやら魔物には効いたようです。
若い魔物たちが次々と戦線離脱していきます。
「よし、これなら!」
一度<ファイアーウォール>を解除し、劉生君は剣に力を込めます。
「<ファイア―バーニング>!!!」
蜂蜜で弱った鳥たちを、炎の剣で一刀両断しました。
『ちっ、やっかいな技を使う。……ならばこっちも』
オオワシはタンバリンを蹴り飛ばします。
『態勢を整えよ!』
オオワシの一喝に、パニックに陥っていた鳥たちは瞬時に平静に戻ります。鳥たちは三部隊に分かれると、それぞれで劉生君たちに戦いを挑みます。
みつる君は鼻をこすってフライパンを振ります。
「敵のやり方が変わったとしても、やることは変わらないよ! <クッキング=アンセーフ>!」
しかし……。
「え!? きかない!」
蜂蜜をかけても、鳥たちは一羽も倒れません。よくよく見てみると、みつる君に攻撃をしかける鳥たちはみんな高齢の鳥たちです。例え魔物であったとしても、年を取っていれば話は違うようです。
「わわっ!」
フライパンで凌ぎますが、大量の鳥たちの攻撃に埒が明きません。みつる君は転がるように木の洞に逃げ込みます。
「やばいやばい、これヤバいよ……!」
思わず泣き言を叫びます。
「みつる君!」
彼を助けようと『ドラゴンソード』を握る劉生君ですが……。
「……へ?」
突如、劉生君の体がふわりと宙に浮きました。何羽かの鳥に服を摘ままれていたのです。
「わ、わ、わっ!!!」
地面からどんどん離れていき、ついにはマンション五階分ほどの高さまでに到達してしまいました。
「え!? ちょ、ちょっと待って、どうするつもりなの!? どうするつもりなの!?」
劉生君はおそるおそる後ろを振り返ります。
「……まさか、落とさないよね?」
鳥の魔物たちはニコッと笑うと、
「あっ」
劉生君を放しました。
「うわああああああ!!!!」
「劉生さん!?」「赤野っち!!!」
二人は助けようとしますが、鳥たちに邪魔をされてしまいます。そうこうしているうちにあんなに遠かった地面に近づいていきます。
あと数センチでぶつかります。
「……っ!」
絶対に痛い思いをするに違いありません。ちょっとこけたくらいの痛みとは比べ物にならないはずです。
劉生君が怖くて怖くて、かたく目をつぶった、そのときです。
「<リンちゃんの バリバリサンダーアタック>!!」
劉生君の体が、誰かに抱きしめられました。