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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
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41 問題の解決と、あらたな問題発生!


「……ふう……」


 振り返ることはできませんでしたが、リンちゃんはあまりいい気分ではないはずです。だからといって、魔王が見せる過去の世界のことを他の誰かに話すのは抵抗があります。


 魔王たちが過去の光景を劉生君に見せる理由はよく分かりません。よく分かりませんが、橙花ちゃんにしてみれば、劉生君たちに知ってほしくない記憶に違いありません。


 なんだって、魔王と仲が良かったことを橙花ちゃんは劉生君たちに教えてくれていません。それどころか、自分と魔王はずっと敵同士だと嘘をついているのです。


 仲違いした経緯が複雑だから、劉生君たちに言えないのかもしれません。そんな記憶をなかったことにしたかったから、言ってくれていないのかもしれません。


 どちらにしても、橙花ちゃんが言えない、言わないことを劉生君が勝手に他の子に話すのはあまりよくないことだと、劉生君は思っていました。


 だからこそ、リンちゃんに怒られるリスクを察しながらも、秘密にしてしまったのです。


「……けど、怒られるの嫌だなあ……」


 劉生君は内緒ごとなんて一切したことがなかったので、心がズンッと沈んでしまいます。

 

 やっぱり言っちゃおうかな、いやでも……。


 頭の中でぐるぐる悩んでいた劉生君ですが、


「劉生! 今日はパパがお寿司買ってきてくれたわよ!」


 お母さんの一言で沈んでいた気持ちがグッと上がりました。


「わあ! お寿司! おっすしおっすし!!」

「食べる前に手洗いなさいよ」

「はーいっ!」


 手を洗って、うがいをして、リビングにいきます。食卓には、劉生君のお父さんも座っていました。


「お父さん! ただいま!」

「おー、劉生。おかえり」

「今日は早いんだね!」

「ノー残業デーだからな」

「僕、ノー残業デー大好き! だって、お父さんとご飯食べれるもん!」

「そうかそうか。お父さんも嬉しいぞ」

「うん!」


 テーブルには色とりどりのお寿司が並んでいます。劉生君が大好きな玉子のお寿司と鉄火巻きもあります。


「わあ、おいしそう!」

「先に食べてていいぞ」

「あれ? でもお母さんは? 

「ポストに手紙入れに行ってるってさ」

「じゃあ、僕お母さん待つ。お母さんとお父さんと一緒に食べたいもん」

「そうか。えらいなあ、劉生は。お母さん思いだ」


 お父さんになでなでしてもらいました。劉生君は嬉しそうにニコニコします。


「そうだ劉生。今日はどこ遊びに行ってたんだ?」

「ミラクルランドだよ!」

「あー、最近よく行ってるらしいな、そこ」

「うん! 今日もね、すっごく大変だったの!」


 劉生君は精一杯お父さんにミラクルランドのことを喋ります。


「電柱も、道路も、全部食べ物で出来てるんだよ!」「ほう、そうなのか」

「そこの王様がすごい怖いライオンさんでね」「ほうほう」

「僕らはみんなで協力して敵を倒したの!」「そうか、すごいじゃないか」


 もちろん、お父さんはミラクルランドが本当の異世界だとは思っていません。何かしらのゲームか、はたまたごっこ遊びをしているだけだと思っています。


 それでも劉生君が嬉しそうにしているので、お父さんも顔をほころばせます。


「そんなに美味しいご飯を食べてきたなら、今日の寿司も腹に入らないかもなあ。それだったら、お父さんが劉生の分まで食べてやろう」

「入る! 入るもん! お父さんにあげないよ!」

「はっはっは、そうかそうか」


 そうこうしているうちに、お母さんが帰ってきました。「まだ食べてなかったの?」と驚くお母さんに、「一緒に食べたかったの」と言うと、お母さんはくすりと微笑みます。


「そう? それじゃあ、一緒に食べよっか」

「うん! それじゃ、いただきます!」

「「いただきます!」」


 劉生君はぱくりとお寿司を口にします。


 きっと、ミラクルランドのお寿司と比べると、味はあまり良くないのでしょう。しかし、劉生君は満面の笑みで、ミラクルランドでお寿司を食べている時よりも嬉しそうに頬張りました。



 ちょうどその頃、ミラクルランドにて、劉生君に負けず劣らず満面の笑みを浮かべて食事を頬張る子がいました。


 友之助君です。


 みおちゃんが作ったクッキーを感慨深そうにかじっています。


「そっかあ、みおが食べるのを楽しいって思ってくれるようになったんだな。そっか、そっか」

「もう、友之助おにいちゃんたら、ずっと同じこと言ってる」

「そりゃそうだろ。こうやって一緒にご飯食べるのが夢だったんだからさ。蒼もそうだろ?」


 橙花ちゃんはすぐに頷きます。


「そうそう。本当に良かった。これも劉生君たちのおかげだよ」

「本当になあ。それにしても旨いな、このクッキー。みおが作ったとは思えねえ」

「えへへ、すごいでしょ!」


 そう、彼らが食べているクッキーはみおちゃんお手製のものでした。


 みおちゃんは時計塔のムラに帰るとすぐに橙花ちゃんにこうお願いしてきたのです。「一緒にクッキー作りたい!」と。


 橙花ちゃんは快く引き受け、みおちゃんと一緒にクッキーを焼きました。出来立てほやほやのクッキーはムラにいるみんなに振る舞い、自分も美味しそうにパリパリ食べ始めました。


 この光景に友之助君がびっくり仰天。夢でもみてるのかと目をこすっていましたので、橙花ちゃんが事の詳細を教えてあげたのです。


 友之助君は素直に「よかったな」と喜びつつ、ちょっぴり悔しそうに唇を尖らせます。


「ほんと、あいつらすごいよな。みおの食べ物嫌いも直すなんてさ。俺も色々やったんだけどなあ……」

「劉生君たちは勢いがすごいからね」

「ほんとな。あいつら力もめっちゃ強いし。うらやましいよ。俺も頑張らないとなあ……」

「友之助おにいちゃんは弱っちいから、諦めなさい!」

「ひでーなおい!」


 二人がわいわい楽しそうにおしゃべりする中、橙花ちゃんはぼんやりと二人を眺めて、思案にくれます。


 劉生君たちがおかしなくらい魔力があることは、既に橙花ちゃんも理解していました。しかし、橙花ちゃんはそれが偶然の産物か、それとも劉生君たちがミラクルランドと適応しているからだと考えていました。


 しかし、劉生君が不思議な力を使って自分を救ってくれたあの時から、橙花ちゃんは考えを変えていました。


「……」


 一度、劉生君にじっくり話を聞いておかなくては。物思いにふけながら、橙花ちゃんはクッキーのはじっこを少しだけかじりました。

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