3 どこに行こうか? みんなで作戦会議!
ここはミラクルランド、時計塔のムラ。
橙花ちゃんのお家で、劉生君が元気なさそうに呻っていました。
「そういうわけでさ、橙花ちゃん。今日はさんざんだったんだ……」
「そうなんだね……」
「というわけでさ、橙花ちゃん。留年、できない?」
「それは難しいかな……」
橙花ちゃんに断られてしまい、劉生君はテーブルに突っ伏します。
「ううっ、橙花ちゃんと宿題見せあいっこしたかったのにっ!」
「あはは……」
コーンスープをちびちび飲んでいたみおちゃんが、ぴょんぴょん跳ねながら挙手します。
「みお、見せあいっこしてもいいよ」
「ほんと! わーい、そうしよそうしよ!」
「うん! いいよ!」
友之助君は思わず「劉生、それでいいのか」と突っ込みました。
それが間違いだったのでしょう。友之助君にターゲットを変えて、「友之助君も是非とも留年してほしい」と懸命に訴え始めます。
「友之助君は小学校六年生だよね? 二個留年して、同じクラスになろーよー。なろーよー」
「あー……。劉生と一緒のクラスかあ。……うーん。別に嫌じゃねえけど、想像つかねえんだよな。けど、お前らと一緒のクラスだったら楽しいだろうな」
友之助君は口元を緩めつつ、「はいこれ」といって劉生君たちに飲み物を出してくれました。ホットミルクのようです。ほんのりと甘くて、ほっこりします。
「わーいありがと! 美味しいー」
「どういたしまして」
橙花ちゃんもお礼を言ってから、彼らの本題に入ります。
「みつる君と咲音ちゃんが仲間になってくれたことだし、改めて魔王の根城について整理しようか」
最初に劉生君たちが攻めたのは、魔王ギョエイが支配するフィッシュアイランドです。魚の魔物が大勢いる水中遊園地でした。
次に訪れたのは、食べ物の国マーマル王国です。先日、みんなが苦節のはてに魔王リオンを倒すことができました。
「残るはあと三か所だね。一つは爬虫類の魔王が支配する地底都市、レプチレス・コーポレーション。元々は発掘体験ができる面白い場所なんけど、今はちょっとね……。うん……」
橙花ちゃんは非常に言いづらそうに言葉を濁しますが、深く説明はせず、話を続けます。
「二つ目はアンプヒビアンズ。ここはコロシアムだね。たくさんの魔物たちが腕試ししてるよ。そして三つめが、音楽の大樹、トリドリツリー。魔王トトリが支配してるよ」
「……トトリ……」
ぽつりと劉生君は呟きます。あまりに小さな声でしたので、橙花ちゃんは気づかず話しを続けます。
「みんなにいい忘れていたけど、ミラクルランドの魔物は時間がたつと復活しちゃうんだ」
嫌な予感がして、吉人君はおそるおそる尋ねます。
「では、もしかして、魔王も復活してしまう、とかですか……?」
「うん、そうだね」
みつる君はびっくりして声を張り上げます。
「そうなの!? だったら、あのリオンもよみがえっちゃうの!?」
みんなの動揺をなだめるよう、橙花ちゃんは優しい口調で言います。
「心配しなくてもいいよ。すぐには復活しないから。けど、悠長に構えてもいられない。だから、すぐにどこかに向かおう。それで、次にいく場所だけど……」
ここで、みおちゃんが身を乗り上げて口を開きます。
「次にどこ行くか決まってないならさ、レプチレスとかどうかな! みお、知ってるよ。そこの魔王ってすっごく弱いんでしょ!」
「え? そうなのか?」友之助君はキョトンとします。「俺が聞いた話だと、一番弱いのはアンプヒビアンズの魔王じゃなかったか?」
リンちゃんがニコニコ笑って、手をあげます。
「それじゃ、間をとって魔王トトリが最強ってことで!」
「僕もそれに賛成です!」
吉人君もノリました。
「多数決で、魔王トトリが最強に決定しました!」「わーパチパチ!」
「……」
橙花ちゃんは頭を抱えます。
「……ひとまず、ボクの意見言ってもいい?」
みんなの了解を得たので、橙花ちゃんが意を決して話始めました。
「ボクはトリドリツリーがいいかと思ってる。魔王の強さというよりも、あっちの方が囚われてる子供が多いからね」
「あら、他のとこはそうでもないんだ」
「うん、そうなんだ」
五体いる魔物のうち、子供を積極的に捕まえようとしているのは、魔王ギョエイ・リオン・トトリの三体です。
レプチレス・コーポレーションの魔王とアンプヒビアンズにいる魔王は、それほど真面目に子供を攫っていませんので、この二体の下にいる子供たちの数は少ないのです。
「だから、できれば子供がたくさん捕まってるところから攻めていきたいんだ。どうだろう、みんな」
「あたしは別にいいわよー」「よく分かりませんしね」「鐘沢っちに同じく!」「みつるさんに同じくです!」
四人とも同意しましたが、ただ一人、劉生君だけは何も答えずに押し黙っています。みんなの視線が集まります。
「……劉生君?」
橙花ちゃんは不安そうにたずねます。
「どうかしたの?」
「え? あ、ううん! なんでもない、なんでもないよ!」
過去の世界について思い起こしていましたせいで、反応が遅れてしまったのです。
「僕も橙花ちゃんに賛成だよ! うん!」
「……何か気になることがあったら、遠慮なく言ってね?」
「うん! 大丈夫!」
こくこくと劉生君は頷きます。
「……そう」「……」
リンちゃんもちらりと劉生君を見ます。吉人君はおや?と思いました。普段のリンちゃんらしくはない、心配と疑いが入り混じった眼差しをしていたからです。
思えば、最近二人の仲がギクシャクしているような気がします。今日は劉生君が落ち込んでいましたので緩和していましたが、やっぱり仲直りできていないようです。
みつる君も、この微妙な空気を察して戸惑っていましたが、天然な女の子咲音ちゃんは何も気づかす、のほほんと質問をします。
「それでそれで、どうやってトリドリツリーに行くんですか?」
「あそこの入口は結構な高度の場所にあるからね。そうだな、雲を使って行こうか」
「あら! 素敵ですね!」
「それじゃあ、早速行こうか」
ひとまず話を終わらせ、みんなで橙花ちゃんのお家の外に出ることにしました。