36 性格も悪いが、力も強い! 苦戦! 魔王リオン!
ぽかんとする劉生君に、巨大になった魔王のしっぽが襲います。
「う、わああ!」「リューリュー!」
リンちゃんが押し倒してくれたおかげで、間一髪のところで魔王の攻撃を避けられました。
魔王のしっぽが当たった場所は陥没していました。もしあそこにいたらと思うと、劉生君の背筋が凍りました。
「あ、危なかった……」
『一撃目で安心されては困るな』
魔王は含み笑いをすると、また高速で移動し、劉生君の背後をとりました。
『<メタボリックシンドローム>っ!』
今度は右の前足を巨大化させると、劉生君を踏みつぶそうと思いきり飛び掛かってきました。
「うぎゃあ! <ファイアーウォール>っ!」
炎の壁で防御してなんとか耐えましたが、魔王は容赦なく体重と力を込めてきました。炎の壁ごと劉生君をつぶそうとしているのです。
『ふっ、いつまで持つかな?』
「ぐうっ……!」
桁違いの魔力を持っているとはいえ、<ファイアウォール>はかなり力をもってかれてしまう技です。劉生君の額にも汗がたらりと垂れます。
「劉生君っ! このっ!」橙花ちゃんが杖をふると、魔王リオンはあっさりと劉生君から離れます。杖がむなしく空振りしました。
「くっ、どこに逃げた!」
『だから、オレサマは逃げるなんて真似はしない。戦略的撤退しているまでだぞ?』
すぐに魔王は姿を現すと、またもや劉生君を攻撃します。体の一部を巨大化する技、<メタボリックシンドローム>も使ってくるので、劉生君は反撃もできず翻弄されています。橙花ちゃんが助力しようとすると、魔王はすぐに高速で移動し、四方八方から劉生君を襲います。
これには劉生君もうめき声のような悲鳴を上げます。
「ううっ、全然倒せないっ!」
手も足もでない状況に、橙花ちゃんも歯を食いしばります。魔王リオンは防御が極端に弱いので、一撃さえ与えられればこちらの勝利に近づけます。しかしここまで逃げられては、その一撃すら入れられません。
「これじゃあ、劉生君が危ない。何とかしないと……っ!」
けど、どうやってやればいいのでしょうか。橙花ちゃんには思いつくことができません。
劉生君の体力もそのうち限界が来てしまいます。橙花ちゃんは焦りはじめました。
攻撃技を橙花ちゃんが使えていたらまた別だったのでしょうが、残念ながら彼女の魔法はすべて補助技です。さらに、橙花ちゃんの攻撃を防ぐためでしょう。地面に石ころの一つでも落ちていません。
これでは、何らかの飛び道具を投げ、橙花ちゃんが時を早める技、<ススメ>で攻撃することもできないのです。
どうしようか悩む橙花ちゃん。万策尽きたとついつい思ってしまいましたが、ある一人の子がくやしげにぽつりと呟きました。
「俺の力を使えば、あのライオンの動きも止められるのに……!」
「っ! みつる君、何か案があるの!?」
「え? まあ、でも、もう力が出ないから……」
「……いや、それなら大丈夫」
具体的な案を聞く暇はありませんし、今の橙花ちゃんは子供たちを共に戦う仲間としてみていたので、わざわざ詳細を聞こうとはしませんでした。
橙花ちゃんはみつる君の案に賭けてみることにしました。
「吉人君! みつる君に回復魔法をお願いできるかな!」
「分かりましたっ!」
吉人君はキャンディーの杖をみつる君に向けます。
「<ギュ=ニュー>!」
白いキラキラとした光がみつる君を包み込みます。みつる君は身体の奥底から力が湧きあがることを感じました。
「よし! これなら足止めできる! ……そのまえに、あの魔王の動きを止めなくちゃだけど……」
「わたくし、やってみますよ! まだ不思議な力を使えますから!」
「お願いできる?」
「ええ!」
やる気に満ちあふれている二人に、魔王リオンはゴミを見るような目を向けます。
『時計塔ノ君やそこにいるモヤシならまだしも、小さくか弱いお前らに後れを取るオレサマではない。おとなしくしてればいい。痛い思いはしたくないだろ?』
明らかに咲音ちゃんたちを下に見ています。それでも咲音ちゃんは笑顔を崩しません。
「わたくしたちの力があれば、大きな大きなライオンさんも倒してしまいますよ。それでは、いきますよお」
図鑑をぺらりとまくり、咲音ちゃんは優しくささやきます。
「おいで、わたくしの大好きな子、<イワシ>さん!」
本は桃色に輝くと、白銀の魚が本から飛び出してきました。魚たちは波のように魔王リオンに襲い掛かります。
魔王リオンはめんどくさそうに軽く舌打ちをします。
『数でオレサマを倒すつもりか? ふん。そんなもんで、このオレサマが倒せるとでも?』
リオンはぎろりと魚の大軍をにらむと、大きく息を吸いました。
『あまりこの技は使いたくなかったが、仕方ない。自分の身のほどをしっかりとわきまえろ。<コレステロール>っ!』