4 どこにいるかな? 優しい女の子、聖菜ちゃん!
橙花ちゃんのテントから外に出ると、子供たちの笑い声がわっと聞こえてきました。魔法を使って遊んだり、かくれんぼをしたりしています。
友之助君は嬉しそうに目を細めます。
「ずいぶん活気が戻ってきたな」
「……うん、そうだね」
橙花ちゃんは足を止めてみんなを眺めます。最初に劉生君たちが来たときよりも活気にあふれています。
劉生君もみんなと一緒に遊びたいなあ、とソワソワしていると、
「なんだとオメー!」「やんのか!」「やめてよふたりとも!」
喧嘩しているようです。友之助君は頭をガシガシかきます。
「あー、また喧嘩か。ごめん、行って来る」「みおも行くー!」
「ボクも気になるから、ちょっと見てくるね」
劉生君たちも興味本位で、橙花ちゃんたちに付いていきます。
声をたどって向かうと、男の子二人が取っ組みあいの喧嘩をしていました。そばにいる女の子が止めようとしていますが、そんなものに目もくれず言い争っています。
「おい! お前ら!」
友之助君が割って入ります。
「何してんだ!」
「「友之助おにいちゃんっ。こいつが悪いんだ!」」
二人は自分が正しい、向こうが悪いと声高に主張します。けれど冷静になって聞いてみると、どっちもどっちって感じでした。
「いい加減にしろお前ら。喧嘩両成敗だ。ほら、二人ともごめんなさいしろ」
「いや! ぜってーしねえよ! だってこいつが悪いんだもん!」「なんだと!?」
さらに怒りが燃え上ってしまいました。これでは収集がつきません。
「うっ……。えっと……」
うろたえる友之助君を見かねて、橙花ちゃんが前に出ます。
「二人とも、落ち着いて。お願いながら、仲直りしてくれないかな」
「そんなのしないっ」「そうだそうだ!」
橙花ちゃんの言葉ですら、男の子たちの耳に入りません。
橙花ちゃんは少しの間困っていましたが、すぐに笑顔になります。
「君たちが笑顔にならないと、ボクの友達さんが悲しがっちゃうよ。ほら、」
ひょい、と杖をふると、白いハトが現れました。
「「わあ……!」」
男の子たちは目が真ん丸になります。
ハトたちは男の子たちの足元にとまると、ホーホーと物憂げに鳴きます。
「この子たちに免じて、仲直りしてくれる?」
橙花ちゃんの哀願に、子供達は握った拳を下ろしました。
「……まあ、蒼おねえちゃんの言うことなら……」
「仲直りしてもいいけど……」
橙花ちゃんはホッと息をつきます。
「よかった、ありがとうね」
二人の頭を撫でてあげると、男の子たちは恥ずかしそうに視線をそらします。
男の子たちはハトと遊びはじめました。
ひと安心して、橙花ちゃんはみんなのところに戻ってきました。
友之助君とみおちゃんは嬉しそうに橙花ちゃんを褒めたたえます。
「すげえな、蒼。あいつらの喧嘩をあんな簡単に止めるなんて」
「さすが蒼おねえちゃん! おねえちゃんの中のおねえちゃん!」
「たまたまだよ、たまたま。……やっぱり、聖菜ちゃんみたいにうまくはできないよ」
「……聖菜ちゃん?」
なぜか吉人君は敏感に反応しました。
「もしかして、村田聖菜ちゃんですか?」
「え? そうだけど……。知り合いなの?」
「あー、まあ、名前だけ……。人となりは知りませんよ。どんな子ですか?」
みおちゃんがハイハイっと手をあげて答えます。
「みおが教えてあげるよ! あのね、聖菜ちゃんは帰国子女なの! すっごく綺麗なの! それでね、すっごく優しいの! でもあんまりお喋りしないの。無口なの。だけど優しいの!」
みおちゃんに次いで、友之助君も教えてくれました。聖菜ちゃんは小学校三年生、綺麗な金髪の女の子です。無口で感情をあまり出さない子ですので、最初の方は少し不気味に思っていたようです。
「話してみたらな、そうは思わなくなったよ。すごいいいやつでさ。人の悪口も言わねえし、逆に誰かが喧嘩してたらすぐに止めに入るんだ。ムラのみんなも聖菜がいいやつだってこと知ってるからさ、喧嘩してる連中もすぐにやる気なくしちゃうんだ」
だからか、彼女がいたときは大きな喧嘩も起こることはありませんでした。
「懐かしいな。……もうずいぶん会ってない気がするな」
「……そうだね」
橙花ちゃんは悲しげにうつむきます。
「聖菜ちゃんは、魔王が本格的にボクら子供たちを攫い始めたときに捕まって以来、助け出せてないんだ。元気にしてるかなあ……。もし元気がなさそうだったら、そこの魔王を地獄の底に叩きつけよう……」
「蒼ちゃん、怖いわよ」
リンちゃんはすかさず突っ込みを入れます。
「けどさ、トリドリツリーだっけ? そこにいるんじゃないの? だってさ、子供がたくさん捕まってるのはそこだけなんだし」
フィッシュアイランドとマーマル王国で捕まっていた子供たちは既に解放済みです。そこにいないのならば、子供がたくさん捕まっている場所はトリドリツリーだけです。
「魔王倒すついでに探しましょっか! そうしましょう!」
「……そうだね。うん。そうしてもいいかな?」
「もちろん! ねーみんな!」
他の子も素直に同意します。
「そっか。……ありがとうね、みんな」
橙花ちゃんは嬉しそうに微笑むと、「雲の用意をしてくるから少し待ってて」といってどこかへ行きました。
橙花ちゃんの背中が見えなくなったのを確認してから、みつる君はこっそりたずねます。
「ねえ、鐘沢っち。その聖菜っちって子と知り合いなの?」
「いえ、知り合いではありません。……テレビで見たんです」
吉人君は声のボリュームを最大限引き下げます。
「……例の、眠り病患者の一人として」
「……っ」みつる君は息をのみます。「それじゃあ、本当に……!」
「眠り病とミラクルランドは密接な関係がある。これは間違いのない事実でしょうね」
「……それなら、助けてあげないとだね」
みつる君の言葉に、咲音ちゃんはうんうんと頷きます。
「ええ! 早く助けてあげて、聖菜さんとお友達になりたいですねえ」
「うん、そうだね。そのために、頑張って魔王を倒さないとね!」
「だねだね!」「うんうん!」
橙花ちゃんが来るまで、劉生君たちはやる気に満ち溢れ、わいわいとおしゃべりしていました。