7 トリドリツリーの三羽烏……?
咲音ちゃんとみつる君はびっくりして叫びました。
「ま、魔王トトリですか!?」「魔王トトリって、俺たちが倒す予定の敵だよね?」
あまりに驚いたからでしょうか。リンちゃんは戸惑いながらも足踏みします。
「え? やっちゃう? ここで倒しちゃう? そうしたらすごい早く帰れちゃうけど」
夕方のアニメものんびりみれますし、なんならお昼の再放送ドラマもフルで見ることができるでしょう。
しかし、残念ながら優雅なテレビ視聴パーティーは開催できないようです。
「ううん、そううまくはいかないんだ。ここにいるのは魔王トトリの幻影だからね。いくら攻撃をしても本体には効かないんだ。でも向こうの攻撃はこっちに通るから、油断してはいけないよ」
「う、そうなの? いやらしいわね……」
子供たちから殺気を向けられているというのに、魔王トトリは攻撃する気配もなく、のんびりと羽をくちばしでつついています。
『そんな面倒なことはしないって。この姿で攻撃しても威力出せないし』
「なら、さっき劉生君に何をしようとした」
『……んー。なんだろうねえ』
はぐらかすように、トトリは翼を仰ぎます。
『そんなことよりさ、トリドリツリーに入りたいなら特別にいれてあげよっか? いつもみたいにシールド破って入ってもいいけど、あれ直すの大変だし』
「……何が目的?」
『そこまで警戒しないでよ。君たちがウチのいるとこまで来てくれたら楽だなあって思っただけ』
橙花ちゃんの返事を待たず、魔王トトリは小さな声で歌います。すると、まるで見えないカーテンがひらりと風にまうかのように空気が揺らぎました。どこからともなく鈴の音や笛の音がなります。
『この音が鳴り終わったら、入れるよ。そんじゃあ、またね』
魔王トトリはふわっとあくびをすると、赤い光に包まれます。目がくらむような光に目をつぶります。光が収まり、目を開くと、魔王トトリの姿は光の粒となり消えていました。
「……あの魔王、何しに来たんだろう」
みつる君はぽかんとしています。橙花ちゃんは肩をすくめます。
「多分、昼寝でもしに来たんだと思う。ボクらと会ったのはたまたまじゃないかな」
「え? そんなことあるの? だって俺たち、敵なのに」
「魔王トトリはそういうところがあるんだ。本気出せば他の魔王に引けをとらないのに、やる気はないからね」
橙花ちゃんはなんとも釈然としないとばかりにため息をついて、杖を下ろします。
「それより気を付けなくてはならないのは、トリドリツリーの三羽烏の方だね」
カラスと聞いて、劉生君はびくりと体を震わせます。
「うっ、僕、カラス苦手……」
劉生君が二番目に苦手な動物です。
あのぎょろりとした目で睨まれたら身がすくみますし、横を通ってるときにカアっと鳴かれたら悲鳴を上げてしゃがみ込む気しかしません。
ちなみに一番苦手なのは、黒い大きな犬です。キャンキャン吠えられて逃げ惑い、なんやかんやでミラクルランドにたどり着いた思い出は今も色あせていません。
ビビっている劉生君に、吉人君は「違いますよ赤野君」と笑って首を横に振ります。
「三羽烏は、三羽のカラスという意味以外にも、組織の中で秀でた三人を表す言葉でもあるんです。蒼さんは後者の意味で使ったんですよね?」
橙花ちゃんは頷きます。まだよく分かっていない様子の劉生君は、おそるおそるたずねました。
「つまり、四天王の三人バージョン?」
「そういうことです」
「ということは、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の、レッド・ブルー・イエローってこと?」
「……そうなんじゃないですかねえー」
「なるほど! 分かったよ!」
劉生君は納得しました。橙花ちゃんは苦笑します。
「……まあ、ともかく、三羽烏っていう危ない魔物がいるから、そこは注意しておいてね」
ちょうど、鈴の音がぴたりとやみました。と、同時に、視界がぐにゃりと曲がります。なんだなんだと目をこすり、何度も瞬きをすると、目の前にたくさんの子供たちと鳥たちがああわれました。
葉っぱの代わりに鈴の楽器やハンドベル、カスタネットやマスカラが生えています。赤ちゃんが好きそうなガラガラだってあります。
子どもたちは楽器を摘むと、思い思いに楽器を鳴らしています。幹近くでは、三羽のスズメが歌を歌い、七羽の七面鳥が鉄筋をならし、九羽の九官鳥がリコーダーで演奏していました。
ジャンルもリズムもめちゃくちゃですが、それでも不思議と騒がしさは感じず、全ての音楽が調和しています。
ここが、魔王トトリが占める音楽の国。トリドリツリーでした。