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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
4章 音楽の大樹、トリドリツリー!―どんな思い出も、大切だから―
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6 到着! トリドリツリー! でも入れない……?!


青い空をかけ、劉生君たちはぐいぐい進みます。しばらくは草原の上を飛んでいましたが、数分経つと、下に広がる光景は木々が生い茂る森へと変わり、大樹に近づいてきました。


 さすが、大樹といわれているだけあって、近づけば近づくほどその大きさに圧倒されます。


 もし大樹が日本にあったら、「国内で一番高い木」とちやほやされることでしょう。マーマル王国のマーマル城もかなりの高さでしたが、木の枝や葉がある分、こちらの方が大きく感じます。


 木々や枝の間をすりぬけて、足場になる場所で着地します。


「ここが音楽の大樹、トリドリツリーだよ」


 橙花ちゃんが教えてくれました。


 けれども、劉生君たちの耳には音楽の一つも聞こえてきません。わずかに葉のこすれる音は聞こえますが、「これぞ自然の音色」と納得するほど悟りを開いていません。


 不思議そうに辺りを見渡していたからでしょう、橙花ちゃんが補足してくれます。


「トリドリツリーは国全体が魔法で閉ざされているから、それを解除しないと入れないんだ」

「あら、そうなんですね!」


咲音ちゃんはうっとりとします。


「絵本に出てくる魔法の国みたいですね! それで、どうやったら入れるんですか? ここは暗号や合言葉ですか?」

「トリドリツリーの魔物たちは歌を歌って入っているよ」

「まあ、歌ですか!」


 ファンタジーっぽい入り方に、咲音ちゃんは素直に喜びます。


「皆さんでお歌を歌うんですね! わたくし、お歌大好きなんです! はりきって歌いますよ!」


 やる気満々な咲音ちゃんでしたが、橙花ちゃんは申し訳なさそうに肩をすくめます。


「ごめんね、咲音ちゃん。ここに入るための歌は人間には歌えないんだ」

「あら、そうなんですね……」


咲音ちゃん、ちょっぴりしょんぼりします。


「それでは、わたくしたちはどうやって入るんですか?」

「いつもは強行突破してるよ」

「きょ、……強行突破ですか?」

「うん」


 あっさりと頷き、夢も希望もロマンもない解決方法を説明してくれました。


「この大樹にありったけの魔法をぶつけると、魔法の壁を壊せるんだ。結構な魔力を使うから大変だけど、みんながいれば時間はかからないと思う」


 黙ってしまった咲音ちゃんに代わり、吉人君はやれやれと言わんばかりに肩をすくめました。


「蒼さんの考える作戦って、物理で解決しようとしますよね。それはそれで分かりやすくていいと思いますけど」

「……うっ、やっぱそうなの? いや、実はね、君たちがミラクルランドに来る前に、友之助君から『蒼って意外と考えなしに動くよな』って言われてさ。それからは気を付けてたんだけど……」

「考えなしというより、脳筋ですかね? あ、いい意味で脳筋ですよ。いい意味で」

「……褒めてないよね?」


 二人が話をしている間に、リンちゃんと劉生君、みつる君は三人で大樹をしげしげと眺めていました。


「すごい大きいわねえ。木っていうよりも壁よ。……ちょっと触ってみてもいいかしら」

「ど、どうだろう。アラームとか鳴っちゃうかな」

「あんまり触らない方がいいんじゃない?危なさそうだし……」


 そう言いながら遠巻きに見ていると、気だるそうな声が聞こえてきました。


『触った程度で害はないよ。どこぞの時計塔でもあるまいし』

「わあ!?」「え!? どっから声聞こえた!?」

『そんなに驚かないでよ。めんどくさいなあ』


 葉の陰からのっそり出てきたのは、大きめの鳥でした。地味な色合いの鳥でしたが、クジャクのマントを体にかけています。


 その姿に、劉生君は見覚えがありました。息をのんで固まる劉生君に気付かず、リンちゃんは訝しげに鳥を見ます。


「クジャク? 本当なの? クジャクってもっとこう、きれいな色のはずでしょ?」


 みつる君は首をかしげます。


「うーん、待ってて。咲音っちに聞いてみる。おーい、咲音っちー!」


 動物好きな咲音ちゃんに尋ねると、すぐに回答をくれました。


「ああ、この子は女の子のクジャクさんですよ!」


クジャクといえば、目のような羽が半円状に広がっているイメージがありますが、実は綺麗な羽色を持っているクジャクは男の子だけなのです。


「女の子のクジャクさんは、この鳥さんみたいに地味な色合いなんです!」

「へえ、サッちゃんは詳しいわねえ」

「鳥が好きだから知っていただけですよ。こんにちは、クジャクさん!」

『どうも』


 ふわあ、とあくびをして羽を軽く羽ばたきます。


 クジャクは目が赤く、赤黒いオーラを背負っています。よく見ると、五角形の印が翼の裏についていますので、魔物であることは間違いありません、


 けれど、劉生君たちに襲い掛かってくることもなく、なんなら眠る態勢を整えています。みつる君はまじまじとクジャクを眺めます。


「この魔物は攻撃してこないんだね」

「きっといい魔物さんなんですよ!」


 咲音ちゃんは嬉しそうです。


「あ、そっか」リンちゃんは思い出したように手をたたきます。「サッちゃんとミッツンはトビビのこと知らないもんね。魔物のなかでも戦わない子もいるの」


 非戦闘タイプの魔物は、子供を攻撃してこず、むしろ仲良くしてくれます。フィッシュアイランドで出会ったトビウオのトビビも、劉生君だけでなく橙花ちゃんにも優しく接していました。


 きっとこのクジャクもトビビのような危なくない魔物でしょう。それなら、お願いしたらトリドリツリーに入れてくれるかもしれません。


「ねえ、クジャクー。トリドリツリーに入りたいんだけど」


 クジャクは煩わしそうにリンちゃんを見上げます。


『まだいるの?そもそも君たち誰?』

「あたしの名前は道ノ崎リンよ!」「わたくしは鳥谷咲音です」「俺は林みつる」


 みんなは順調に答えていますが、劉生君だけは固まったまま動きません。


「……リューリュー、どうしたの?」

「え、いや、その……」


 劉生君がが何か答える前にクジャクが静かに言います。


『君は、赤野劉生だね』


 先ほどまでは、気だるそうにしていましたが、劉生君の名を呼ぶその声は、どこか冷たい響きでした。眠たそうにしていた目も光が宿り、まとっていた空気もがらりと変わっていました。


『……なるほど。確かに妙な魔力を持っているね。気味が悪いほどに清く澄んでいる。傷一つもない、ガラス細工のような美しさ。しかし、あまりに神聖な力は、穢れをも生みかねない。果たして、君はこの世界の毒となるか、薬となるか』


 何やら急に難しいことを話し始めました。


 ここに吉人君がいれば、「あーはいはい。いわゆる、水清ければ魚棲まず的なあれですかね」と答え、「ちなみに水清ければ魚棲まずとは、中国のことわざでしてー」と解説しはじめるでしょう。


ついには、「では、少々難しいですが、ここで応用問題です。江戸時代に、『白河の清き流れに魚すまず、濁る田沼の水ぞ恋しき』と皮肉られた改革はなんでしょうか」なんて問題を出してくるに違いありません。


しかし、残念ながら吉人君は橙花ちゃんとおしゃべりして、こちらに注意を払っていません。


 そのため、誰一人何言っているか理解できず、一同ぽかんとしています。


(※ちなみに、吉人君クイズの正解は、「寛政の改革」です。皆様はお分かりでしたか?)


はてなマークが飛び交う子供たちの間を、クジャクは一歩、また一歩と近づいてきます。


『どちらにせよ、きみの力は、ウチの趣味に反する』


 クジャクは目を細めます。


『端的に言うと、君の魔力は好ましくない』

 

 劉生君の胸がざわめきます。早く逃げなくては。そう思った劉生君でしたが、ふと、自分の手に何かが握られているのに気が付きました。


「……え?」


 『ドラゴンソード』でした。白と赤を基調とした炎の剣を握り、クジャクの魔物に向けていたのです。


「ど、どうして……」


 『ドラゴンソード』は劉生君のベルトにはめており、指一本も触れた覚えはありませんでした。


それなのに、劉生君の手には、『ドラゴンソード』が握られていたのです。


 剣を戻そうとしても、まるで金縛りにでもかかあったかのように足が動きません。


 言うことの効かない体に当惑する劉生君。そんな彼を、クジャクは全て理解しているとばかりにじっと見つめていました。


『……どうやら君は、この世界にとっても毒となるようだね。……それなら、遠慮はいらない』


 クジャクの瞳が怪しく赤く輝きます。


 そのときです。青い角の女の子、橙花ちゃんが劉生君とクジャクの間に立ちふさがりました。


「劉生君から離れてくれない?」


 橙花ちゃんを見るなり、クジャクはほんのりと笑みを浮かべます。


『ん、青ノ君か。どうも。久しぶり』


 友好的なクジャクとは対照的に、橙花ちゃんは険しい表情で杖を向けています。


「もう一度言う。劉生君から離れて」

『相変わらず言い方がきついなあ』


 クジャクは降参とでも言いたげに翼を広げて、そのまま後ずさります。


「と、橙花ちゃん。この魔物と知り合いなの?」

「……うん。みんなには教えとくね」


橙花ちゃんはぎろりとクジャクをにらみ、こう言いました。


「彼女はトリドリツリーの魔王、トトリだよ」



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